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青铜魔人-天空怪物
日期:2021-10-30 23:54  点击:283

天空の怪物


 小林少年はふたりのチンピラ君といっしょに、手塚家の裏手の、いちばんさびしいばしょに(じん)どって、しんぼう強く待っていました。塀のそばの、ちょっとした木のしげみのかげに、むしろをしいて、寒いので、三人がだきあうようにして、暗やみの中を見つめていました。
 もう十時をすぎていました。魔人がやくそくをまもったとすれば、とっくに蔵の中へ姿をあらわしたはずです。
「明智先生はうまく魔人をとらえてくださったかしら。もしつかまったとすれば、先生からあいずがあるわけだが、あいずがないところを見ると、魔人はうまく逃げたのかもしれない。それとも、あの手紙はただのおどかしだったのかしら。」
 小林君がそんなことを考えていた時、十メートルばかりむこうの塀の前に、人間ほどの大きさの黒い影が、フワッと浮きだすようにあらわれました。
「アッ、あいつだッ。」
 小林君は思わず両がわにいるチンピラ君の肩を、つよくだきしめました。
 月のないまっ暗な晩でしたが、白いコンクリートの塀の前に、黒い姿があらわれたので、よく見わけられたのです。その黒い影はじつにへんなかっこうをしていました。黒いダブダブのオーバーを着て、そのえりを立て、あごをかくし、ソフト帽のひさしをグッと目のへんまでさげています。ふつうの人間なら、帽子の下の顔のところが、ボンヤリ白く見えるはずですが、この男の顔はなんだかおそろしくドス黒いのです。
 そればかりではありません。そいつがむこうのほうへ歩きだしたかっこう! まるで機械のような、あのぎごちない歩きかた。そのうえ、耳をすますと、アア、やっぱりそうです。話にきいていた歯ぎしりのようなギリギリという音が、きこえてくるではありませんか。
 小林君はふたりのチンピラ君にあいずをして、立ちあがりました。そして、相手にさとられぬように気をつけながら、怪物のあとをつけはじめたのです。チンピラ君たちも、すばやく小林少年の気持ちをさっし、グッと背をかがめて、用心ぶかくあとからついて来ます。
 すこし行くと、焼けあとの広い原っぱに出ました。こわれたコンクリート塀がところどころにのこっていたり、煉瓦のかたまりが、うす高くつんであったりするほかは何もないさびしい所です。はるかむこうのほうに、工場のあとにのこったコンクリートの煙突だけが、空高くそびえているのがかすかにみえています。
 怪物は尾行されているとも知らず、コックリコックリと、へんなかっこうで、大またに歩いて行きます。ときどき歯車の音がびっくりするほど強くなるかと思うと、またまるできこえないほど、弱くなることもあります。強くなる時には、怪物が何か腹だたしいことを思いだして、おこっているのかもしれません。
 小林君たちは、今にも怪物がうしろを向いて、ガーッと歯車の音を立てて、追っかけてくるのではないかと、ビクビクものでしたが、さいわい魔人は一度もうしろを見ないで、まっすぐに進んで行きました。むこうの空にそびえている煙突が、だんだん大きくなって来ます。つまり怪物はその煙突のほうへグングン近づいて行くのです。
 そして、とうとう煙突の根もとまで来てしまいました。そこにはもとボイラーがすえつけてあったらしい煉瓦づくりの小屋のようなものがのこっています。屋根はなく、四方のかべも半分はこわれているのですが、それでもまあ小屋のかっこうにはなっているのです。怪物はその煉瓦小屋の中へはいって行きました。
「オヤ、へんだぞ。もしかしたら、あの中に地下室でもあるのじゃないかしら。そして、そこが魔人のかくれがになっているんじゃないかしら。」
 小林君は遠くのほうから、オズオズと小屋の中をのぞいて見ました。暗くてよく見えないけれど、怪物は地下に姿を消すこともなく、小屋の奥の石の段のようなものの上に腰かけて、じっと休んでいます。しばらく見ていても、急に動きだすようすがありません。
 小林君は「今だ。」と思いました。このまに手塚家へとってかえして、明智先生に話し、まわりから警官隊でとりまいてもらえば、怪物は袋のネズミだと考えたのです。そこで、ふたりのチンピラ君に、げんじゅうに見はりをすること、もし怪物があるきだしたら、どこまでもあとをつけるようにと、ソッとささやいておいて、やみの中を、大いそぎで手塚家へひきかえしました。
 十分、二十分、チンピラ君たちはビクビクしながら、見はりをつづけていましたが、どうしたものか、怪物はもとのところに腰かけたまま身うごきもしません。いったいこの機械人間は何を考えているのでしょう。
 まもなく、あたりのやみの中に、あちらにもこちらにも、物のうごめくけはいが感じられました。黒いかげぼうしが、四方から近づいてくるのです。
「オイ、お巡りさんが大ぜい来たんだよ。それから、きみたちのなかまも、みんなひっぱって来たよ。」
 チンピラ君の耳もとで、小林少年のささやき声がしました。すると、小林君のからだのうしろから、兄弟ぶんのチンピラ君の顔が、ヒョイとのぞいて、コックリとうなずいて見せるのです。
 そのうちに、警官隊は煉瓦小屋を完全にとりまいてしまったらしく、とつぜん、ビリリリリと呼子(よびこ)がなりひびき、大型懐中電灯の光が、いくすじも、煉瓦小屋の中に集中され、いきなりパン、パンとピストルの音がつづきました。
 警官隊は怪物をうち殺してはいけないという命令をうけていたので、わざとまとをはずしてうっているのです。
 青銅の魔人はかさなりあう懐中電灯の光のなかに、スックと立ちあがりました。そして、かれのからだの中から、キーッ、キーッという金属をこすりあわせるようなおそろしい音がひびきました。怪物は人間のことばではなく、機械のことばで何かわめき叫んでいるのです。青銅の口がパクパク動き、ほら穴のような両眼のなかから、ギラギラと、あやしい光がかがやいています。そして、かれの銅像のような巨体が、ガクリ、ガクリとこちらへ近づいて来るではありませんか。
 警官隊はあまりのおそろしさに「ワーッ」と声をあげてあとじさりしましたが、おどかしのピストルは、いっそうはげしくうちつづけられます。
 怪物は煉瓦小屋のそとに出て、つっ立ったまま、あたりを見まわしていましたが、四方八方から懐中電灯の光がそそがれ、それにもましてはげしいピストルの音に、とても、逃げられないと考えたのか、いきなりそこの煙突の根もとに近づき、コンクリートの表面にうちつけてある梯子(はしご)がわりの金物(かなもの)に、手足をかけて、グングン煙突をのぼりはじめました。
 空へ逃げようとでもいうのでしょうか。しかし、いくら煙突をのぼってみても、まわりをとりかこまれていては、逃げられるはずがありません。ひょっとしたら、怪物は煙突の頂上までのぼると、風船のように身が軽くなって、やみ夜の空高く飛びさってしまうのではないでしょうか。
 お湯屋(ゆや)の煙突などよりもずっと高い煙突です。怪物はそれを機械でできたサルのように、すこしも休まず、非常な早さでのぼって行き、もう懐中電灯の光もとどかなくなってしまいました。しかし、やみ夜にもほの白くそびえている煙突を、黒い影がグングンのぼって行くのが見えます。
 黒い影は上に行くほど小さくなって、とうとう大煙突の(いただき)にたどりつきました。そして、そのはるかの天空から、あの金属をすりあわせるような、キーッ、キーッという、いやな物音が、下界の人々をあざ笑うように、気味わるくひびいて来るのでした。


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12/01 07:28