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虎牙-悬空的头
日期:2021-11-07 23:41  点击:268

宙に浮く首


 寝台の上の勇一少年は、魔法博士の催眠術にかかったのか、目をとじて、ねむったように身うごきもしません。
 博士は、寝台から二メートルほどはなれたところに立って、やはり勇一少年を見つめたまま、白コウモリのようなマントを、パッとひるがえして、両手をながくのばし、ヘビのように波うたせながら、空中を、上へ上へと、なであげるようなしぐさをつづけました。
 すると、ああ、ごらんなさい。寝台の上の勇一君のからだが、寝たままの姿で、ジリリジリリと、宙に浮きあがってきたではありませんか。
 勇一君のからだと寝台とのあいだが、もう二センチほどもひらきました。そして、そのひらきが、みるみる大きくなっていくのです。五センチ、十センチ、二十センチ、動くか動かないかわからぬほどの早さで、しかしすこしもやすまず、上へ上へとのぼって行きます。
 まっ黒な背景の前に、勇一君の白い道化服の姿が、クッキリと浮きだして、なに一つ、ささえるものがない空中に、横に寝たままのかたちで、しずかに浮いています。なんという、ふしぎな光景でしょう。まるで夢でも見ているようです。
 ところが、勇一君のからだが、寝台から一メートルもはなれたとき、とつぜん、おそろしいことがおこりました。勇一君の顔が、なくなってしまったのです。つまり、首から上が消えうせてしまったのです。白い服を着たからだばかりが、こわれた人形のように、宙に浮いているのです。
 ハッとして見つめていますと、こんどは胸が消え、腹が消え、じゅんじゅんに消えていって、しまいにはひざから下だけになり、足くびだけになり、白いクツしたをはいた足くびが、しばらく、チョコンと空中にのこっていたかと思うと、やがて、それも消えて、なんにもなくなってしまいました。勇一君は、かんぜんに消えうせてしまったのです。
 黒ひといろの舞台に、目に見えない、とほうもなく大きな怪物がいて、勇一君を頭から、グッグッとのみこんでしまった感じでした。
 魔法博士は、さもおどろいた顔つきで、これをながめていましたが、勇一君が、まったく消えてしまうと、うろたえた身ぶりで、見物によびかけました。
「さあ、たいへん。魔法がききすぎたのです。天野勇一君は、どこかべつの世界へ、飛びさってしまいました。もうこの世界には、いないのです。このままほうっておいては、勇一君のおとうさんやおかあさんに、もうしわけがない。よろしい。わたしがそのべつの世界へ、のりこんで行って、勇一君をつれもどすことにしましょう。では、みなさん、わたしも、しばらく、この世界から姿を消しますよ。」
 そう言ったかと思うと、博士は、まずコウモリの羽のように白いマントのひもをといて、それをパッとなげすてました。それから、白いズボンも、クツしたもろとも、クルクルとぬいでしまいました。
 すると、これはどうしたというのでしょう。ズホンの中は、なにもないからっぽではありませんか。足がないのです。ただ腹から上の胴体だけが、フワッと宙に浮いているのです。
 博士はつぎに、白い上着とシャツをぬぎすてました。すると、こんどは胴体まで消えてしまったではありませんか。シャツの中も、からっぽだったのです。むろん手もありません。ただ首だけが宙に浮いて、ニヤニヤ笑っているのです。
 ほんとうに『宙に浮く首』です。その首がスーッと、一メートルばかり、空中を横に動いたかと思うと、まるで火でも消えるように、見えなくなってしまいました。つまり、魔法博士はこの世から、まったく姿を消してしまったのです。
 まっくらな舞台には、美しいかざりのある寝台が、ただ一つのこっているばかり、そのほかに目にはいるものは、なにもなくなってしまいました。
 あまりのふしぎさに、見物席はシーンとしずまりかえって、せきをするものもありません。
 いまに、べつの世界から帰って来たのだと言って、博士と勇一少年の姿が、どこからか、あらわれるにちがいない。
 見物たちは、そう思って、じっと待っていました。
 墓場の中のようなしずけさの中に、一分、二分、三分と、時間がたっていきました。しかし、舞台には、なにもあらわれません。ただ、まっ暗な空間が、やみ夜のように広がっているばかりです。
 とつぜん、どこからともなく「ウォー、ウオオオ、ウオオオ。」と、見物たちを飛びあがらせるような、おそろしい音が聞こえて来ました。人間の声ではありません。動物の声です。猛獣のほえた声としか思われません。
 見物たちはゾーッとして、たがいに顔を見あわせました。みな、まっさおになっています。背中に氷をあてられたような、なんとも言えぬぶきみさに、もう、からだがすくんでしまったのです。


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