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青铜魔人-青铜魔人的下场
日期:2021-10-31 19:17  点击:395

青銅魔人の最期


 屋上に逃げだした二十面相は、忘れないで持って来た、例の袋のようなカバンから、黒い絹紐のたばをとりだしました。いつか煙突さわぎの時に使ったのと同じような、一尺ごとにむすび玉のある、じょうぶな長いひもばしごです。
 かれはそれをつかんで、屋上のてすりから、はるかの地上を見おろしました。五階の屋上ですから、二十メートルに近い高さです。目の下には川岸へ出る道があって、そこに、数名の警官がならび、そのそばに、きたない浮浪児のような子供が十数人、ウジャウジャとかたまっています。チンピラ隊の連中です。
 二十面相は、その屋上の出っぱりのはじに、ひもばしごの金具をとりつけ、長いひもをパッと下へなげました。のぞいて見ると、ひもの長さは建物の三分の二ほどしかありません。このひもをつたいおりても、地面にはとどかず、中途にぶらさがっているほかはないのです。二十面相は、それを知りながら、ひもをつたって、おりはじめました。いったい、どうするつもりなのでしょう。
 建物は表は道路に面し、裏は隅田川にのぞんでいるのですが、今、二十面相のぶらさがっているのは、その横のがわです。そのがわには、ほとんど窓がなく、中途でひもを切られる心配がありません。
 地上の人々は、二十面相の空中曲芸に気づいたようです。足の下から、ワーッという声が、わきあがって来ました。その人々の姿が、おもちゃのように小さく見えるほど、高いのです。ひと足ひと足、注意ぶかく、むすび玉に指をかけて、おりて行くのですが、空ふく風にひもがゆれて、ともすれば、スルスルと、すべりおちそうになります。もし手をはなしたら、弾丸のように地上に墜落(ついらく)して、からだはめちゃめちゃになってしまうでしょう。身の毛もよだつ、いのちがけの曲芸です。二十面相がひものはじまで、おりきったところには、地上には明智や中村警部の姿も見えました。ひものはじといっても、地面から七八メートルの空にあるのですから、どうすることもできません。
 それは、ちょうど、木の枝からさがったクモが、風にゆれているのと同じでした。二十面相は絹ひものはじに、しがみついた一匹のクモのように、あぶなっかしいのです。
 見ていると、そのクモの糸は、だんだん大きくゆれはじめました。風のためばかりではありません。二十面相が、まるでブランコをこぐように、大きく、いきおいをつけているのです。
 やがて、ふしぎな空中のブランコは、時計のふりこのように、規則ただしく、右に左に、ヒューッ、ヒューッとゆれ動き、そのはばが、刻一刻広くなって、今では建物のはばよりも、大きくゆれているのです。
 そのころになって、地上の人々は、やっと二十面相の真意をさとることができました。彼は世にもおそろしい大冒険を、くわだてていたのです。つまり、そうして、できるだけふりこを大きくして、最後にはパッと手をはなし、隅田川の中へダイビングをするつもりなのです。
 見れば、ちょうどかれの飛びこむかと思われるあたりに、一(そう)のモーターボートが、人まち顔に浮いています。アア、あのボートは二十面相が飛びこんでくるのを、待っているのかもしれません。
 人々はそこへ気づくと、いきなり川の上手(かみて)にむかって走りだしました。小林少年が盗みきいた電話によって、二十面相がボートの用意を命じたことがわかっていたので、こちらにも、水上快速艇が待機させてあるのです。人々はその快速艇へと、いそいだのです。
 その時でした。人々が予想したとおりのことがおこりました。二十面相は、ひもばしごを振れるだけ振っておいて、パッと手をはなしたのです。丸めたからだが、弾丸のように、サーッと風をきって、空中をとびました。そして、岸から十数メートルはなれた水中に、おそろしい水しぶきがあがりました。
 待ちかまえていた賊のモーターボートは、水しぶきの個所に近づき、浮きあがった二十面相を、すくいあげたかとみると、そのままエンジンの音も高く、東京湾の方角にむかって走りだしました。
 さいわいにも、その時には、水上署の大型ランチが、出発の用意を、おわっていました。そのランチには、水上署員のほかに、明智探偵、中村警部、小林少年、チンピラ隊の代表者五名がのりこんでいます。
 賊のモーターボートとランチとの距離は約百メートル。世にもおそろしい水上競技が、はじまったのです。
 モーターボートは、さすがに二十面相が用意しておいただけあって、おどろくべき速力でした。トビウオがとぶように、船体はほとんど水面をはなれて、空中を滑走(かっそう)しています。へさきの切る水しぶきは、みごとに左右にわかれ、大きな噴水が走って行くようです。
 両艇は、ほとんど同じ距離をたもちながら、月島(つきしま)をはなれ、お台場(だいば)に近づき、またたくまに、そのお台場もうしろに見て、洋々たる東京湾の中心にむかって疾駆(しっく)しています。
「ワーッ、青銅の魔人だッ。」
 チンピラのわめき声に、ふと気がつくと、賊のボートの中には、あの銅像のような青銅の魔人が、こちらをむいてスックと立ちあがり、しきりに両手をふり動かしています。二十面相は、この最後の大場面をかざるために、思い出の青銅のよろいを身につけて、追手に見せびらかし、追手を嘲笑(ちょうしょう)しているのです。
 それから十分あまり、追うものも、追われるものも、機関もやぶれよとばかり、全力をつくして突進しましたが、けっきょく、小型のモーターボートは、大型ランチの敵でなかったのです。賊のモーターボートに、何かしら疲れのようなものが見えて来ました。機関に故障でもおこったのか、よろめくような走りかたをはじめたのです。遠くきこえてくるエンジンの響きも、調子がくるっています。
 しかし、二十面相としては、何がなんでも、逃げおおせなければなりません。ボートの上の青銅の魔人は、手をふり、足をふんで、もっと早く、もっと早くと、機関手にどなりつけているようすです。
 しかし、ついに最期が来ました。
 ダダーンと、爆弾が投下されたような、おそろしい水けむり。耳をろうする爆発音。ムクムクとあがる黒煙の中にチロチロうごくヘビの舌のような火焔(かえん)、そこに一瞬間火につつまれた不動明王(ふどうみょうおう)のような青銅の魔人の、ものおそろしい姿が、チラチラとながめられました。
 やがて、煙のうすれた海面には、モーターボートの影も形も見えませんでした。
 これが青銅の魔人、すなわち怪人二十面相の、ひさんな最期でした。警察のランチは、ただちに現場に近づいて、人命救助につとめたことは、いうまでもありませんが、ボートの乗組員はひとりとして生きのこったものはなく、中にも青銅のよろいを着た二十面相の死体は、いくらさがしても、発見することができませんでした。あのよろいの重さのため、海中にしずんだまま、浮きあがることができなかったのかも知れません。
 残念ながら、主犯をとらえることは、できませんでしたが、青銅の魔人の秘密は、ことごとくあばかれ、かれの同類はとらえられ、秘密の工場は、とりつぶされ、地底の財宝は、それぞれ、もとの持ち主の手にもどりました。
 名探偵明智小五郎と、少年助手小林の名声は、いよいよ高く、それにつれて、あのチンピラ別働隊の手がらも、大きく新聞にのり、十六人のチンピラどもが肩をくんで笑っている、むじゃきな写真が、どの新聞にも出たものですから、その評判は大へんなものでした。
 そして、このチンピラ少年たちは、そのうち、明智探偵の世話で、あるものは学校にはいり、あるものは職業につき、それぞれ、幸福な身のうえになったということです。


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