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怪奇四十面相-警察和乞丐少年
日期:2021-11-15 23:58  点击:310

警官と乞食少年


 お話はもとにもどって、黒衣の人形をしばりつけたアドバルーンが、世界劇場の塔から、とびさった、すぐあとのことです。怪獣のならんでいる塔の屋根から、ほそい黒いひもが、スーッとさがり、そのひもをつたって、ひとりの制服の警官が、劇場の屋上へ、おりてきました。
 そこは塔のうしろがわなので、だれも見ているものはありません。それに、みんなアドバルーンに気をとられていたので、このふしぎな警官に注意するものは、ひとりもありませんでした。
 警官は、いま、つたいおりた、ほそいひもを、手もとにたぐりよせると、それをまるめて、ポケットにおしこみ、屋上の出入り口から、劇場のなかへはいっていきました。
 それから五分ほどのち、世界劇場の正面玄関から、さっきの制服警官が、大きなふろしきづつみをかかえて、出てきました。ふろしきのなかみは、なんだかわかりませんが、直径五十センチほどのまるくて、うすべったいものです。大きなおぼんのようなかたちです。
 劇場の前のひろばには、まだおおぜいの人々が、むらがっていました。そのなかには警官の一隊も、まじっているのです。その警官のひとりが、いま、玄関から出てきた、ふしぎな警官に、声をかけました。
「きみはどこの署の人ですか。その大きな荷物は、なんです?」
 すると、ふしぎな警官が、にこにこしながら、こたえました。
「ぼくは警視庁のものですよ。中村係長さんの命令で、しょうこ品を、持ってかえるのです。」
「みょうなかたちのものですね。それは、いったい、なんですか。」
「ぼくにもわかりませんよ。ふろしきに、つつんだまま、渡されたのです。係長さんは、なにか、お考えがあるのでしょう……。じゃあ、しっけいします。」
 ふしぎな警官は、そう言いすてて、人ごみを、かきわけながら、どこかへ、立ちさってしまいました。
 それから、また十分ほどのちのことです。中央(ちゅうおう)区の、とあるさびしい屋敷町を、さっきの、ふしぎな警官が、テクテクと、歩いていました。やっぱり、まるい大きな、ふろしきづつみを、こわきにかかえているのです。
 街灯もまばらな暗い町です。両がわには大きな邸宅のコンクリート(べい)や、板塀や、こんもりした、いけがきなどが、つづいています。まだ日がくれたばかりなのに、人通りは、まったくありません。東京のまんなかに、こんなさびしい町があったのかと、あやしまれるほどです。
 ふしぎな警官は、そのさびしい暗い町を、コツコツと、歩きながら、おもしろくてたまらない、というように、ニヤニヤ笑っていました。
「ウフフフ……、うまくいったぞ。われながら感心するほどだ。さっきのおまわりさん、中村係長にあったら、おれのことを報告するだろうな。係長のおったまげる顔が見えるようだ。係長はこんな荷物を、渡したおぼえはないんだからな。
 しかし、四十面相が制服警官に()けて、逃げだしたなんて、まさか気がつくまい。四十面相はアドバルーンにのって、空をとんでいるはずじゃないか。フフフ……、アドバルーンにさがっていたのは、人形で、ほんものの四十面相は、警官になりすまして、こんなところを、歩いているなんて、どんな名探偵にだって、わかりっこないよ。」
 ふしぎな警官は、ブツブツと、口のなかで、そんなことをつぶやいていました。
 では、この警官は、じつは、怪人四十面相だったのでしょうか。そうです。これが、かれの大奇術なのです。みんながアドバルーンに気をとられているすきに、かれは絹糸のなわばしごで、塔の屋根からおり、劇場のなかを通って、玄関に出たのです。
 警官の制服は、脱獄を用意しているあいだに、部下に命じて黒衣の人形といっしょに、塔上の怪獣のかげに、かくさせておいたものです。なんという用心ぶかさでしょう。脱獄して俳優に化けたあとで、まんいち、正体を見やぶられたときのことを、まえもって、ちゃんと考えておいたのです。そのときはアドバルーンを利用して、警官に化けてと、なにからなにまで、いちぶのすきもなく、用意してあったのです。
 かれは、アドバルーンに人形をくくりつけ、つなをきりはなすと、てばやく、その警官服を身につけて、なにくわぬ顔で、むらがる群集と、警官隊の前にすがたをあらわしたのです。
