どくろ島
そのあくる朝、夜のしらじらあけに、ゆうべたのんでおいた漁師たちが、宿屋へ三人をむかえにきました。船の用意が、できたというのです。
黒井博士たちは、手ばやく身じたくをして、探検用の道具類と、宿屋につくらせておいた、みんなのおべんとうを、大きなリュックに入れて、若い漁師にかつがせ、浜に出ました。
見ると、ちょうど、いま太陽が水平線にのぼろうとしているところで、たなびくむらさきの雲のあいだに、おどろくほど、大きな、まっかな、まるいものが、ジリッ、ジリッと、目に見えて、大きく、すがたを、あらわしているのでした。
波うちぎわに、小さなさんばしがあって、そこに、いっそうの小船が、うかんでいました。ふつうの漁船にモーターをつけたものです。どこの海岸にもある、あの、ポンポンと音をたてて走る小船です。
みんなが、その船にのりこむと、年とった漁師が、とものほうのモーターのところに、腰かけて、機械を操縦します。見おくりにきていた宿屋の主人が、「ごきげんよく。」と、あいさつしたとき、黒井博士は、
「じゃあ、信号のこと、くれぐれもたのみますよ。」
と、声をかけました。主人はコックリと、うなずいてみせます。「信号」というのは、いったい、なんのことでしょう。その意味は、まもなく、わかるときがくるでしょう。やがて、小船はさんばしをはなれ、みるみる、岸からとおざかって、ポンポン、ポンポンと、いさましく、沖のほうへすすんでいきました。
もうそのころには、太陽が水平線の上のほうにのぼって、いままで、むらさき色にかすんでいた、遠くの海面が、まっかにそまった空の下に、あかあかとてりはえて、ハッキリ見わけられるようになっていました。
「アア、あれだ。あれが、どくろ島だ。」
小林少年が、船の中にたちあがって、沖のほうを、ゆびさしながら、さけびました。
あかい空の下に、クッキリと、うきあがっている、まっ黒な岩のかたまり。見るからに、ぶきみな島のすがたです。
「おじさん、あれを、どうして、どくろ島っていうの。ちっとも、似てないじゃないか。」
小林君が、じっと、そのほうをみつめて、たずねます。すると、年とった漁師が答えました。
「ここからじゃ、わかんねえだよ。だが、峠の上からながめるとね、あの島あ、しゃれこうべ、そっくりだあ。おっかねえ島だぞ。」
正面から見ては、どくろのようではありませんが、ゴツゴツした岩かどが、きみ悪く、そびえて、いかにも、魔ものでもすんでいそうな、おそろしい島です。
朝なぎで、波はたちませんが、ときどき、大きなうねりが、船をフワッとうかせます。すると、むこうの、まっ黒な島が、スーッとあがったり、また、さがったりするように見えるのです。
船がすすむにつれて、どくろ島は、だんだん、大きくなってきました。近づけば、近づくほど、ものおそろしい、すがたです。
やがて、岩ばかりの怪島が、目の前いっぱいに、たちふさがり、船はどくろ島の岸につきました。
「見なさるとおりの、おっかねえ島だ。船をつけるとこは、ここのほかには、ねえだよ。」
年とった漁師が、モーターをとめると、若い漁師が、さおをあやつって、小さな入江のようになったところへ、うまく船をつけました。もうひとりの若者が、すばやく、岩の上にとびあがり、船のへりをおさえます。そして、みんなは、つぎつぎと、岩の上にあがりました。