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魔法人形-最后的王牌
日期:2021-10-21 18:08  点击:308

さいごの切り札


 黄金のトラは、ほんとうのトラではなかったのです。トラの毛皮の中に、人間がはいっていたのです。あのうなり声は、毛皮の中に、なにかそんな音を出す笛が、しかけてあったのでしょう。口がひらくのも、ちょうつがいになっていて、中の人間が、口でそれを動かしていたのにちがいありません。
 すっかり毛皮をぬいでしまったのは、しらがの老人でした。どこかに、見おぼえがあります。ああ、そうだっ! 赤堀鉄州老人です。小林君が少女にばけて、おばけやしきにのりこみ、よろいびつにかくれていると、外から釘をうちつけてしまった、あのよっぱらいじいさんです。じいさんは、明智探偵の弟子になりたいといっていましたが、いつのまにか、こっそり弟子入りをして、明智探偵の手だすけをするようになっていたのでしょう。
 赤堀じいさんは、たおれている西洋悪魔をにらみつけて、どなりはじめました。
「こら、きさま、よもや、おれの顔を、わすれやしまい。きさまは、この赤堀鉄州の名まえをかたって、木の宮運送店にルミちゃん人形を、甲野さんのところへとどけさせただろう。西洋悪魔に姿をかえているが、きさまは、あの人形じいさんにきまっている。わしを焼き殺そうとした、あの人形悪魔だっ。
 わしは、そのうらみをはらそうと思って、明智先生に弟子入りした。そして、ここにいるポケット小僧の手びきで、明智先生といっしょに、ここへしのびこんできた。
 きさまの計略は、ポケット小僧が、みんなさぐり出していたんだ。だから、きさまの手下がこのトラの毛皮をきて、ここへあらわれるということもちゃんとわかっていた。
 そこで、明智先生が先手をうって、この毛皮の中にはいっていたきさまの手下をひっとらえ、しばりあげて穴の奥にころがし、かわりに、わしが毛皮にはいって、ここへあらわれたのだ。
 ワハハハハ……、ざまを見ろ。わしは、とうとううらみをはらしたぞ。ああ、わしはせいせいした。こんな気持のいいことはない。ワハハハハ……、やい人形悪魔め、おもいしったかっ。」
 赤堀老人はそういって、たおれている西洋悪魔を、思いきり、けりとばすのでした。
 これで、ポケット小僧が、へいきな顔をしていたわけがわかりました。明智探偵や赤堀老人を、ここへ案内したのは、ポケット小僧だったのです。
「ちくしょうめ!」
 西洋悪魔は、むくむくと起きあがり、恐ろしい顔で、ポケット小僧につかみかかろうとしました。
 それを見ると、明智探偵がつかつかと前に出て、西洋悪魔をつきとばしました。
「おい、じたばたしないで、もう、かんねんするがいい。きみの秘密は、なにもかも、みんなわかってしまったのだ。」
 西洋悪魔は、ほら穴の壁に背中をくっつけて、明智をにらみかえしながら、
「なに、おれの秘密だと。ワハハハハ……、きさまに、それがみんなわかってたまるものか。おれのほうには、奥の手があるんだぞっ。」
「その奥の手も、わかっている。もう運のつきだと思うがいい。」
 明智はしずかに、いってきかせるのでした。
「地の底に、これだけのしかけをつくったのは、さすがに人形悪魔だ。しかし、種をわってみれば、みんな子どもだましにすぎない。あのジャングルは、ひじょうに広いように見えるが、あれはパノラマ館のしかけで、ほんとうの木は、わずかしかないのだ。あとはみんな、壁にあぶら絵がかいてあるのだ。光線のぐあいで、その絵とほんものとのさかいめが、わからないようにしてあるので、あんなに広く感じられるのだ。きみのとくいの奇術にすぎない。
 大ワシや大トカゲも、てんじょうから、目に見えないような細いじょうぶなひもで、つってあったのだ。それを、あやつり人形のように動かして、さも、生きているように見せかけたのだ。木のみきが怪物の顔に見えたのも、木そのものが、はりこの作りものだから、わけのないことだ。声は、みんなテープレコーダーだよ。ハハハハ……、種をあかせば、子どもだましじゃないか。
 きみが人形じいさんになって、いろいろな人形や動物をつくり、世間をおどろかそうとしたのは、なんのためだ。それは、金や宝石をぬすむためにもつかわれたが、もっとほかに、目的がある。」
「フフン、それをきさまが、知っているのか。」
 西洋悪魔は、にくにくしくいいはなちました。
