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虎牙-魔镜
日期:2021-11-07 23:41  点击:274

魔法の鏡


 さて、明智探偵がつれさられた、その同じ夜のこと、怪屋にとじこめられている、小林少年のほうには、また、べつのふしぎがおこっていました。
 その夜、あの牢屋のような部屋で、夕食をたべたあとで、小林君はりっぱな洋室へうつされました。魔法博士ではなく、ボーイの服を着た男が、案内したのです。そして、「ここで、しばらくやすんでいらっしゃい。いまにおもしろいことが、はじまるからね。」と言って、ニヤニヤ笑いながら、立ちさりました。むろん、ドアには、外からかぎがかけられたのです。
 小林君は、大きなアーム・チェアに腰をおろして、ゆっくり部屋の中を見まわしました。じつにりっぱな部屋です。外国映画に出てくる古い貴族の家にあるような、ドッシリとおちついた部屋です。それに、ふしぎなことは、四方のかべに大小さまざまの鏡が、はめこみになっていて、まるで、鏡の部屋とでもいうような感じなのです。
 天井から、すずらんの花をたばにしたような、古風なシャンデリヤがさがっていましたが、それが四方の鏡にうつってチカチカ光って、まるで宝石をちりばめた部屋に入れられたようです。
 それにしても、さっき、ボーイ服を着た男が、「いまにおもしろいことが、はじまるからね。」と言ったのは、いったい何を意味するのでしょうか。どこにおもしろいことがおこるのでしょうか。
 部屋の中はシーンとしずまりかえって、なんだかおそろしくなるほどです。あの虎はどこにいるのでしょう。いまごろは、また、ドアの外の廊下を、目を光らせてノソノソ歩いているのではないでしょうか。ふと気がつくと、どこかで、コト、コトとかすかな物音がしました。その音のするほうに目をやっても、何もありません。ただ、かべにはめこんだ、大きな鏡が、つめたくチカチカと光っているばかりです。
 また、コト、コトと音がしました。どうもその大鏡のへんから、ひびいてくるようです。
 小林君は、思わず立ちあがって、鏡の前に近づきました。そこには、シャンデリヤの光を、うしろにして、小林君自身の姿が、大きくうつっているばかりでした。
 ところが、その自分の姿を、ジッと見ていますと、ふしぎなことがおこったのです。鏡にうつっている小林君の姿が、スーッと消えるように、うすくなっていくではありませんか。
 びっくりして、見つめているうちに、だんだん、うすくなっていく自分の姿に、かさなるようにして、べつの少年の姿が、あらわれてきました。しかも、ひとりではありません。三人の少年が、おたがいに、からだをすりよせるようにして、立っている姿です。
 小林君は思わず、「アッ。」と声を立てました。その三人は、よく知っている少年たちだったからです。花田君、石川君、田村君、読者もごぞんじの少年探偵団の幹部です。
 いったい、この三少年が、どうして大鏡にうつっているのでしょう。そして、小林君の姿が消えてしまったのでしょう。三少年をてらしている光は、シャンデリヤよりも、ずっと明かるいようです。まるで、ガラス窓から、向こうの明かるい部屋を、のぞいているような感じです。映画やテレビではありません。たしかに五メートルほど向こうに、三人の少年が立っているのです。
 小林君は、ふと、あることを思いだしました。いつか科学博物館で、こういう鏡を見たことがあります。それはこんな大きなものではなくて、やっと顔がうつるぐらいの小さい鏡でしたが、かべを、そこだけくりぬいて、ガラスがはめてあり、どちらがわから見ても、ふつうの鏡のように見えるのですが、こちらの部屋をくらくし、向こうの部屋を明かるくすると、ガラスがすきとおって、いままでうつっていた自分の顔が消え、向こうの部屋の中がハッキリ見えるのです。
 小林君は、あのしかけにちがいないと思いました。ですから小林君のほうからは見えるけれども、三人の少年のほうからは、小林君の姿は見えないのです。もし見えれば、向こうでも、びっくりするでしょうが、そんなようすはすこしもありません。
 向こうの部屋は、かざりも何もない、まるで牢屋のようなきたない部屋です。三人の少年は、あきらかに、魔法博士のために、かんきんされているのです。いつのまに、つれてこられたのでしょう。
 小林君が紙しばいのじいさんにおびきよせられたような、何かそれとにたやり方でつれてこられたのかもしれません。それとも、もっとおそろしい方法でゆうかいされたのかもしれません。
 声をかけようとしても、厚いガラスにへだてられているので、どうすることもできません。少年たちは、小林団長がここにいることを、すこしも知らないのです。
 すると、そのとき、鏡の一方のはじに、チラッと黄色いものがあらわれました。なにかゾッとするような、黄色と黒のだんだらぞめのものです。
