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青铜魔人-明智小五郎和助手小林
日期:2021-10-30 23:54  点击:282

明智小五郎と小林少年


 青銅で作ったロボットのような、おそろしい怪物が、昌一少年をおびやかした翌日の午前のことです。
 千代田ちよだ区の明智探偵事務所の書斎で、名探偵明智小五郎と助手の小林少年が話しあっていました。
 ひろい洋風書斎の四方のかべは、天井の近くまで本棚になっていて、金文字の本がぎっしりつまっています。部屋のまん中には、畳一枚分もあるような大きなデスクがすえられ、もたれに彫刻のある古風なイスがデスクをはさんで向かいあっておいてあります。
 明智小五郎は、そのイスに腰かけ、デスクにほおづえをついて、一方の手で例のモジャモジャの髪の毛をもてあそんでいます。
 リンゴのような頬をした小林少年は、名探偵と向かいあって腰かけ、ひどく熱心な調子で話しかけているのです。
「先生、少年探偵団の連中が、ぼくにやかましくいってくるんです。なぜ先生は何もしないで、だまっていらっしゃるのかってぼくをせめるんですよ。」
「少年探偵団」という本を読まれた読者はおぼえているでしょう。小林君は小学上級生や中学生で作った少年探偵団の団長なのです。
「そんなにさわがなくても、今にぼくの所へ依頼者がやってくるよ。青銅の魔人といわれているやつは、機械だか人間だか、えたいの知れない怪物だ。敵にとってふそくはないね。小林君、久しぶりで大いに腕をふるうんだね。」
 明智探偵は、愛用のパイプをくわえると、ゆっくり紫色むらさきいろの煙をはきだしながら、若々しい顔をニッコリほころばせました。
「先生、あいつは機械じかけで動く青銅の人形でしょうか。ピストルでうたれても平気だっていいますね。でも、その機械じかけの人形が、煙のように消えてしまうのはなぜでしょう。ぼくにはそれがどうしてもわからないんです。」
「それにはいろいろ考えかたがあるんだがね。いずれにしても幽霊ではないし、また火星の人類というようなものではないことはたしかだ。人間だよ。非常に悪がしこいやつが、とんでもないことを考えだしたんだ。その悪知恵ぢえに勝てばいいんだ。知恵の戦いだよ。」
「そうですね。でも、この戦いに勝つためには、まず、あいつの秘密を見やぶらなくちゃなりませんね。」
 小林君はリンゴのような頬をいっそう赤くして、意気ごんでいうのでした。
「そうだよ。それにはね、見ててごらん、今に依頼者がやってくるよ。青銅の魔人もこんなに有名になっては、だんだん仕事がしにくくなる。そこで、あいつはきっと、どろぼうの予告をはじめる。ああいう悪がしこいやつになると、ふつうの考えの逆をやるものだよ。そうすれば予告をうけた人は、かならずぼくのところへ相談にくる。なんだかきょうあたりは、その依頼者がやって来そうな気がするね。」
 明智探偵はそういって、じっと空間を見つめていましたが、とつぜん、いたずらっぽい顔になって、小林君に笑いかけました。
「ホラ、表のベルが鳴ったね。きっとこの事件の依頼者だよ。」
 それを聞くと、小林少年はいきおいこんでイスを立ちあがり、玄関のほうへかけだして行きましたが、まもなく、はりきった顔つきでもどって来ました。
「先生、やっぱりそうでした。少年探偵団の篠崎しのざき君のお友だちですって、それで篠崎君から聞いてきたんだといって、手塚昌一君という小学生と、そのおとうさんです。応接間のほうへ通しておきました。」
 明智探偵と小林君が応接間へはいって行きますと、四十歳余りのりっぱな紳士と、学生服のかわいらしい少年がイスから立ちあがってあいさつしました。ひととおりあいさつがすんだあとで、手塚君のおとうさんは、小林少年のリンゴのような頬をながめながら、
「このかたが小林さんですか。篠崎君からいろいろあんたの手がら話を聞きましたよ。うちの昌一とは二つ三つしか年がちがわないようだが、そんな小さいなりをして、えらいものですなあ。」
 とほめあげるのでした。昌一君も、尊敬のまなざしで小林少年を見つめています。小林君の頬はまたしてもいっそう赤くなりました。
 みんながイスにかけると、昌一君のおとうさんは、「皇帝の夜光の時計」という、非常にたいせつな家宝かほうを持っていること、青銅の魔人がそれをねらって今晩やってくるらしいことを話し、きのうの夕方庭の木立ちの中で、魔人が昌一君の前に残して行った紙きれをテーブルの上にひろげました。
「フーン、これは気味のわるい字ですね。」
 明智探偵が紙きれを手にとって、つぶやきます。
「そうでしょう。まるできちがいが書いたようなうす気味のわるい字です。ちょっと見たのでは字だか絵だかわかりませんね。しかし、よく見ていると、カタカナらしいことがわかって来ます。」
「アスノバン十ジですかね。それからヤコウノトケイですね。」
「あすの晩十時と書いてあるだけで、よくわかりませんが、あの時計きちがいのような魔人のことですから、むろん、十時に時計を取りに行くぞという意味でしょう。そのほかに考えかたがありません。」
「あすの晩というのは、つまり今夜のことですね。それで、警察にはおとどけになりましたか。」
「ゆうべとどけました。警視庁の捜査課の中村係長とはちょっと知りあいだものですから、お会いしてお願いしたのですが、その時先生のことを申しましたところが、中村係長も、明智さんなら立ちあっていただいてもさしつかえないといっておられました。」
「そうでしょう。中村君とはずっと懇意こんいにしていますからね。ところで手塚さん、その問題の夜光の時計は、どこに置いてあるのですか。」
「コンクリートの蔵の中の金庫の中です。」
「ホウ、厳重な場所ですね。」
「あれを盗むためには、コンクリートの蔵のかべを破って、それからまた、金庫を破らなければなりません。いくら魔人だって、そうやすやす盗みだせるものではありません。夜光の時計をどこか銀行の地下金庫へでもあずけようかと考えましたが、持って行く道があぶないと思いましてね、やっぱり元の場所へおくことにして、そのかわりに、ゆうべから十人に近いお巡りさんが、蔵のまわりや庭の要所要所に見はり番をしていてくださるのです。あたりまえの賊なれば、こんな大さわぎをするにもおよばないのですが、なにしろ相手が魔物のことですから、警察でも特別にはからってくださったわけです。」
「わかりました。それでは小林君をつれてお宅へうかがうことにしましょう。二三用意しておきたいこともありますし、いくら魔物でも明かるいうちにやって来ることはないでしょうから、きょう日がくれてからおじゃまします。」
 明智探偵の承諾を得たので、手塚さんと昌一君とは喜んで帰って行きました。
 それを見送ったあとで、小林少年は何ごとか明智探偵にささやいて、いそがしくどこかへ出かけて行き、明智探偵は電話機の前に腰かけると、しきりにダイヤルを回しはじめました。
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