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妖怪博士-奇怪的老头
日期:2021-10-25 23:48  点击:289

奇怪な老人


 空いちめん、白い雲におおわれた、どんよりとむしあつい、春の日曜日の夕方のことでした。十二、三歳のかわいらしい小学生が、麻布(あざぶ)六本木(ろっぽんぎ)に近い、さびしい屋敷町を、ただひとり、口笛を吹きながら歩いていました。
 この少年は、相川泰二(あいかわたいじ)君といって、小学校の六年生なのですが、きょうは近くのお友だちのところへ遊びに行って、同じ麻布の笄町(こうがいちょう)にあるおうちへ帰る途中なのです。
 道の両がわは大きなやしきの(へい)がつづいていたり、神社の林があったりして、いつも人通りのすくない場所ですが、それが、きょうはどうしたことか、ことにさびしくて、長い町の向こうのはしまで、アスファルトの道路が、しろじろとつづいているばかりで、人の影も見えないのです。
 空はくもっていますし、それにもう日暮れに近いので、泰二君は、なんだかみょうに心ぼそくなってきました。口笛を吹きつづけているのも、その心ぼそさをまぎらすためかもしれません。
 ところが、足早に歩いていた泰二君は、とある町かどをまがったかと思うと、ハッとしたように、口笛をやめて立ちどまってしまいました。
 みょうなものを見たようです。二十メートルほど向こうの道のまんなかに、ひとりのぶきみな老人がうずくまって、みょうなことをしているのです。
 老人は映画に出てくる西洋の乞食(こじき)みたいなふうをしていました。長いあいだ床屋に行ったこともないような、モジャモジャのしらが頭、顔中をうずめた白いほおひげ、あごひげ、身には、くず屋のかごの中からでも拾いだしたようなボロボロの古洋服を着て、靴下もない足に、やぶれ靴をはいています。
 その乞食のような老人が、道路のまん中にうずくまって、はくぼくで地面に何か書いているのです。
 泰二君は、「おかしいな。」と思ったものですから、町かどに身をかくすようにして、ソッと見ていますと、老人は地面に何か書きおわると、立ちあがって、うさんらしくキョロキョロとあたりを見まわし、そのまま向こうへ歩いていきます。
 泰二君は老人の立ちさるのを待って、その場所へいき、何を書いたのかと、地面のアスファルトの上をながめましたが、そこには直径八センチほどの丸の中に、十字が書いてあって、その十字の一本の棒のはしに矢のしるしがついているのです。
 年よりのくせに、こんなみょうないたずら書きをするなんて、あのおじいさん、気でもちがっているのかしらと、向こうへ遠ざかっていく、そのうしろ姿を見ますと、どうしたというのでしょう、向こうのまがりかどで、老人がまたうずくまっているではありませんか。そして、まえと同じように、地面へ何か書いているのです。
 相手がそこを立ちさるのを待って、いってみますと、やっぱり同じ丸の中に十字です。そして、一本の棒のはしに、方角を示すような矢のしるしがついています。
「へんだぞ。ひょっとしたら、あのじいさん、何か悪だくみをしているんじゃないかしら、仲間に何かあいずをするために、こんな暗号みたいなものを書いて歩いているのかもしれない。」泰二少年は、ふと、そんなふうに、うたがってみないではいられませんでした。
「よしッ、ひとつ、あのじいさんのあとをつけてみてやろう。」そう心につぶやいて、少年は相手にさとられぬように注意しながら、ソッと尾行をはじめました。
 読者諸君は、小学生の泰二君が、こんな探偵みたいなまねをするのはへんだとお考えでしょうね、しかし、これにはわけがあるのです。
「怪人二十面相」や「少年探偵団」をお読みになった諸君は、よくごぞんじでしょうが、名探偵明智小五郎(あけちこごろう)の少年助手小林芳雄(こばやしよしお)君が団長となって、小学生十人ほどで組織している、少年探偵団という団体があるのです。そして、相川泰二君も、じつは、その少年探偵団員のひとりなのです。
 そういうわけですから、何か犯罪に関係のありそうなものに出あいますと、ついその秘密をさぐってみたくなるのも、むりのないことだったのです。
 さて、見えがくれに尾行をつづけていきますと、(かい)老人はそれとも知らず、ますますさびしい屋敷町へと、テクテク歩いていきましたが、みょうなことに、町かどへ来るたびに、かならず地面にしゃがむのです。そして、前後を見まわしながら、はくぼくで、例の丸に十字の符号みたいなものを書くのです。
「やっぱり、あいつあやしいやつだ。町のまがりかどに来るたびに、あの符号を書くのをみると、きっと仲間の悪者に、どこかへの道順を知らせるためにちがいない。」泰二君は心の中でつぶやきながら、いよいよねっしんに尾行をつづけました。
