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大金块-鬼岛(1)
日期:2021-10-30 23:53  点击:222

鬼ガ島


 そして、いよいよふたりは岩屋島へ出かけることに話がきまりましたが、宮瀬氏は、気がかりらしくこんなことをいいました。
「わたしたちのるすちゅうに、賊のやつがまた、不二夫をひどいめにあわすことはないでしょうか。小林君が身がわりになって、暗号をぬすみだしたり、警察が賊のすみかをおそったりしたのですから、賊は、そのしかえしをしようと、待ちかまえているにちがいありません。そこへ、わたしたちが旅行してしまったら、あいつらは、また不二夫をどうかするのじゃないでしょうか。」
「そうですね。そういうことが起こらないとはいえませんね。どうでしょう。不二夫君も岩屋島へつれていってあげては。そして、ぼくも小林をつれていくことにしたら、お友だちもあるわけですし。」
と、明智がうまいことを思いつきました。
 そこで、宮瀬氏は不二夫君を応接室によび入れて、そのことを話して聞かせますと、不二夫君はすっかり喜んでしまいました。
「ええ、ぼくだいじょうぶです。小林君といっしょに、きっとおとうさんの手助けをします。鬼ガ島探検隊っていうんでしょう。ぼく、そういう旅行はだいすきですよ。」
「ハハハ……、鬼ガ島探検隊はよかったねえ。すると、おまえと小林君とが、桃太郎っていうわけかい、ハハハ……、よし、それじゃ、つれていってあげるとしよう。」
 宮瀬氏も上きげんで、不二夫君をつれていくことにきめました。不二夫君はずっと学校を休んでいたのに、またつづけて休まなければなりませんが、賊にさらわれることを思えば、学校を休むのもしかたがないわけです。
 そうして、鬼ガ島探検隊員は、明智と宮瀬氏と小林少年と不二夫君の四人づれということになったのです。
 出発は、その翌日の夜ときまりました。
 明智と宮瀬氏は登山服にゲートルをつけ、ステッキを持ち、小林少年と不二夫君は、洋服に、やはり、ゲートルをまいて、四人ともリュックサックを背おい、わざと品川(しながわ)駅から、人目につかぬように、汽車に乗りこみました。
 汽車の中でねむって、そのあくる日の昼ごろには、三重県の南のはしの長島町についていました。それは海岸の漁師町でした。町じゅうに、磯くさいにおいがただよって、近くの海岸から、ドドンドドンという波の音が聞こえていました。
 四人は、町にたった一軒の、いなかめいた宿屋にはいって、昼の食事をしたのですが、明智探偵は、その宿の主人を呼んで、いろいろ岩屋島のことをたずねてみました。
「はあ、あの島は鬼ガ島と申しまして、ここの名所になっております。お客さんがたは、よく船で見物においでになります。」
「その鬼ガ島に、烏帽子岩と、獅子岩と、カラス岩という三つの大きな岩があるそうだね。」
「ええ、ございます。みょうな岩でね、一つは烏帽子にそっくりだし、もう一つは獅子の頭にそっくりだし、それから、カラス岩と申しますのは、まるでカラスがくちばしを開いて、カァカァと鳴いているようなかっこうをしております。いかがでございます。船をやとって、見物なされては。ぼっちゃんがたは、きっとお喜びでございますよ。」
「それじゃ、ひとつ船をやとってください。ことによったら、島へあがってしばらく遊ぶかもしれないから、晩がたまでかかるつもりで、来てくれるようにいってください。」
 明智がいいますと、主人はびっくりしたように、目をまるくしました。
「え、島へおあがりなさる? それはおやめになったほうがようございましょう。獅子岩やカラス岩は船からでもよく見えます。おあがりになったところで、岩ばっかりの島で、べつに見るものもありませんし、それに漁師たちはあの島へ船をつけることを、いやがりますので……。」
と、しきりにとめるのです。
「漁師がいやがるというのは、何かわけがあるのですか。」
「なあに、つまらない迷信でございますがね。あの島には、むかし鬼が住んでいたので、その鬼のたましいが今でも島の中にのこっていて、あの島へあがったものは、おそろしいめにあうというのでございます。ハハハ……、このへんの漁師なんて、まるで子どもみたいなもので、それをすっかりほんきにしているものですから……。」
 そういうわけで、船をやとうのは、なかなかめんどうでしたが、きまりの船賃の三倍のお礼をするからといって、やっとひとりの年よりの漁師をしょうちさせて、その漁師の持っている発動機のついた和船(わせん)で、岩屋島へわたしてもらうことにしました。
 海岸に石をつみかさねた小さなさん橋のようなものがあって、四人はそこから船に乗りました。
 船のまん中のしきりに、むしろがしいてあって、四人がそこへすわるといっぱいになってしまうような、小さな船でしたが、でも船のうしろのほうに、ちゃんと発動機がついていて、漁師のじいさんはろをこぐのではなくて、まるで自動車の運転手のように、その発動機を運転するのでした。
 ポンポンポンポンとはげしい音をたてて、船はみるみる海岸をはなれていきました。風のない静かな日でしたが、それでも、波がないわけではなく、船がブランコに乗ったように、気持ちよくゆれるのです。
 うしろを見ますと、長島の町が、だんだん小さくなっていきます。そして前のほうは、見わたすかぎり、はてしもない大海原です。
 はるかむこうの水平線が、右のはしから左のはしへ、グウッと弓のように、丸くなって見えています。その水平線を見わたしていますと、地球がまるいものだということが、はっきりわかるような気がします。
「やあ、すてきだなあ。鎌倉(かまくら)の海なんかよりずっといいや。あ、見たまえ、小林君、あんな遠くを汽船が走っている、まるでおもちゃみたいだねえ。」
「不二夫君、ほら、下を見てごらん。底まで見えるようだよ。ぼく、こんなきれいな海、見たことがないよ。あら、なんだか大きな魚がおよいでいった。サメかしら。」
 不二夫君と小林少年とは、長い汽車の旅で、すっかりなかよしになっていました。ふたりは船べりにもたれて、青々としたきれいな水に、手を入れて、手の先から白い波が立つのを、おもしろがってながめるのでした。
 二十分ほども走りますと、船は一つのみさきをまわって、すっかり入り海の外へ出てしまいました。
「あ、あれだ、あれだ、ねえ、きみ、あの島が鬼ガ島なんだろう。」
 不二夫君がまっさきに見つけて、漁師のじいさんにたずねました。
「そうじゃ、ぼっちゃん。あれが鬼ガ島だよ。」
「やあ、そっくりだね。鬼の面を海にうかしたようだって、ほんとうだね。あれが(つの)、あれが鼻、あれが口、あ、口からきばが出てらあ。」


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