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虎牙-谜
日期:2021-11-10 23:56  点击:234


とかれたなぞ


「ワハハハハ……。」
 あっけにとられて、ぼんやりしている警官たちの顔を見て、明智探偵がとつぜん笑いだしたのです。いよいよ、わけがわからなくなってきます。
「諸君、これは人形ですよ。ゴム人形ですよ。ただ黒マントだけがほんもので、あとはすっかりゴムでできているのです。」
「ウッ、すると、あの青銅の魔人と……。」警部補が、うなるように言いました。
「そうです。青銅の魔人と同じしかけで、魔法博士のゴム人形がつくってあったのです。いざというとき、かえだまにつかうつもりで、ちゃんと用意しておいたのでしょう。ごらんなさい。その足首のとめ金も、青銅の魔人とそっくりです。いまぼくが、そのとめ金をはずしたので、空気がぬけて、こんなにひらべったくなってしまったのです。」
 さっきカチッといったのは、明智がそのとめ金をはずした音だったのです。この人形は、からだぜんたいが、自動車のチューブよりも、ずっとあついゴムでできていて、その中に空気を入れて、ふくらませてあったのです。からだには、洋服のラシャをはりつけ、頭にほんとうの毛をうえ、ひげをはやし、顔や手は絵の具で人間らしい色にぬってあるのです。メガネまでかけています。
「ぼくは、そこまで気がつかなかったが、塔の上の部屋の天井に秘密の戸があって、そこから屋根の上へ、出られるようになっているのでしょう。二十面相はこの人形を持って、そこから屋根の上にぬけだし、人形を避雷針にひもでくくっておいて、逃げだしたのです。ぼくのうった猟銃のたまで、そのひもが切れたので、こいつがおちてきたのですよ。」
「すると、あいつは……。」
「たぶん、屋根づたいに、逃げたのでしょう。あいつは、いつでも絹糸の縄ばしごを持っていますから、塔の屋根から本館の屋根へおりるくらい、わけはありません。本館の屋根から、どこかへかくれたのですよ。あいつはまだ、この屋敷の中にいるはずです。だが、見はりはだいじょうぶでしょうね。見はりの警官は、持ち場をはなれてはいないでしょうね。」
「だいじょうぶです。この建物のまわりには、すっかり見はりがついています。ここにいるのは、持ち場のない遊軍ばかりですよ……。それにしても、明智さん、あなたはこれが人形だということが、よくわかりましたね。ぼくたちは、ほんものの魔法博士だと思いこんでいたのですが。」
「人形でなければ、猟銃でうったりなんか、しませんよ。ぼくも、ここから見ただけでは、これが人形だということはわからなかった。見たのではなくて、頭で考えたのですよ。」
「推理ですね。それを聞かせてください。わたしには、さっぱりわからない。」
「見はりがついていれば、あいつをさがすのは、いそぐことはありません。では、てっとりばやく、それをここでお話しましょう。しかし、だいじょうぶでしょうね。自動車の車庫は。」
「ガソリンをからっぽにして、そのうえ車庫の前に見はりがついています。あいつは歩いて逃げるほかはないのです。しかも、まだなんの報告もないところをみると、あいつは建物の外へは、姿を見せないのですよ。中にいるのです。家の中のどっかにひそんでいるのです。」
「では、お話しましょう。それは、あの『密室』のなぞに、かんけいがあるのですよ。あいつはたしかに、あの地下室へはいった。そして戸をしめた。ところが、ぼくらが、ふみこんでみると、影も形もなかった。出口はどこにもない、ただ、空気ぬきの小さな穴が二つあるばかりで、その下のほうの穴のうちがわのほこりが、何かでこすったように、みだれていた。
 ぼくはあの時、二十面相が、まえに青銅の魔人のゴム人形で世間をだましたことを思いだした。そして、こんどもまた、魔法博士のゴム人形を用意しておいたのじゃないかと考えたのです。
 ぼくたちは、地下道のトンネルの中で、おとし穴の板の橋をかけるために、てまどっていた。あいつはそのひまに、どこかにかくしてあった人形を持ちだし、人形の首と足に長いひもをつけて、首のほうのひもを上の空気ぬきの穴へ、足のひもを下のほうの穴へ通し、自分は穴の外がわにまわって、そこから、うまくひもを引っぱった、としたら、どうです。」
「ウーン、そうか。どうりで、なんだかフラフラした、へんな歩きかただと思った。電灯はついていたけれど、ひどくうすぐらかったので、すっかりだまされたわけですね……。しかし、あの入り口のドアがしまって、かぎがかかったのは、なぜでしょう。まさか人形がそんなことをするはずはないが……。」
「やっぱり、ひものしかけですよ。長いひもを二重にして、その先の輪になったところをドアのとってにかけ、ひものはじを空気ぬきの穴の外へのばして、グッと引っぱれば、ドアがしまる。あのドアはしめさえすれば、しぜんにかぎがかかるようになっていたのです。ひらく時にはかぎがいるが、しめる時には、かぎがいらないのです。そうして、しめておいて、一本のひもをはなし、一本だけをたぐりよせれば、ひもはぜんぶ穴の外へ出てしまいます。
 それから、こんどは、人形を下の穴のすぐそばまで引きよせ、穴から手を入れて、足のとめ金をはずすと、スーッと空気がぬけて、人形がしなびてしまう。そのグニャグニャになったゴムを、十センチの穴から、外へ引っぱりだしたのですよ。」
「なるほど、すっかりわかりました。それで穴のうちがわのほこりに、あんなあとがついていたのですね。フーン、うまく考えたな。それにしても、ほこりのあとだけで、そこまで考えついたのは、さすがに明智さんですね。かぶとをぬぎますよ。しかし、そのグニャグニャになった人形を、塔の屋根にあげる時には、また空気を入れたのでしょうが、こんな大きな人形に、そんなにてばやく空気がはいりますかね。」
「それは、青銅の魔人の時とおなじですよ。やはり、この建物のどこかに、自動車のタイヤに空気を入れるエアー・コンプレッサーがあって、そこから、くだが引っぱってあるのです。塔の中にも、そのくだが来ているのでしょう。エアー・コンプレッサーなら、この人形をふくらますくらい、またたくうちですからね。」
「フーン、じつに、手数のかかるいたずらをやったものですね。こんどの事件は、さいしょから、そうだったが、あいつは魔術のうでまえを、見せびらかしたくて、しかたがないのですね。わたしは、こんなへんてこな犯人ははじめてですよ。」
「そうです。あいつは、こんどはほかになんの目的もなかったのです。ただ、ぼくをこまらせて、それ見ろと笑いたかったのですね。ところが、すっかりぼくにうらをかかれてしまった。この勝負もまた、あいつの負けですよ。ハハ……、考えてみると、なんだか、かわいそうですね。」
 明智探偵は、ゆかいそうに笑いましたが、そんなふうに安心してしまってもいいのでしょうか。怪人のほうには、まだまだ奥の手がのこっていたのではないでしょうか。


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