大どくろ
そこは、岩の天井の高さが五メートル、ひろさも同じぐらいある、ガランとした、暗やみの、ほらあなでした。入り口から百五十メートル以上も、はいった、ふかいところなので、つめたい、まっ黒な空気が、まるでこおったように動かず、人間世界を遠く遠くはなれた地獄に落ちた気持ちでした。
六人は、てんでに、懐中電灯を、そのほらあなの、正面の岩かべに、ふりむけました。すると、岩かべぜんたいが、ギラギラと、目もくらむひかりを、はなったのです。黄金のかべです。さしわたし五メートルもある、ひろいかべが、すっかり黄金につつまれて、かがやいていたのです。
「アッ、金だ。これが、かくされた、宝ものだ。」だれかが、狂喜のさけびごえを、あげました。
しかし、ふしぎなことに、このよろこびのさけびは、そのまま、プッツリとぎれて、みんな、シーンと、しずまりかえってしまいました。なんともいえない妖気にうたれて、口をきくことも、身うごきすることも、できなくなったのです。
「アッ、まっ黒な目だ。まっ黒な目がにらんでいる。」
それは小林少年の、おびえた声でした。黄金のかべには、上のほうに、ふたつの大きな穴が、ならんでいました。まっ黒な穴です。あまり大きくて、わからなかったのですが、ハッと気がつくと、それは二つの目にちがいありません。
そういえば、鼻にあたる場所に、うすきみの悪い三角がたの大きな穴があり、その下に、巨人の金歯がズラッと、ならんでいるではありませんか。ああ、斧のような歯。これが、あの漁師の若者をきちがいにした、おそろしい巨人の歯ならびだったのです。
「まっ黒な目でにらみつけた。」
「斧のような歯で、かみつこうとした。」
若者は、熱病にうかされて、そんなことを、口ばしったというではありませんか。それが、この黒い目と、金色の歯なのです。
黄金のかべに、目があり、鼻があり、口があるとすると、かべそのものが、一つの顔なのでしょうか。そうです。ジーッと見ていますと、かべぜんたいが、巨大な顔であることが、わかってきます。しかも、それは骸骨の顔なのです。黒井博士たちが、持っていた、あの黄金どくろを、何万倍にした、巨人のどくろだったのです。これを見たとき、学者の黒井博士でさえ、気が遠くなるほど、びっくりしました。まして、迷信ぶかい漁師が、この巨大な黄金どくろを、化けものと考えたのは、むりもありません。ふかいふかい洞窟のおくに、こんなものが、かくしてあろうなどとは、思いもよらぬことです。思いもよらぬ場所で、思いもよらぬものを見れば、たいていの人は、化けものに、であったと思うのです。
それにしても、博士たちの先祖は、こんな大きなものを、どうして、ここへ持ちこむことができたのでしょう。黒井博士は、いかにもふしぎだというように、首をかしげながら、その大どくろに近づいて、懐中電灯で、しらべてみました。松野さんや八木さんも、そばによって、どくろの黄金のはだに、さわってみるのでした。
「わかった、わかった。たくさんの黄金の板を、はこんできて、ここで、つぎあわせたものだよ。そうでなければ、ここまで、はこんでくる道で、みんなに見られてしまうわけだからね。」
いかにも博士の言うとおり、それは何百何千という金の板を、金の鋲でつなぎあわせて、どくろのかたちに、つくったものでした。博士たちの先祖は、よほどかわりものだったとみえて、手数をいとわず、こんな怪物を造りあげておいたのです。
しかし、それは、ただ、ものずきというだけではありません。ぶきみな洞窟のおくの、やみの中に、こんなおそろしいかたちにして、黄金をかくしておけば、たとえ、洞窟にはいるものがあっても、ひとめ見て、逃げだしてしまうにちがいないからです。げんに、漁師の若者は、化けものと信じきって、熱病にかかって、死んでしまったではありませんか。ここに、黄金をかくした人の、ふかい考えがあったのです。