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怪奇四十面相-洞穴探险
日期:2021-11-21 23:16  点击:301

洞窟探検


 岩の上の若者は手旗で、「タレカ。」とたずねておいて、またしばらく双眼鏡を目にあてていましたが、やがて、にこにこして、岩山をかけおりてきました。そして、息をはずませながら、
「八木さんです。八木さんが、ふたりの人をつれて、いま、着いたっていうんです。」
 と、どなりました。
「よし、それじゃ、すぐに船で、むかえにいくんだ。じいさんに、そう言ってくれたまえ。」
 黒井博士が、さしずしますと、若者は、どくろ島の岸にまっている船のところへ、走っていって、年とった漁師に、このことをつたえました。すると、その小船は、ポンポンと発動機の音をさせて、島をはなれていくのでした。
 小船がむこうの岸について、八木さんたちを乗せてかえってくるのに、一時間あまり、かかりました。黒井博士たちは、まちどおしい思いをして、それをまっていましたが、やがて、かえってくる小船の形が、だんだん大きくなり、乗っている人の顔も見わけられるようになりました。
「オヤ、八木さんは、頭に、ほうたいを、まいている。左手にもまいている。どうしたんだろう。けがでもしたのかな。」
 黒井博士が心配らしく、つぶやきました。いかにも、船の上に、こちらをむいて立っている八木さんの頭と、左手に、白いきれが、まきつけてあるのが見えます。
 しばらくすると、発動機のポンポンいう音が、パッタリやんで、小船は、岩の入江の中へ、しずかにすべりこんできました。そして、八木さんたちの一行の三人が上陸します。
「どうしたんです。けがをしたのですか。」
 まず、それをたずねますと、八木さんは、にが笑いをして、
「ころんだのですよ。とちゅうで、自動車をおりて、やすんでいるときに、ちょっとしたがけから、転がり落ちたのです。さいわい、消毒薬やほうたいを用意していたので、その場で手あてをしました。なあに、たいしたことはありません……。それから、ここにいる、ふたりは、東京からつれてきた、わたしの知りあいで、登山の大家です。気ごころもしれていますし、こんどの探検には、うってつけの人たちです。」
 と、そばに立っている、ふたりの青年を、紹介しました。ふたりとも二十五、六歳で、漁師の若者にもまけない、りっぱな体格の、たのもしげな青年です。
 おたがいに、東京でわかれてからのことを話しあっているうちに、ひきしおの時がきたとみえて、漁師の若者が、洞窟の滝がとまったと、知らせてきました。
 それではというので、漁師に持たせてあったリュックの中から、べんとうをとりだして、まず、おなかをこしらえてから、岩のデコボコ道を、洞窟の入り口までたどりつき、いよいよ、その中へ、はいることになりました。
 漁師の若者のふたりは、化けものをこわがって、どうしても、はいりませんので、探検隊は、黒井博士、松野さん、八木さん、小林少年、八木さんのつれてきたふたりの青年の、つごう六人です。
 六人がめいめい、一つずつ懐中電灯を持ち、黒井博士たちはステッキを、小林君とふたりの青年は、登山用のピッケルを持っています。これが、いざというときの武器にもなるわけです。
 洞窟の中には、たくさん枝道があって、迷路のようになっていると聞いていたので、道をまよわないために、リュックの中に用意してきた、長い麻ひもを、洞窟の入り口の岩かどに、しばりつけ、そのひもを持って、だんだん、のばしながら、すすんでいくことにしました。そうすれば、道にまよって、かえれなくなる心配がないからです。
 登山になれた青年のひとりが、さきにたち、麻ひものたばをのばしながらすすむと、そのあとから、黒井博士、小林少年、松野さん、八木さん、いまひとりの青年というじゅんで、洞窟の中へ、はいりました。
 みんなが、ふりてらす懐中電灯で、あたりはよく見えるのですが、頭の上からのしかかる、デコボコの黒い岩はだが、まるで巨大な怪獣の口の中のようで、なんともいえぬ、おそろしさです。それに、いつも水が流れているため、岩がヌメヌメと、すべりやすく、ころばないように歩くだけでも、たいへんです。
 洞窟の入り口は、見あげるほど、大きいのですが、すすむにつれて、だんだん、せまくなり、やがて、道がふたつになっているところに、さしかかりました。怪獣の、のどのおくが、ふたつの穴にわかれているのです。右の穴は、いままでと同じヌメヌメした、ひろい道。左の穴はせまくて、いきなり、上のほうへのぼる坂道になっています。
「むろん、この小さいほうの穴へ、はいるんだよ。暗号に『ゆんでゆんでとすすむべし』と書いてあったんだからね。」
 黒井博士が、さしずしました。『ゆんで』とは、左のほうという意味の、むかしのことばです。
 その小さい穴にはいると、坂道は、かなりきゅうで、よつんばいにならなければ、歩けないほどです。
「アア、わかった……。ぼくはふしぎに思っていたのですよ。あんなに滝のように水が流れるんだから、もし、穴が下のほうにむいていたら、水がたまってしまって、とても、はいれないはずですからね。ところが、こっちの穴は、こんな、きゅうな坂になっているので、水がはいらないのですね。だから、安全な、宝ものの、かくし場所なんですね。」
 小林君が言いますと、黒井博士も、うなずいて、
「そうだよ。わしも、いま、それを言おうと思っていたところだ。じつに、安全なかくし場所だね。ひきしおの時のほかは、水が流れだしていて、とても、はいれないし、たとえ、水がとまっても、まさか、こんなところに、宝ものが、かくしてあろうとは、だれも考えないからね。」
 しばらく、その坂になった穴をのぼると、たいらな道になり、つぎには、くだり坂にかわりました。右に左に、まがりながら、穴は、どこまでも、下へ下へとおりていきます。二百メートルも用意した、大きな麻ひものたばが、もう四分の一も、のびていました。つまり、入り口から五十メートルほど、おくのほうへ、すすんでいたのです。
 穴はもう、ひどくせまくなって、ところによっては、しゃがまなければ、すすめないほどです。そうかと思うと、とつぜん、ひろくなって、懐中電灯のひかりが、天井の岩にとどかないほどの場所もあり、それがまた、にわかに、せまくなるのです。
 ずいぶん、ながいあいだ、下のほうへおりていきましたが、いまでは、ほとんど、たいらな道になりました。たいらといっても、岩穴のことですから、道はひどいデコボコで、うっかりしていると、つまずいて、ころぶのです。そのうえ、だんだん、枝道が多くなり、そのたびに左へ左へと、すすんでいくのですから、いま、どのへんにいるのか、まるで、けんとうもつきません。
 のぼり坂よりはくだり坂のほうが、ずっと長かったので、もう、海面よりも下にいるのでしょうが、それが、入り口から、どの方角にあたるのか、すこしもわかりません。
 いったい、このほらあなは、どこまでつづいているのでしょうか。二百メートルの麻ひもが、すっかりなくなっても、まだ、宝のかくし場所に、たっしなかったら、どうするのでしょう。いや、それよりも、黒井博士や小林君たちは、なにか、おそろしいことに、であうのではないでしょうか。漁師の若者が見たという、あの、えたいのしれない化けものは、どこにいるのでしょうか。それとも、化けものより、もっとおそろしい、なにごとかが、ゆくてのやみのなかに、まちかまえているのではないでしょうか。


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