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青铜魔人-小林遇难
日期:2021-10-31 19:16  点击:281

小林少年の危難


 お話かわって、こちらは古井戸の外。手塚家の広い庭の、林のような木立ちは、にぶい冬の日をうけて、シーンとしずまりかえっています。風もないのに、時々木の幹のかげに、何かチロチロと動くものがあります。動物でしょうか。イヤ、そうではありません。なんだか、きたない破れたカーキ色の服を着たやつです。それが、あちらにも、こちらにも、木の幹からヒョイヒョイと、顔をだしたり、ひっこめたりしているのです。
 その林のまん中に、例の古井戸があります。やがて、その井戸の中から、しずかに姿をあらわしたのは、名探偵明智小五郎でした。明智は井戸がわをまたいで、外に出ると、あたりを見まわしてから、強い絹ひもで造った縄ばしごを、たぐりあげ、それを小さく丸めて、手に持っているカバンの中へ入れました。へんなカバンです。なめし皮の袋といったほうがいいような、グニャグニャした大きなカバンです。明智がこんなカバンを持っているのを、今までだれも見たことがありません。いったい、どうしたというのでしょう。
 明智の姿を見ると、そばの大きな木のかげから、やはりボロボロに破れたカーキ服を着た、しかし、リンゴのようにつやつやした頬の、かわいらしい少年が出てきました。そして、ささやき声で、たずねます。
「先生、うまくいきましたか。」
「アッ、小林君か。」
 明智は、なぜか、びっくりしたように、立ちどまりましたが、やがて、ニッコリして、答えました。
「ウン、万事うまくいった。犯人は中村警部が捕縛(ほばく)して、地下室に監禁してある。ぼくは、あいつの同類のすみかがわかったので、今から、そこへかけつけるのだ。きみもいっしょに来たまえ。」
 明智はへんなことをいうのです。しかし、チンピラ隊のひとりになりすました小林少年は、べつにうたがうようすもなく、ハイと答えて、明智のあとにしたがいます。
 カバンをさげた明智は、小林少年をつれて、広い庭を母屋(おもや)のほうへあるいて行きます。すると、その時、じつにふしぎなことがおこりました。林の下のかれ草の中をヘビかなんぞのように、ひらべったくなって、ゴソゴソとはっているものがあるのです。一つ、二つ、三つ、かぞえてみると、それが十匹以上もいます。頭の毛はしゅろぼうきのようにのび、顔はあかによごれ、カーキ色の服はボロボロにやぶれた子供たちです。
 つまり、チンピラ別働隊の連中です。この子供たちは、どうしたわけか、ヘビのように、かれ草の中をはって、明智と小林のあとを尾行(びこう)しはじめたのです。
 それとも知らぬ明智は、小林少年をつれて、ひとまず手塚家の母屋にはいり、家族の人たちにも、二十面相をとらえたことを話したうえ、門前に待っている、中村警部の自動車のそばに近よりました。
 警視庁の運転手は、明智をよく知っているので、名探偵の姿を見ると、ニコニコしてあいさつしました。
「きみ、犯人は逮捕されたよ。くわしいことは、あとで中村君が聞かせてくれるだろう。それについて、ぼくは犯人の同類に不意うちをくわせることになってね、中村君の車をちょっと借りることにしたんだよ。」
 明智はいそがしくわけを話して、運転手をなっとくさせ、自動車にのりこみましたが、ドアーをしめてから、ふと思いだしたように、運転手によびかけました。
「ア、すっかり忘れるとこだった。きみ、すまないがね、応接間のテーブルの上に、ハトロン紙の四角な包みがあるから、取って来てくれたまえ。十文字に細引きでしばってあるから、すぐわかるよ。」
「ハ、しょうちしました。」
 運転手は大いそぎで、車を出ると、門の中へかけこんで行きます。明智は、運転手の姿が見えなくなるのを待ちかねて、いきなり、うしろの座席から、しきりをのりこして、前の運転席へすべりこみ、ハンドルをにぎりました。そして、車はやにわに走りだしたのです。運転手をおいてけぼりにして、ひじょうな速度で走りだしたのです。
 小林少年は、ちょっとおどろいたようですが、明智のとっぴなやりかたになれているせいか、さしてうたがうようすもありません。
 自動車の中の明智のたいどもふしぎでしたが、それよりも、もっとふしぎなことが、自動車の屋根の上におこっていました。
 さきほど明智のあとを尾行していた、チンピラ隊のひとりが、いつのまにか、そこへ先まわりをして自動車のかげに、身をかくしていたのです。そして明智と小林とが、自動車の中にはいり、運転手を使いにだした、あのわずかなあいだに、そのチンピラは、まるでサルのように自動車の後部に、よじのぼり、車体の上にあがると、その屋根に、ヒラグモのように、つっぷして、からだの上に、おとなのレインコートのようなものをかけて、その下に、じっとかくれていました。
