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透明怪人-妖风
日期:2021-11-13 23:47  点击:220

つむじ風


 しばらくすると、店員のひとりが、三人の背広すがたの刑事さんをつれて帰ってきました。ちょうどそのとき、デパートの見まわりに来ていた刑事さんたちです。
 三人の刑事は、店員たちをかきわけるようにして、入り口のドアに近づきました。そして、げんじゅうな身がまえをして、パッとドアをひらきました。
 すると、そのとき、部屋の中には、じつにおそろしいことがおこっていたのです。
 倉庫といっても、品物がぜんぶ持ちだされたあとで、まるで、あき部屋のように、ガランとしていました。すみのほうに、大きな木の荷箱が二つ三つころがっているばかりで、ほかには何もありません。ネズミ色のコンクリートのかべ。ネズミ色のコンクリートのゆか。光は高い小さい鉄ごうしの窓から、さしこむだけですから、広いからっぽの部屋は、夕方のように、うすぐらいのです。
 さいしょ、刑事の目にうつったものは、宙を飛ぶ人間の首でした。人間の首だけが、投げつけられたように、ヒューッとゆかにおちて、ユラユラとゆれていたのです。
 ふいをうたれた刑事は、ギョッとしましたが、よく見ると、それはろう人形の首でした。そのそばには、燕尾服やシャツやズボンやクツなどが、メチャクチャに投げすててあります。そして、怪物のすがたはどこにも見えません。身につけているものを、いっさいぬいでしまって、透明になっていたからです。いちばんあとで、かぶっていたろう仮面をとって、今、投げすてたところなのです。
 三人の刑事は、とっさに、それをさとると、いきなり部屋の中へ、ふみこんでゆきました。目には見えないけれども、手さぐりで怪物をとらえるつもりなのです。三人は、右、左、まん中と、三方にわかれて、大手(おおで)をひろげてすすんでゆきました。そして、部屋じゅうを、のこるところなく、さぐりまわったのですが、何も手にさわるものはありません。あいてには、こちらがよく見えるのですから、この鬼ごっこは勝負になりません。怪物にうまくすりぬけられてしまったのです
 すると、そのとき、ドアのそとで「ワッ。」という、さけび声がしました。びっくりしてふりむくと、ひとりの若い店員が、廊下にしりもちをついていました。
「あいつだっ、あいつにつきとばされたんだ。」
 しりもちをついたまま、まっさおな顔をして、うしろの階段のほうを指さしています。怪物が自分をつきとばして、階段のほうへ逃げたといういみです。
 人々は、いきなり、そのほうへかけだそうとしましたが、すると、またしても、「ワーッ。」と言う、さけび声がして、うすぐらい階段から、ひとりの男が、ころがりおちてきました。目に見えぬ怪人と、階段ですれちがったとき、つきとばされたのです。その男は問屋から荷物を運んできた人夫でした。
「まるで、つむじ風のようなものだったよ。階段をおりていると、下のほうからヒューッと、風が舞いあがってきて、まともに、おれの胸にぶっつかった。ひどい力だった。おれは思わず足をふみはずして、下までころがりおちてしまった。」
 人夫は、あとで、そんなふうに説明しました。
 そして、透明怪人は、どこともしれず、逃げさってしまったのです。階段の上に出て、人ごみにまぎれこんでは、もうどうすることもできません。広いデパートの中です。すがたのある人間だって、なかなかさがしだせないのに、まして、目に見えぬ怪物を、さがすなんて、思いもよらないことです。
 あとでしらべてみますと、デパートの宝石売場などでも、べつにぬすまれているものはないことがわかりました。むろん、怪物は人形に化けて、ぬすみをはたらくつもりだったのでしょうが、その目的をたっしないまえに、木下少年のために、見つけられてしまったのです。
 さて、デパートのさわぎは、べつだんのこともなく、おわりましたが、透明怪人は、まだ東京のどこかにかくれているのです。そして、つぎのえものを、ねらっているのです。そのつぎのえものというのは、いったいなんだったのでしょうか。それは、ふしぎなことに、怪人のさいしょの発見者である、島田少年のおうちの中にある、ある品物だったのです。怪人はそれをねらって、島田君の身ぺんにあらわれることになります。お話はいよいよほんすじにはいるのです。


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