 どろぼうが警官に化けるとは、なんという、きばつな思いつきでしょう。しかし、考えてみれば、これがいちばん安全なのです。警視庁と所轄警察署の警官が、いりまじっていて、おたがいに顔を知らないのですから、そこへ、まったく見おぼえのない警官があらわれても、だれも、うたがうものはないのです。
 それにしても、警官に化けた四十面相が、こわきにかかえている、まるい荷物は、いったい、なんでしょうか。これは、世界劇場のなかから、持ってきたのにちがいありませんが、あのふろしきのなかには、なにが、つつんであるのでしょう。おそろしく用心ぶかい四十面相のことですから、これも、なにか危急のばあいの、奇術の種かもしれません。
 ふしぎな警官は、まだニヤニヤ笑いながら、暗い町を、コツコツと、歩きつづけています。
 ところが、よく見ると、その町を歩いているのは、四十面相だけでないことが、わかってきました。四十面相の二十メートルほどあとから、小さな人間が、すこしも足音をたてないで、こっそりと尾行しているではありませんか。
 それはゾッとするほど、きたならしい、乞食の少年でした。かみの毛は、モジャモジャにのびて、目の上までたれさがっています。ジャンパーのようなものを着ているのですが、それがボロボロにやぶれ、ズボンも、すそがちぎれて、ひざっこぞうが見え、顔も手も足も、まっ黒によごれて、まるで黒んぼうのような少年です。クツもはかず、すあしに、わらぞうりをはいているのです。そうです。読者諸君が、お気づきになったとおり、これは少年名探偵、小林君の変装すがたでした。
 世界劇場のまわりの大群集のなかで、たったひとり、アドバルーンのごまかしを、もしやと、うたがった人間がありました。それが小林少年だったのです。
 ずっとまえに、明智探偵が手がけた事件で、犯人がアドバルーンにぶらさがって、逃げたことがあります。それをヘリコプターで追っかけると、犯人だとばかり思っていたのが、じつは人形であったことがわかりました。小林君は、明智探偵から、その話をきいていたものですから、アドバルーンが、とぶのを見ると、すぐそれを思いだしたのです。
 そこで、小林君は、おおいそぎで楽屋にとびこむと、顔や手足に、うす黒いえのぐをぬり、衣装部屋にあった、いちばんきたない服を、はさみでズタズタにきりさいて、身につけ、モジャモジャ頭のカツラをかぶって、劇場の屋上にのぼり、塔からおりてくるやつを、見はっていたのです。
 また、小林君は、悪がしこい犯人が、警官に化けた事件に、たびたび、であっていましたので、ふしぎな警官のすがたを見ると、すぐに、それとさとりました。そして、尾行をはじめたのです。中村係長に知らせようとしたのですが、きゅうには見つからなかったので、ただひとりで尾行したのです。
 暗い町は、どこまでも、つづいています。そのさびしい町を、コツコツと歩く四十面相のにせ警官、あとからコッソリつけていく、きたない乞食少年。じつに奇妙な光景です。
 とつぜん、にせ警官が、立ちどまったかと思うと、すばやく、うしろをふりむきました。尾行に気づいたようです。
 乞食少年はハッとして、おおいそぎで、そばのいけがきの下へ身をふせましたが、もう、まにあいません。さとられてしまったのです。
 にせ警官は、いきなり、かけだしました。そして、むこうの四つかどを、まがるのが見えました。あいてにさとられたからには、もう、やぶれかぶれです。乞食少年も足音たかく、それを追いました。ところが、そのとき、またしても、じつにふしぎなことが、おこったのです。
 小林君の乞食少年が、四つかどまでかけつけて、にせ警官のまがったほうを見ますと、そこには、まったく人かげがありませんでした。両がわには高いコンクリート塀がつづいて、まっすぐに、見とおせる町なのですが、にせ警官は、どこへ消えたのか、かげもかたちもありません。
 両がわのコンクリート塀は、よじのぼるには高すぎます。地面には四十面相のとくいのかくれ場、マンホールもありません。むこうのまがりかどまでは百メートルもあり、いくら足がはやくても、そこをまがるような時間はなかったはずです。


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