チンピラ隊の活躍
そのときへいの外には、三人のチンピラ隊が待ちかまえていました。チンピラたちは、進一君の叫び声をきいたのです。
「ユリ子人形を、つかまえてくれ。」
とは、いったい、どういういみなのかと、ふしんに思いましたが、しかしカンのいいチンピラたちには、すぐにさっしがつきました。ユリ子人形は、いまに、この道路へ逃げだしてくるだろうと、へいの外の地面に身をふせて、待ちかまえるのでした。
むこうのへいの上に、黒いかげが動きました。そして、またしても、進一君の叫び声がしたかと思うと、その黒いかげが、パッと地面にとびおりました。
ユリ子人形はふり袖を着ていると聞いていたのに、この少女は黒い洋服のようです。長いあいだまっ暗なところにいて、やみに目がなれているので、チンピラたちには、それがよくわかりました。
「へんだなあ。あれ、ユリ子人形だろうか?」
「だって、へいからとびおりたんだから、まちがいないよ。」
「じゃあ、あいつを、つかまえようか。」
「もちろんさ。」
チンピラたちは、そんなことをささやきあったかと思うと、地面にふせていたのがパッと立ちあがり、恐ろしいいきおいで、少女のそばにかけよりました。
少女はへいからとびおりて、ちょっと、ころんだものですから、たちまち、チンピラたちにつかまってしまいました。
「あらっ、あんたたち、あたしをどうしようっていうの。まあ、きたないこじきの子どもじゃないの!」
少女は、らんぼうなことばで、チンピラたちをしかりつけました。そして、ふりはなして、逃げだそうとするのですが、どうして、はなすものではありません。
「なにい、こじきだってばかにするねえ。おいらは少年探偵団の別働隊で、チンピラ隊っていうんだ。明智先生の弟子だぞっ!」
三人のチンピラは、口ぐちに、そんなことをわめきながら、少女の上にのしかかって、組みふせてしまいました。
そのときです。とつぜん、やみの中から太い声が聞こえてきました。
「こらっ、チンピラども、その子をいじめると、しょうちしないぞっ!」
びっくりしてふりむくと、そこに、ボーッと、大きな男の姿が、立ちはだかっていました。黒いセーターをきた男です。
「あっ、てめえ、どこのやろうだっ!」
チンピラのひとりが、どなりかえしました。
「なまいきいうな。さあ、その子をはなせっ。」
男は、いきなりそばによると、チンピラの手をつかんだり、首をつかんだりして、ひとりずつ、地面になげつけました。
「ワーッ、いてえ!」
「てめえ、悪者のなかまだなっ! 逃がすものかっ。」
なげられても、チンピラたちは起きあがって、男にむしゃぶりついていくのでした。
しかし、男はひどく力が強くて、チンピラ三人ではとてもかないません。みんなひどくなぐりつけられて、へたばってしまいました。
「ざまあみろ。もう動けないだろう。それじゃ、あばよ!」
男はにくまれ口をのこして、少女をひったてると、その手をとって、やみの中へ逃げさってしまいました。
そのときになって、やっと門のほうから、神山さんと進一君がかけつけましたが、もうあとのまつりでした。ユリ子人形にばけていた少女を、ついにとり逃がしてしまったのです。
× × ×
そのころ、宝冠のつつみを持った男の自動車は、世田谷区のはずれの、さびしい原っぱの中にある、古い西洋館の前にとまっていました。
男は、白い四角なふろしきづつみを、だいじそうにかかえて車をおりると、運転手になにかささやいてから、その西洋館の門の中へ、はいっていきました。
それは赤れんがの二階建ての西洋館で、よほどむかしに建てられたものとみえて、西洋のばけものやしきみたいな、ぶきみな、ものです。
へいはこわれ、門の鉄のとびらはいびつにゆがみ、ツタにおおわれた西洋館は、やみの中に、やみより黒い巨大な怪物が、うずくまっているような感じでした。
門のとびらがこわれているので、かぎがなくても、自由にはいれるのです。男が門の中に消えると、自動車のうしろのトランクが、しずかに開いて、中からひとりの若ものが、はい出してきました。男の子の服をきたマユミさんです。やっぱりマユミさんが、トランクにかくれていたのです。マユミさんは、なにか四角な白いつつみを、こわきにかかえています。おやっ? これはどうしたというのでしょう。さっきの男が持っていた白いつつみと、そっくりです。
マユミさんは、いつのまに、こんなつつみを手にいれたのでしょう。あの男から、とりかえしたのでしょうか。いや、そうではありません。さっきの男も、たしかに同じようなつつみをかかえていました。
ごらんなさい。あの男は、赤れんがの西洋館の入口に立って、かぎでドアを開いています。そこの石だんの上に、ちゃんと、白いつつみがおいてあるではありませんか。