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怪奇四十面相-破译暗语
日期:2021-11-21 23:16  点击:315

暗号解読


 その日のお昼すぎ、明智探偵事務所の客間に、三人の客がつめかけていました。黒井博士と、松野、八木の、三つの黄金どくろの持ちぬしです。
 明智は宮永さんのうちから帰ると、一室にとじこもって、暗号をしらべましたが、三十分ほどで、すっかり、それをといてしまいました。そこで、三つの黄金どくろの持ちぬしに電話をかけ、事務所にあつまってもらって、こんごの計画について、相談をすることにしたのです。
 客間のテーブルをかこんで、明智探偵、小林少年、黒井博士、ミシン会社の社長の松野さん、貿易会社の社長の八木さんの五人が、イスにかけていました。テーブルの上には、三人の客が持ってきた三つの黄金どくろが、ならべてあり、明智は白い紙を前において、それに鉛筆で、かな文字を書きながら、暗号の説明をしているところです。
「この三つのどくろに、ほりつけてある、かな文字を、ふつうに読むと、こんなふうになりますね。」
 明智はそう言いながら、紙の上に、つぎのようにしるしました。

 

「小林君から聞きますと、いつかの晩の、あなたがたの会合で、このひとつひとつの文句を横にして、おわりのほうから、ぎゃくに、ならべてごらんになった。こんなふうにですね。」
 そして、明智はまた、紙にそれを書いてみせるのです。

「これで、かなり意味が、ついてきました。しかし、この第一の文句と、第二の文句とが、どうもうまくつづかない。そこで、あなたがたは、このあいだに、もうひとつ、第四の黄金どくろの文句が、はいるのではないか、つまり、三つだと思っていたどくろが、じつは、四つあるのではないかと、気づかれたのですね。
 ところが、その第四の黄金どくろを、四十面相が、さがしだしてくれた。われわれは、いまでは、その第四のどくろの呪文を、ハッキリ知っているのです。それを、ここへ書いてみましょう。」

「上のほうは、縦に読んだもの、下のほうは、それを横にして、おわりのほうから、ならべたものです。さっきの三つのどくろの文句と同じやり方です。さて、この下のほうの四行の文句を、さっきの三つの文句の第一と第二のあいだに入れてみましょう。

「これで、うまくつづいたようです。右のほうから、縦につづけて、読んでみますよ。いいですか。」
 明智はえんぴつで、かなをたどりながら、つぎのように、読みくだしました。

