おばけの木
ジャングルには、見たこともないような、みょうな木がしげっています。枝ではなくて、ふといつるがむやみにのびて、おたがいに巻きつきあっているのです。木の葉は、みんな恐ろしく大きく、まっさおな巨人のうちわのような形や、ふつうのシダを千倍にしたような形のものなどが、ウジャウジャと、かさなりあっているのです。
そんな、おばけのような木の葉のしげったむこうに、チラッと、まっかなものが見えました。その色が、あんまりあざやかなので、火が燃えているのではないかと思ったほどです。
マユミさんは、あっけにとられてしまいました。そして、とりこになったこともわすれて、そのジャングルの中を、見てまわりたいような気持になりました。
そこで、しりもちをついたおしりをさすりながら、おずおずと、ジャングルの中へはいっていきました。
ヘビのようにもつれている、つるのような木の枝や、巨大な木の葉のあいだを、くぐって歩いていきますと、さっきの、まっかなもののそばにきました。
それは、びっくりするほど巨大な赤い花でした。ユリの花を千倍にしたような形です。それを見ると、マユミさんは、じぶんが十センチぐらいのこびとになったような気がしました。その巨大な花を、ふつうのユリの花とすれば、マユミさんは、チョウくらいの大きさなのです。
ふと気がつくと、背中のほうで、ごそごそ動いているものがありました。なんだか人間の手のようです。ギョッとしてふりむくと、ふとさ五センチもあるような長いつるが、ヘビのように、マユミさんに巻きつこうとしているのです。
びっくりして逃げようとしましたが、そのつるは、まるで生きもののように、とっさにパッとのびて、あっというまに、マユミさんのおなかを、ひと巻きしてしまいました。
恐ろしい力です。一度巻きつけば、もうはなすものではありません。つるは、ぜんまいのように、くるくると、木のみきのほうへちぢんでいって、あっというまに、マユミさんを、空中につりあげてしまいました。
マユミさんは、手足をばたばたやって、のがれようとしましたが、ぐんぐん、上につりあげられるばかりです。
マユミさんは、いつか本で読んだことがあります。南洋のジャングルの中には、恐ろしい木があって、つるで人間を巻きこんで、たべてしまうというのです。人をくう木です。
これはきっと、その、人をくう木にちがいないと思いました。
「助けてえ……。」
マユミさんは、空中でもがきながら、悲鳴をあげました。すると、
「えへへへへへ……。」
と、ジャングルにひびきわたる、恐ろしい笑い声がおこりました。おばけの木が笑ったのでしょうか。その木は、ふたかかえもあるふといみきで、その上のほうに、なんだか、人間の顔みたいなものがありました。木のみきのしわが、目や、鼻や、口に見えるのです。
あの口が、ガッとひらいて、いまにも、くわれてしまうのではないかと、生きたここちもありません。
「えへへへへ……。まあ、ゆるしてやるよ。この森には、まだ、いろいろとおもしろいものがあるから、ゆっくり、見物するがいい。」
そんな声がしたかと思うと、木のつるがずっと下にさがって、マユミさんを地面におろし、巻きついていたのが、くるくると、はなれてしまいました。