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青铜魔人-怪人升天
日期:2021-10-30 23:54  点击:276

怪人昇天


 怪人物は、三人の高い靴音にもいっこう気づかぬようすで、機械のようにガックリガックリ歩いています。
 こちらはみるみる追いついて、へだたりは五十メートルほどになりました。怪物の両手にチカチカ光っているものが、よく見えます。
「アッ、あれです。あれは時計です。あいつがどろぼうにちがいありません。」
 店員のひとりが、目ざとくそれをたしかめて、さけびました。
 三人はいっそう足を早めて走ります。怪人物はまだ気づきません。正面をむいたまま、ふりむこうともしないのです。もうあいてとの距離は二十メートルほどになりました。
「オイッ、待てッ。」
 警官がおそろしい声で、どなりました。
 すると、その時、青服の大男が、とつぜん立ちどまって、クルッとこちらを向きました。首だけふりむくのでなくて、からだごとうしろをむいたのです。
 月の光りが、怪人物の顔をまともに照らしました。
 オオ、その顔。警官も店員たちも、その顔を一生忘れることはできないでしょう。
 人間の顔ではない。青黒い金属のお面です。鉄のように黒くはない。銅像とそっくりの色なのです。青銅(せいどう)色というのでしょうか。
 三角型をした大きな鼻、三日月型に笑っている口、目の玉はなくて、ただまっ黒な穴のように見える両眼、三千年前のエジプトの古墳(こふん)からでも掘りだして来たような、世にも気味のわるいお面です。
 三人はあまりのおそろしさに、(くぎ)づけになったように、そこに立ちすくんでしまいました。
 聞こえます。自分たちの心臓の音ではありません。たしかに怪物のからだの中から、ひびいてくるのです。ギリギリ、ギリギリ、巨人が歯ぎしりをかむような歯車の音。
 懐中時計が何十個あつまっても、こんな無気味な音をたてるはずはありません、怪人のからだの中に、なにかしら、そういう音をだすものがあるのです。
 とつぜん、歯ぎしりの音が、びっくりするほど大きくなりました。イヤ、そうじゃない。歯ぎしりとは別の音が、怪物の三日月型の口の中から、とびだして来たのです。
 それはなんともえたいの知れぬ、いやな音でした。キ、キ、キ、キ、と金属をすりあわせるような音、怪物が笑ったのです。こいつはそういうおそろしい声をたてて笑うのです。
 長いあいだ笑ったあとで、怪物はまたクルッとあちらを向いたかと思うと、ヒョイとよつんばいになりました。両手には、たくさんの懐中時計のくさりをにぎったままです。そして、怪物は大きなイヌのように、四本の足でかけだしたのです。
 アア、なんということでしょう。いよいよこいつはばけものです。よつんばいになって走る人間なんて、聞いたこともありません。こいつはけだものでしょうか。イヤ、けだものより、もっとおそろしいやつです。怪物の走りかたは、イヌやネコとはまるでちがっています。前足もあと足も、機械のようにぎごちないのです。まるでゼンマイじかけで走る、ブリキ製のイヌのような感じなのです。
 怪物がよつんばいになる時、三人はその横顔を見ました。その時、青い色のソフトが落ちてしまったので、怪物の頭や、首のうしろも見えました。こいつはお面をかぶっているのではありません。あのおそろしい顔は、お面ではなくて、うしろのほうまでずっとつづいていたのです。耳も首も、それから頭の毛まで、みな同じ青銅色に光っているのです。髪の毛はひどくちぢれて、大仏の頭のように、無数の玉になっています。
 怪物は、あの「鉄仮面」のように、頭部全体を包む、青銅の仮面をかぶっていたのでしょうか。イヤ、もしかしたら、頭部だけではなくて、からだ全体が青銅で包まれていたのではないでしょうか。
 よつんばいになったかと思うと、あの歯ぎしりの音が、にわかにはげしくなりました。どこかで歯車がおそろしいいきおいで、かみあっているのです。そして、その走る早さというものは。
 そこはちょうど国電のガードのそばでしたが、怪物はガードの下をかけぬけて、そのむこうを、線路にそってまがりました。
 いくら気味がわるくても、どろぼうをこのまま見のがすわけにはいきません。三人は気をとりなおして、怪物のあとを追いました。
 ところが、ガードのむこうをまがって、横通りに出てみますと、ふしぎなことに、そこには月に照らされた白い道が、ずっとつづいているばかりで、ネコの子一匹いないではありませんか。
「おかしいな。たしかに、こっちへまがったね。」
「エエ、まちがいありません。」
 三人はいいあわせたように、立ちどまって、耳をすませました。しかし、どこからも、あの歯ぎしりの音は聞こえてこないのです。
 一方には戸をしめきった商家がならび、一方の線路の下は、ずっとあき地になっています。昔は倉庫(そうこ)に使われていたのですが、今は道路とのさかいの板壁もとりはらわれて、なんの目ざわりになるものもなく、そのへんいったい、一目で見わたせます。
 三人は念のために、線路の下にはいって、あちこちとさがして見ましたが、あの大男がかくれているような場所は、どこにもありません。怪物は影ものこさず消えうせてしまったのです。
 それからまた、手わけをして、そのへんいったいをくまなくさがしまわりましたが、やはりなんの手がかりもありません。
 青銅の首を持ち、鉄の指を持つ怪物が、気体となって蒸発するはずはない。では風船のように、からだが軽くなり、フワフワと空へまいあがったとでもいうのでしょうか。
 あの怪談ずきの青年店員は、よつんばいの怪物が、ちょうど花火からとびだした、紙製のトラのように、月夜の空を、高く高くとんで行くのが、かすかに見えるような気がしました。
 さて読者諸君、この青銅の首を持つえたいの知れぬ怪物は、そもそも何者でしょうか。そいつはなぜよつんばいになって走るのでしょう。ギリギリという歯ぎしりのような音は、何を意味するのでしょう。そいつはいったいぜんたい、どうして消えうせたのでしょう。また、懐中時計ばかりを、あんなにたくさん盗んで行ったのは、なぜでしょう。
 これにはみな、ちゃんとわけがあるのです。このお話は怪談ではありません。おそろしい知恵を持った怪盗と、名探偵明智小五郎(あけちこごろう)小林(こばやし)少年との知恵くらべの戦いなのです。ばけもののような怪物も、やがて正体を見あらわされる時が来るでしょう。しかし、それまでには、非常におそろしい事件が、次から次へとおこるのです。


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