きのもりとざきどくろじま、どくろのさがんをさぐれよ、ながるるなんだのおくへと、ゆんでゆんでとすすむべし

「口調はいいですね。もう、ぬけたところはないようです。しかし、この意味をとくのは、ちょっと、むずかしい。百年もまえに書かれたという、むかしの文章ですからね。でも、むかしの文章を、読みなれた人には、じきにわかるのです。
 いいですか、まず、『きのもりとざき』と読むのです。ここで切るのですよ。これは土地の名まえです。きのというのは、漢字で書くと、『紀の』となります。『紀伊(きい)の国の』という意味です。むかしは『きいの国』を『きの国』とも言ったのです。つまり、今の和歌山県ですね。
 そこで、私は、和歌山県の地図をだしてみました。すると、新宮(しんぐう)串本(くしもと)のあいだの海岸に、森戸崎(もりとざき)というみさきがあるのです。この文句の『もりとざき』にあたるわけですね。
 これで、『きのもりとざき』は、わかりました。つぎは『どくろじま』です。漢字で書けば髑髏島(どくろじま)ですね。和歌山県の森戸崎のそばに『どくろじま』という島があるのではないでしょうか。
 わたしは、友だちの名簿をくって、串本から東京に出てきている人を、さがしあてました。そして、その人に電話をかけて、森戸崎のそばに『どくろじま』という島がないかと、たずねてみました。すると、わたしの思ったとおりでした。森戸崎から四キロほど沖合いに、ぞくに『どくろじま』とよばれている、小さな、人の住んでいない島があることが、わかりました。
 その島は、森戸崎のうしろの峠の上から、ながめると、骸骨の頭のような形をしているので、むかしから、『どくろ島』とよばれているのだそうです。さしわたし六百メートルほどの、岩でできた、小さな島で、そのまわりには、海面にあらわれていない岩がたくさんあって、海の水が、白いあわをたてて、うずをまいているという、あぶない場所だそうです。そのうえ、島のかたちがきみの悪いところなのですから、漁師たちも、めったに、この島へは、近よらないということでした。なんと、宝物を、かくすのには、くっきょうの場所ではありませんか。」
 明智は、ここで、ちょっと、ことばをきって、三人の客を見ました。黒井博士たちは、黄金どくろのなぞが、いまにも、とけそうになってきたので、もう、いっしょうけんめいです。明智の顔をじっとみつめたまま、身うごきするものもありません。
「さて、第二行めは、『どくろのさがんを』で、きるのです。『さがん』というのは、漢字で書けば、『左眼』だろうと思います。つまり、左の目ですね。どくろ島には、二つの目のように見える、岩穴があるのではないでしょうか。左眼というのは、その左のほうの岩穴のことかもしれません。そこを『さぐれよ』です。その左の岩穴を、さがせという意味でしょう。
 第三行めの『ながるるなんだ』は、『流るる涙』です。涙のことを、むかしは『なんだ』といいましたね。つまり、この行は、『ながれる涙の奥のほうへ』という意味です。
 しかし、涙とは、いったいなんでしょう。岩でできた島が涙をながすはずがありません。この涙というのは、おそらく、滝のように水がながれだしているのです。左の目にあたる岩穴から、水が流れだしているので、それを、涙にたとえたのでしょう。その水のながれだす穴の奥のほうへという意味です。
 第四行めの『ゆんでゆんで』は、これもむかしのことばで、弓手(ゆんで)弓手と書くのです。弓をもつほうの手、すなわち左手の意味です。で、この行は、左のほうへ、左のほうへ、『すすむべし』、すすんで行けというのですね。
 もう一度、ぜんたいの意味をつづけて言いますと、和歌山県、森戸崎の沖にある『どくろ島』の、水の流れだしている岩穴の中にはいって、左へ、左へとすすんで行け、というのです。きっと、そのおくに、大金塊が、かくしてあるのです。」
 明智の説明がおわりますと、三人の客は、すっかり、感心してしまって、しばらくのあいだ、だまりこんでいましたが、やがて、黒井博士が、口をひらきました。
「いや、じつに明快です。さすがは、明智さんだ。これで、百年間の秘密が、すっかり、とけてしまったわけですが、それにつけても、ちょっと心配なことがあります。四十面相は、われわれの三つのどくろと、宮永さんのどくろの文句を、みんな知っているはずです。あいつのほうでも、暗号を、といてしまったというようなことは、ないでしょうか。」
 そうです。それが、このさい、なによりも気がかりでした。松野さんも、八木さんも、心配らしく明智の顔をみつめます。
「たぶん、あいつも、いまごろは、暗号をといたでしょう。わたしと四十面相とは、ものを考える力が、ほとんど同じぐらいなのです。わたしに、とける暗号なら、あいつにも、とけるはずです。」
「すると、あいつは、もう和歌山県へ、出発したかもしれませんね。」
「そうです。わたしも、それを心配しているのです。しかし、わたしには、ひとつ、うまい考えがあります。それについては、あなたがたの、しょうだくをえなければなりませんが、この大金塊のことが、世間に知れわたることは、ごめいわくでしょうか。」
「いや、めいわくということはありません。なにも他人のものをとるわけではなく、先祖がかくしておいた金塊を、その子孫が、さがすのですから、だれにもはじることはありません。しかし、この秘密が、世間にひろがって、わるものに、先手をうたれるのが、こわいのです。そのために、いままでは、ごく秘密に、事をはこんできたのです。」
「わかりました。それならば、だいじょうぶです。わたしの考えというのは、あなたがたが、だれよりもはやく、どくろ島へ行ける方法なのですから。たとえ、四十面相が、もう東京を出発したとしても、あいつを追いこして、ずっとはやく、せんぽうにつけるという方法なのです。」
「ホウ、そんな、うまい方法があるのでしょうか。」
 黒井博士は、びっくりしたように、聞きかえしました。
「新聞社の飛行機ですよ。わたしはH新聞の重役とこんいなので、じつは、さっき電話で、相談してみたのです。ひじょうにおもしろいニュースを、きみの社で、ひとりじめにすることができるのだから、数時間、飛行機を使わしてくれぬかと、たのんだのです。くわしいことは、なにも言わなかったのですが、あいては、ぼくを信用して、しょうちしてくれました。社でもいちばん、しっかりした操縦士をつけて、貸してやろうというのです。」
「フーン、そいつは、おもしろいですね。しかし、その飛行機には、おおぜいは乗れないでしょうね。」
「操縦士のほかに三人しか乗れません。それで、あなたがた三人のうち、ふたりと、ここにいるわたしの助手の小林とが、飛行機に乗って、先発されては、いかがですか。わたしが行けるといいのですが、人のいのちにかかわる大事件を引きうけていますので、どうしても、手がはなせません。小林はまだ子どもですが、いままでの働きでもわかるように、じゅうぶん、わたしの代理がつとまると思います。」
「ああ、なにからなにまで、明智さんの知恵には感じいりました。おっしゃるとおりにしましょう。」
 黒井博士は、いさみたって言うのでした。

 


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