 虎の首です。金色に光った目が、少年たちを見つめています。むろん、首だけではありません。やがて、肩が見え、足が見え、猛虎の全身があらわれたのです。
 小林君は、ハッと、息をのんだまま、身うごきもできなくなりました。
 虎は、三人の少年に向かって、まっかな口をガッとひらきました。いまにも飛びかかろうとしているのです。
 小林君は、目がクラクラッとして、目の前がスーッと暗くなるような気がしました。すると、おそろしい虎の顔も、三人の少年の姿も、もやにへだてられたように、消えていきました。
 ハッと気がついたときには、前にあるのは、ふつうの鏡で、そこに小林君自身の青ざめた顔が、うつっているばかりです。
 なんだかおそろしい夢でも見たような気持ちでした。小林君は魔法博士の催眠術にかかって、ありもしないものを見たのでしょうか、いやそうではありません。三人の少年は、たしかに鏡の向こうがわにいたのです。そして、そこへ一ぴきの猛虎がはいって来たのです。
 ああ、少年たちは、いったいどうなったのでしょうか。いまごろは猛虎のために、むごたらしいめにあっているのではないでしょうか。
 小林君は、もう、ジッとしていられなくなりました。ガラスをやぶって、向こうの部屋へ飛びこんで行こうか。しかし、なんの武器も持たないで、猛虎とたたかう決心はつきません。では、ドアをやぶって、廊下に出て、助けをもとめるか。しかし、この建物の中には味方はひとりもいないのです。
 とつおいつ、しあんにくれていますと、またしても、どこからか、コツ、コツという物音が、聞こえてきました。
 小林君は、キョロキョロと、部屋の中を見まわしていましたが、やがて、反対がわの鏡のほうへ、かけよりました。音がそのへんから、おこっていたからです。
 それは、さっきの半分ほどの大きさの鏡でしたが、小林君が、かけよったかと思うと、もう、そのガラスに異変がおこっていました。こちらの顔はうつらないで、向こうの明かるい部屋がすいて見えるのです。
 その部屋は、小林君のいる部屋とおなじぐらい、りっぱなかざりがしてありました。ただ、ちがっているのは、そこは寝室らしく、部屋のまん中に、大きなベッドがおいてあることでした。
 ベッドの向こうがわに、ドアが見えていましたが、そのドアが、スーッとひらいて、ひとりの警官の姿があらわれました。
「アッ、警官がぼくたちを助けに来てくれたのか。」と、小林君はいまにも、声をたてそうになりましたが、じきに、そうでないことがわかりました。
 その警官のうしろに、もうひとりの警官がいて、ふたりでなにか毛布にくるんだ、大きなものを、はこんで来たのです。
 警官たちは、その毛布にくるんだものを、ベッドの上にのせて、毛布をときはじめました。すると、その中から、ひとりの人間があらわれてきたではありませんか。グッタリと死んだようになっている人間のからだです。
 小林君は、またしても、「アッ。」と声をたてないではいられませんでした。そのグッタリとなった人の顔は、明智先生だったからです。明智先生が殺されたのではないかと思ったからです。
 明智先生はパジャマのまま、毛布につつまれて、ベッドの上に横たえられたのです。そして、ふたりの警官はドアの外へ、たちさってしまいました。
「先生は死んでいるのだろうか。いや、そうじゃない。胸がかすかに動いている。アッ、そうだ。きっと麻酔薬でねむらされているんだ。」
 小林君は、すばやく頭をはたらかせて、そこまで考えると、いくらか安心しましたが、先生のそばへかけつけることもできず、自分がここにいるのを知らせることもできないのを、ひじょうに、もどかしく思いました。
「それにしても、どうして警官が先生をつれて来たんだろう。警官が魔法博士の味方になるなんて、へんだなあ。ああ、わかった。魔法博士のてしたの悪ものが、警官に変装したんだ。そして、先生をゆだんさせておいて、こんなめにあわせたんだ。」
 小林君は、魔法博士の、そこのしれない悪だくみに、あきれてしまいました。明智先生を助けるために、どうすればいいんだか、とっさに名案も浮かびません。
 すると、そのとき、にわかに部屋の中が、パッと明かるくなりました。いままで、うすぐらかったシャンデリヤが、まぶしいほど、まっ白にかがやきだしたのです。それと同時に、鏡の中の明智先生の姿が、ボヤッとうすれていって、何も見えなくなってしまいました。
「ワハハハハ……、どうだね、小林君。」
 とつぜん、どこともしれず、びっくりするような声が聞こえてきました。
 小林君は、キョロキョロと部屋の中を見まわしましたが、どこにも人間の姿はありません。声は空中からひびいてくるのです。


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