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怪奇四十面相-黑暗中的小女孩
日期:2021-11-15 23:58  点击:306

やみの中の少女


 四十面相がコンクリート塀の中へ、消えたあと、町はまたシーンと、しずまりかえって、なんの動くものもありません。映画の回転が、とつぜん、ピッタリと、とまってしまったような感じです。
 まちどおしい時間が、ノロノロとすぎて、やがて五分もたったころです。さっき四十面相の、にせポストが立っていた町かどの、こちらから、小さな人間のすがたが、ヒョイと、街灯のひかりの中にあらわれました。ボロボロの服を着た乞食少年です。
 小林君は、立ちさったと見せかけて、町かどのこちらがわの、まっ暗なところに、かくれていたのです。そして、四十面相が塀の中へ、はいってしまっても、用心ぶかく、しばらく、ようすをうかがってから、あらわれたのです。
 小林君はチョコチョコと、れいの電柱のところまで、走っていって、そこでまた、じっと耳をすましていましたが、やっと決心したように、電柱にとびつくと、スルスルと、それをのぼって、四十面相と同じように、コンクリート塀の上にまたがり、ヒラリと、中へとびおりました。
 そこは、ひろい庭で、大きな木が林のように、ならんでいます。小林君は、もの音をたてぬように、気をつけながら、そのまっ黒な木の幹のあいだを、用心ぶかく、すすんでいきました。
 どこからか、赤いひかりが、さしています。それを目あてに、あるいていきますと、やがて、林のようなところをぬけて、ひろい場所に出ました。
 むこうに、洋館がヌーッと黒い巨人のように、そびえています。その一階の右のすみの窓が一つだけ、明かるく光っているのです。
 小林君は、その窓のほうへ、歩きかけたのですが、とつぜん、ハッとして、立ちどまりました。すぐ横の、大きな木の下に、なにか動いているものがあったからです。
 四十面相が、まちぶせしていたのでしょうか。いや、そうではありません。そこに立っていたのは、もっと小さな人間だったのです。小学校一年生ぐらいの、かわいい女の子だったのです。オカッパ頭の赤い色の洋服をきた女の子が、両手を目にあてて、シクシクと泣いていたのです。
 そんな小さな女の子が、たったひとりで、まっ暗な庭に立っているなんて、ただごとではありません。どこか、近くにおとながいるのではないかと、しばらく、ようすを見ていましたが、どこにも、それらしいすがたは見えないのです。
 小林君は、思いきって、女の子のそばにより、ソッと、その肩に手をのせました。すると、女の子はビクッとして、小林君を見あげましたが、乞食の少年のすがたを、こわがって、逃げだすかと思うと、逃げだすどころか、いきなり、おそろしいいきおいで、小林君にすがりついてきました。そして、小林君のからだを、だきしめるようにして、ブルブルふるえているではありませんか。
「どうしたの? きみ、ここのうちの子なの?」
 小林君がささやき声でたずねますと、少女は、コックリとうなずいてみせました。
「どうして、こんなところに、いるの?」
「あたしこわいの。」
 少女も、あたりをはばかるように、ささやき声で答えました。
「こわいって、なにがさ。」
「地下室にいるの。お化けがいるの。」
 小林君は、いくらお化けがいるにしても、こんなまっ暗な庭のほうが、もっとこわいはずではないかと思いました。こわければ、おとうさんかおかあさんのところへ、行けばいいのにと思いました。
「きみのおとうさんは、おうちにいないの?」
「いないの。さがしても、いないの。」
「おかあさんは?」
「死んだの。もうせん、死んじゃったの。」
「女中さんは?」
「ばあやでしょう。ばあやは、おつかいに行ったの。」
「じゃあ、きみのうちは、おとうさんと、きみと、ばあやと、三人きりなの?」
「ウン。」
「すると、きみは、ひとりぼっちなんだね。」
「ウン。」
 どうもへんです。こんな大きな洋館に、たった三人で住んでいるのでしょうか。しかも、おとなはふたりとも、どこかへ行ってしまって、小さな女の子を、ひとりぼっちにしておくなんて、なんというじゃけんな人たちでしょう。いったい、ここの主人というのは、なにをしている人でしょうか。
「きみのおとうさんは、どんな人なの? おつとめがあるの?」
博士(はかせ)なの。」
「エ、博士だって? じゃあ、学者なんだね。」
「そうよ、えらい博士なのよ。」
「なんの博士なの?」
「ご本の博士なの。ご本がどっさりあるの。」
 少女には、それ以上のことは、わからないようです。
「きみ、いつから、この庭にいるの。」
「いまよ。いま逃げてきたのよ。」
「どこから?」
「地下室から。」
「きみのお部屋は、地下室にあるの?」
「ううん、あたしのお部屋は、あすこよ。」
 少女は、たった一つ電灯のついている窓を、ゆびさしました。
「じゃあ、どうして地下室へ、いったの?」
「音がしたからよ。」
「で、地下室に、何がいたの?」
「お化けよ。お化けが三びきいるの。」
 少女は、ふるえ声で答えて、もっとつよく、しがみついてきました。


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