地底のジャングル
「おい、きみは何者だ。男の服をきているが、どうも女らしいね。ああ、わかったぞ。明智探偵の助手に、マユミという少女がいると聞いたが、きみはそのマユミだろう。宝冠のつつみをすりかえたのもきみにちがいない。え、そうだろう? さあ、はくじょうしたまえ。」
西洋悪魔が、恐ろしい顔になって、せめたてるのです。
マユミさんは、どう答えたらいいのかわからないので、だまって、あいてをにらみつけていました。
「答えられないかね。それじゃ、おれのいったことが、あたっていたんだね。きみの顔に、そう書いてあるよ。ウフフフフ……まあいい。せっかくきてくれたんだから、おもしろいものを見せてあげよう。きみのびっくりするようなものだよ。そして、まあ、とうぶんここに、滞在するんだね。え、わかったかね。きみはもう一生、明智探偵のところへは帰れないのだよ。」
ことばはおだやかですが、じつに恐ろしいいみがこもっていました。西洋悪魔は、マユミさんを、いつまでも、この家にとりこにしておくつもりなのです。
「さあ、こっちへきたまえ。おもしろいものを見せてやる。おれは美術家だからね。人形も作るし、そのほか、いろいろなものを作る。そして、おれの作ったものには、みんな、たましいがはいって動きだすのだ。さっきのロボットも、やっぱり、おれが作ったものだよ。」
西洋悪魔は、そういって、マユミさんの手首を、ギュッとにぎりました。まるで鉄でしめつけられるような恐ろしい力です。ふりほどくことなど思いもよりません。
ぐんぐんひっぱられるままに、マユミさんは立ちあがって、そのあとからついていきました。
ドアの外の廊下に出て、むこうがわのドアから、べつの部屋にはいりました。
「しばらく、ここに待っていたまえ。いまにきみを、いいところへ案内してやるからね。」
西洋悪魔はそういって、ピシャンと、ドアを閉めると外からかぎをかけて、どこかへいってしまいました。
マユミさんは、ドアのそばに立って、部屋の中を見まわしました。なんのかざりもない、がらんとした部屋です。まん中に大きなテーブルが、ひとつおいてあるばかりです。そのテーブルのむこうに、ひとりの男がいすにかけていました。
みょうな男です。まっかな背広をきて、恐ろしくでっかい、みどり色のちょうネクタイをしています。頭の毛は、西洋人のように茶色で、ふさふさして、顔は、あぶらでもぬったように、てらてらと光っています。そして、茶色のモジャモジャしたまゆげの下に、まんまるな目が、じっと、こちらを見ているのです。
気味のわるいことに、その目が、こちらを見たまま、すこしも動きません。まばたきもしないのです。いや、目ばかりではなく、からだぜんたいが、まるでミイラのように、ちっとも動かないのです。
マユミさんは、なんだかゾーッとして、逃げだしたくなりました。しかし、逃げるところがありません。たった一つのドアに、さっき、西洋悪魔が、かぎをかけていってしまったからです。
「きみ、こちらへきたまえ。」
子どものような、かんだかい声が聞こえました。テーブルの男がいったのでしょう。しかし、口はすこしも動きません。目も動きません。
まるで腹話術でもやっているような感じです。
マユミさんが、へんじもしないでつったっていますと、その男は、また、同じことをくりかえしました。
「きみ、こちらへきたまえ。」
それを聞くと、マユミさんは、なんだか、大きなじしゃくに引きよせられるような気がしました。歩きたくないと思っても、しぜんに、足が前に出るのです。
そして、テーブルのほうへ、三足ほど進みますと、
「えへへへへ……。」と、なんともいえない、へんてこな笑い声が聞こえました。テーブルの男が、目も口も動かさないで笑ったのです。その笑い声がまだおわらないうちに、恐ろしいことがおこりました。
マユミさんの立っている足の下の床が、なくなってしまったのです。
マユミさんは、一瞬、からだが宙に浮いたかとおもうと、スーッと、深い深い谷そこへ落ちこんでいくような気がしました。そして、どしんと、しりもちをつきました。
マユミさんの歩いていた床板が、落とし穴になっていて、そのふたが、開いたのです。それで、からだが、宙に浮くような気がしたのです。その下に、すべり台のようなものがついていて、マユミさんはその上をすべって、地下室に落ちたのでした。
上の部屋のテーブルのむこうにいた気味のわるい男は、西洋悪魔が作った人形で、あの声は、テープレコーダーの声だったかもしれません。人形は、「こちらへきたまえ。」といって、マユミさんを、落とし穴の上まで、歩かせるだけの役目だったのでしょう。
地下室は、ひどくうす暗くて、目がなれるまでは、なにがなんだかよくわかりませんでしたが、やがて、ぼんやりと、あたりが見わけられるようになりました。
そこは、森のようなところでした。家の中に森があるなんてへんですが、大きな木が立ちならんでいるのですから、森にちがいありません。写真で見た南洋のジャングルのような、ものすごい森です。
マユミさんは、夢を見ているのではないかと思いました。地下室に森があるなんて、ふつうには考えられないことです。