「きみの目的は、世間をあっといわせたかったのだ。世間の中でも、このぼくを、あっといわせたかったのだ。なぜかというと、きみはぼくに、たびたび、ひどいめにあっている。そのうらみが、はらしたかったのさ。それほどぼくをうらんでいる男、また、世間をあっといわせてよろこぶ男は、ほかにはない。え、きみ、きみのほんとうの名をいってやろうか。」
 明智は、そこでことばをきって、にこにこと笑いました。すると、西洋悪魔は、まるで神さまの前に出たほんとうの悪魔のように、両手で顔をかくして、逃げだそうとしました。
「待てっ、きみのほんとうの名は、怪人二十面相だっ!」
 ピシッと、むちでうつような名探偵の声でした。西洋悪魔は、顔をおさえたまま、ギョッとしたようにたちすくみました。しかし、すぐに気をとりなおして、顔から手をはなすと、血ばしった目をカッとひらいて、明智探偵をにらみつけるのでした。
「きさま、またしてもおれを、ひどいめにあわせやがったなっ。よし、もうこうなれば、さいごの切り札だっ。いまに見ろっ。」
と叫ぶやいなや、パッと走りだしました。ほら穴の奥にむかって、矢のようにかけ出したのです。
「それっ」というので、明智探偵も、中村警部も、ふたりの警官も、小林少年も、そのあとを追いました。ところが、ポケット小僧だけは、みんなとはんたいの方角に走りだしたではありませんか。ポケット小僧は、いつでも、いがいなことばかりやる少年です。はんたいの方角というのは、つまり、ほら穴の入口のほうへもどっていくわけです。いったい、なにをしにいくのでしょうか。
 こちらでは、明智探偵たち五人が一生けんめいに追っかけましたが、西洋悪魔の二十面相は、もう死にものぐるいですから、その早いこと。なかなか追っつけるものではありません。
 二十面相は、ほら穴の奥の部屋のようなところへ、逃げこみました。逃げこんだかと思うと、そこが、パッと明るくなりました。二十面相は、燃えるたいまつをふりかざしているのです。そこにたいまつが用意してあって、いつのまにか、ライターで、それに火をつけたのです。
「ワハハハハ……、さあ、おれのさいごを見てくれ。そのかわり、きさまたちも、みんな死んでしまうのだ。この地下道も、ジャングルも、その上にたっている西洋館も、みんな、吹っとんでしまうのだ。」
 二十面相は、気ちがいのようにわめきました。たいまつの赤い火に照らされて、西洋悪魔の顔が、赤おにのように恐ろしく見えます。
 たいまつを、ぐるぐるふりまわしているその下に、一つの大きなドラムカンがおいてあります。
 あっ、たいへんです。きっと、あのドラムカンは、火薬がいっぱいつまっているのでしょう。二十面相は、その中へたいまつを投げこむつもりです。そうすると、火薬が爆発して、なにもかも、こっぱみじんになってしまうでしょう。
「さあ、かくごしろ。みんないっしょに死ぬんだぞっ。」
 それを聞くと中村警部も警官たちも、まっさおになってしまいました。とびかかって、たいまつをもぎとろうにも、そのひまはありません。一歩ふみ出せばあいつはきっと、たいまつを投げこむでしょう。それを思うと身うごきもできません。
「ワハハハハ……。」
 なにがおかしいのか、明智探偵がいきなり笑いだしました。中村警部たちは、びっくりしてその顔を見つめます。明智は気でもちがったのではないかと、うたがったのです。
「ワハハハハ……、投げこんでみたまえ。シュッと音がして、火が消えてしまうよ。おい、二十面相、ぼくは、きみの秘密はすっかり知っているといったじゃないか。むろん、その火薬の秘密も知っていたのだ。だから、火薬に水を、たっぷりかけておいた。見ろ! そのドラムカンの中は水びたしだ。きみのさいごの切り札は、すっかりだめになってしまったのだ。」
 それを聞くと、二十面相はギョッとしたように、たいまつの火で、ドラムカンの中をのぞきました。明智のいったとおり、その中は水びたしです。
 二十面相は、もう、ものをいう力もなく、へなへなと地面にうずくまってしまいました。
「それっ。」というと、ふたりの警官が、とびついていきました。たちまち手錠がはめられ、そのうえ用意の縄で、ぐるぐる巻きにしばられてしまいました。
 そこへ、ポケット小僧をさきにたてて、おおぜいの少年がかけつけてきました。その中にマユミさんもまじっています。
「あれが二十面相だよ。明智先生は、とうとう、二十面相をつかまえてしまったんだよ。」
「ワーッ、すてき。明智先生ばんざーい!」
 いちばんおくびょうもののノロちゃんが、まっさきに叫び、みんなも、それにあわせて、高らかに、明智先生と少年探偵団のばんざいを、となえるのでした。


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