 老人と泰二君とは、それから五つの町かどをまがりました。つまり丸に十字の符号が五つ書かれたわけです。ところが六つめの符号は、町かどではなくて、一軒の洋館の門の前の地面にしるされました。
 泰二君は、その町は今まで通ったことがなく、その洋館もはじめて見たのですが、これが今の東京にある建物かしらと思われるような、ひどく古めかしい、なんだか一世紀もむかしの西洋の物語にでも出てくるような洋館でした。
 ずっと赤いれんが塀がつづき、その中ほどのこけのはえた石の門に、唐草(からくさ)もようになった鉄のとびらがしまっています。その中にある建物は、同じ赤れんがの二階建てで、三角形にとんがった屋根には、むかしふうな四角い暖炉(だんろ)のえんとつがニューッとつきだしています。窓は小さくて数もすくなく、家の中はさぞうす暗いだろうと思われるような、陰気なうすきみの悪い建築です。
 そのれんが塀のかどに身をかくして、じっとようすをうかがっていますと、怪老人は、その石門の前の地面にうずくまって、ねっしんに例の符号を書いていましたが、それを書きおわって立ちあがると、またあたりをジロジロと見まわしてから、唐草もようの鉄のとびらに近づき、それを細めにひらいて、洋館の門の中へ、しのびこむように消えていきました。
「いよいよへんだぞ。あんなきたない乞食じいさんが、このりっぱな洋館に住んでいるはずはない。しのびこんで何かぬすむつもりじゃないかしら、それとも、もっとおそろしいことをたくらんでいるのかもしれないぞ。」泰二君はそう考えますと、もう心配でたまらなくなりましたので、急いで門の前に近づき、とびらの唐草もようのすきまから、中をのぞきこんでみました。
 すると、ああ、どうでしょう。案のじょう老人は悪者でした。洋館の外を右がわへまわって、そこの窓をよじのぼっているではありませんか。家人(かじん)にさとられぬよう、部屋の中へしのびこもうとしているのです。
「ああ、たいへんだ。どうしようかしら。」と泰二君がまよっているうちに、怪老人の姿は窓の中へ消えてしまいました。中で何をしているのかと思うと、もう気が気ではありません。
 おまわりさんに知らせるのがいちばんいいことはわかっていました。でも、遠くの交番までかけだしているうちに、老人は目的をはたして逃げだしてしまうかもしれません。
「そうだ。玄関のベルをおして、ここの家の人に知らせてあげよう。」泰二君はとっさに心をきめて、ソッと門のとびらをひらくと、足音をたてぬように気をつけながら、正面の玄関へかけあがっていきました。
 呼びりんのボタンをさがしますと、入り口の柱の上のほうについていることがわかりましたので、背のびをして、いっしょうけんめいそれをおしつづけました。
 ところが、いつまでおしていても、だれも玄関へ出てくるようすがありません。ひょっとしたら呼びりんの電線が切れているのかもしれないと思って、こんどは、玄関のドアをおしたり引いたりしてみましたが、かぎがかけてあるらしく、ビクとも動かないのです。家の人はるすなのかもしれません。
 門の外をふりかえって助けを求めようとしても、人通りはまったくありませんし、泰二君はこまってしまいました。といって、このまま賊を見のがして立ちさる気にはどうしてもなれません。名誉ある少年探偵団の名折(なお)れのようにさえ考えられるのです。
 しかたがないので、少しうすきみ悪くは思いましたけれど、思いきって怪老人のしのびこんだ窓の外へまわってみることにしました。
 相手にさとられてはたいへんですから、背をかがめ、足音をしのばせて、まるで、はうようにして、その窓の外まで、やっとたどりつきました。
 しかし、立ちあがって窓の中をのぞくのは、なかなか勇気のいる仕事です。もし窓の中の怪老人がこちらを見ていたら、たちまちとびだしてきて、泰二君をとらえてしまうかもしれません。いや、とらえるばかりならいいのですが、ピストルか短刀でも持っていたら、それこそたいへんなことになります。それを考えますと、窓をのぞくというだけのことが、命がけの冒険なのです。
 泰二君は、胸をドキドキさせながら、一ミリずつ一ミリずつ、まるでなめくじのはうような速度で、用心にも用心をして、窓のところへ顔をあげていきました。そして、長いあいだかかって、やっと部屋の中を、チラッとのぞくことができました。
 のぞいたかと思うと、泰二少年の顔色がサッとかわりました。黒目がちのかわいらしい両眼が、とびだすのではないかと思うばかり、見ひらかれました。何かしら、よほどおそろしいものを見たのにちがいありません。
 ああ、部屋の中にいったい何があったのでしょう。もしやそこには、あのぶきみな怪老人が、「おまえの来るのを待っていたぞ。」といわぬばかりに、おそろしい顔で、こちらをにらみつけていたのではないでしょうか。


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