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虎牙-坠落的恶魔
日期:2021-11-10 23:56  点击:230

墜落する悪魔


 満月に近い月でした。それを、ときどき、うす黒い綿のような、むら雲がかすめて、通りすぎます。そのたびに、避雷針にとりすがった怪人が、ハッキリ見えたり、かげになったりします。例のコウモリの黒マントが、風にヒラヒラとはためいて、天空の魔人というような、ものおそろしい姿です。
 明智探偵は五分間ほど、腕をくんで、つっ立ったまま、じっと塔の屋根を見つめています。まわりの警官たちは、明智がおそろしいほど、だまりこんでいるので、やはりおなじように、つっ立ったまま、塔上の怪人と明智の顔とを見くらべています。
「この探偵さんは、何を考えているんだろう。怪人があんな高いところへ、あがってしまったので、どうすることもできなくて、こまっているんじゃないかしら。」と、いうような顔つきです。
 すると、いままで銅像のように身うごきもしなかった明智が、ヒョイと、そばにいる警部補のほうを、ふりむきました。そして、
「この近くに猟銃を持っている人はいないでしょうか。一つさがして、借りだしてくれませんか。」とたずねました。警部補はビックリしたような顔をして、
「猟銃なら、近くにわたしの知っている猟銃家がいますが、しかし、猟銃でなにをしようと言うのですか。」
「ともかく、大いそぎで、それを借りてください。たまもいっしょにですよ。けっして、あなたのごめいわくになるようなことは、しません。ぼくにまかせてください。」
 警部補は、明智が名探偵であることを、よく知っていました。警視庁の捜査課長でさえも、明智の知恵を借りることがあるのを、知っていました。それで、この人の言うことならば、まちがいはないだろうと、部下の警官に、猟銃を借りだしてくることを命じました。
 明智はそのまま、だまって、また塔の屋根を見つめています。警部補も、明智の気質を知っているのでなにもたずねません。うす雲が、月の表をかすめるたびに、塔上の怪人も、地上の人々の顔も、暗くなったり、明かるくなったりして、やがて、二十分あまりもたちました。そこへ、さっきの警官がりっぱな猟銃を持って、息せききって、もどってきました。明智はそれを受けると、たまをこめ、銃を肩にあて、塔の屋根に向かって、ねらいさだめました。
「明智さん待ってください。犯人を殺してはこまります。わたしの責任です。」
 警部補があわてて、銃の筒口をにぎりました。
「いや、けっして殺しません。傷つけもしません。まあ、見ていらっしゃい。」
 明智はつよく言いはなって、もう一度ねらいをさだめると、猟銃の引きがねを引きました。ガンと空気がゆれて、うすい煙がたって、そうして、塔の上の怪人がフラフラとよろめくように見えました。警官たちはいっせいに、屋根の上を見つめました。月の光にてらされて、怪人はフワリと宙に浮きました。避雷針をはなれて、横たおしになり、それから、スレートの屋上をすべって、空中を、スーッとおちてくるのです。ヒラヒラする黒マントの羽が、みるみる大きくなり、人々の頭の上に、あのおそろしい虎の顔をした怪物が、ふってきたのです。警官たちは「ワーッ。」と言って飛びのきました。そして、怪人が地上にころがったのを、たしかめると、またそばへよって行きました。警官たちでつくられた輪の中に、二十面相の魔法博士は、生きているのか死んでいるのか、じっと横たわったまま動きません。それが、青い月光にてらされて、まるで火星人かなんかのような、ふしぎな姿に見えるのです。明智探偵は、警官の輪をはなれて、ツカツカと怪人のそばへ近づきました。そして、怪人の足のところに、しゃがんで、何かカチッと、音をさせたかと思うと、立ちどまって、こわきにかかえていた猟銃をとりなおし、その台座を怪人の腹のへんにあてて、グッとおさえつけました。すると、オヤッ、どうしたというのでしょう。怪人はブルブルとからだを、ふるわせて、スーッと消えていくように見えたのです。ほんとうに、足の先から、だんだんペチャンコになって、もう腰のへんまで、せんべいのように、うすべったくなってしまったではありませんか。


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11/28 10:54