 自動車は、このチンピラを屋根にのせたまま、走りだしたのです。木のぼりの名人のチンピラの手と足は、まるで吸盤でもついているように、屋根にピッタリすいついて、いくら車がゆれても、ふりおとされることはありません。
 また、車が町を走っていて、高い建物の窓から、見おろされても、レインコートの下に、子供がいるなんて、気づかれるはずはありません。なんだか大きなふろしきみたいなものが、ひろげてあると思うだけです。
 明智の運転する自動車は、芝公園をぬけ、京橋にはいり、永代橋(えいたいばし)をわたって少し行った、隅田川(すみだがわ)ぞいの、さびしい場所でとまりました。
 川岸の焼けあとの、小さなバラックが、まばらに建っている中に、まるで塔のように、ニューッとそびえた、コンクリート五階建ての、細長いビルディングがあります。化粧煉瓦もはげおちた、みすぼらしいあき屋のような建物です。
 明智は車をおりると、小林少年の手をひっぱるようにして、そのビルの中へはいって行きます。
 すると、それを待ちかねていたように、自動車の屋根のレインコートが、ムクムクと動いて、例のチンピラが、すばやくとびおり、明智たちのはいって行ったドアーを、ほそめにひらいて、そのすきまから、すべりこむように、中へ消えて行きました。
 こちらは、明智と小林少年。せまい階段をのぼって、五階の部屋にはいると、明智はなぜか、入口のドアーに、中から鍵をかけました。机が一つとイスが三きゃく、そのほかには何のかざりもない、あきやのような部屋です。
 明智は小林少年の手をギュッとにぎったまま、イスにもかけないで、意味ありげなうす笑いをうかべています。
「小林君、おれをだれだと思うね。」
 明智がへんなことをいいました。しかし、小林君は少しもおどろきません。
「怪人二十面相。」
 ニコニコしながら、ズバリといってのけます。
「ウフフフ、気がついていたのか。しかし、もうおそいよ。きみには少しのあいだ、きゅうくつな思いをしてもらわねばならない。」
 言ったかと思うと、明智とそっくりの二十面相は、いきなり小林君を、そこにおしたおして、例のカバンからとりだした細引きで、なんなく手足をしばり、猿ぐつわまではめてしまいました。
 小林君は、何か考えがあるものとみえて、少しも抵抗せず、されるがままになっています。
 二十面相は、何もはいっていない押入れの中へ、小林君をほうりこむと、その板戸をピッシャリしめて、一枚のドアーで通じている、となりの部屋へはいって行きました。
 やがて、そこから、二十面相の話し声がきこえて来ました。どこかへ、電話をかけているのです。板戸一枚ですから、小林君にも、その声が、かすかながら聞きとれます。
「ウン、いよいよ東京にもおさらばだ。……ボートの用意はいいだろうな。すぐここへ回してくれ。……油はうんと入れておくんだぜ。どこまで飛ばすかわからないからね……。よし、よし、わかった。」
 二十面相は電話をかけおわると、押入れの前に引きかえして、声をかけました。
「小林君、今電報を打っておくから、夜にでもなれば、ほんとうの明智先生が、きみをすくいだしに来てくれるよ。少しのがまんだ。おれはこれから、外に出かけて、いろいろやらなければならないことがある。おれにだって、なごりをおしんでくれる人もあるからね。それに、目印しになる自動車をここへおきっぱなしにするわけには行かないから、そのしまつもしなければならぬ。じゃ、しばらくおとなしくしているんだぜ。」
 そういいのこして、かれは部屋を出て行きました。ドアーに外から鍵をかけたことは、いうまでもありません。
 ところが、二十面相が立ちさったかと思うと、どこにかくれていたのか、ひとりのチンピラ小僧が、廊下のすみから、あらわれました。そして、やぶれたポケットから、針金のようなものを取りだすと、ドアーの鍵穴に、なにかやっていましたが、やがて、錠前がカチンと、はずれました。このチンピラは、こういうことの名人とみえます。
 それから、まるで、どろぼうのように、ソーッとドアーをおして、五寸ほどひらくと、そのわずかのすきまから、まるでハツカネズミのようにすばやく、部屋の中にすべりこんで行きました。いうまでもなく、自動車の屋根にかくれていた、あのチンピラ隊員です。
 チンピラは、鍵穴からでものぞいていたのか、チョロチョロと、押入れの前にかけよって、それをひらくと、いきなり小林君の猿ぐつわをとり、手足の細引きをといてしまいました。
「早く、おれをしばってくんな。団長の身がわりになって、ここにころがっているよ。やつが帰ってくるといけねえ。早く、早く。」
 小林君はチンピラのすばやい知恵をほめながら、自分がされたのと同じように、手足をしばり押入れの中にころがしておいて、そのまま、リスのようにすばしっこく、サッと部屋をかけだして行きました。


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