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灰色巨人-巨象出逃
日期:2021-11-28 23:57  点击:301

灰色の巨ゾウ


 そのさわぎのさいちゅうに、テントの外に、ワーッという、ときの声があがりました。
「ゾウだっ、ゾウが逃げた。」
 サーカスのうらてを、みはっていた五人の警官が、いちもくさんに逃げてきます。そのうしろから、一ぴきの大きなゾウが、のそりのそりと歩いてきました。サーカスの前につながれていた足のくさりを切って、逃げだしたのです。
 サーカスの人たちも、これに気づくと、テントの外へ、とびだしてきましたが、ゾウつかいの男が、どこかへいって、そのへんに、いないものですから、どうすることもできません。ただ、ゾウを遠まきにして、ワアワアさわいでいるばかりです。
 そのとき、大テントのやねの上の宝冠の少女は、三人の男に追いつめられて、ちょうどゾウが歩いている上の、テントのはじまで逃げていました。そこはテントのやねのとったんですから、もう逃げるところがありません。うしろからは、男の曲芸師たちが、おそろしい顔でせまってきます。
 少女はテントのはじから、下をのぞきました。そこに、だれもいなければ、とびおりるつもりだったのです。ところが、その下には、おおぜいの人が、逃げだしたゾウをとりまいて、さわいでいるではありませんか、そんなとこへとびおりたら、いっぺんに、つかまってしまいます。
 しかし、いまとびおりなければ、つぎの瞬間には、うしろからせまってくる曲芸師に、つかまるのです。少女は、いそがしく頭をはたらかせているうちに、はっと、ひとつの考えがうかびました。いちかばちかの大冒険です。でも、いまとなっては、もうそのほかに、のがれるみちはありません。
 ゾウはちょうど少女のま下を、のそのそと歩いていました。少女は、そのゾウのせなかをめがけて、パッと、身をおどらせたのです。ひとつまちがえば、ゾウにふみころされてしまうところでした。しかし、さすがに曲芸できたえたうでまえです。少女はうまくゾウのせなかに、とびおりて、そこにすがりつき、たちまちゾウの首にまたがってしまいました。
 のんきらしく歩いているところへ、ふいに天から、人がふってきたものですから、ゾウはびっくりしてしまいました。ひと声ゴウッとうなると、長いはなをまっすぐにのばして、いきなり、タッタッタッと、かけ出したではありませんか。
 遠まきにしていた人びとは、ワーッといって、クモの子をちらすように、逃げはしりました。ゾウつかいがいないので、だれもゾウをとりしずめるものがありません。うっかり前にまわろうものなら、たちまちふみころされてしまいます。
 少女をのせたゾウは、どんどん走って八幡神社の森の中へはいりました。警官、サーカスの人たち、さわぎを聞いてテントから出てきた見物の人たち、百人に近い人びとが、はるかうしろから、ゾウを追ってきましたが、ただワアワアといっているばかりで、とても近よる勇気はありません。
 いちばん勇敢なのは、二十人の少年探偵団員でした。かれらは小林団長のさしずで、十人ずつ二隊にわかれ、一隊は神社のむこうの二つの出口に、さきまわりをして、ゾウの出てくるのを待ちうけ、一隊はゾウのうしろから、おおぜいの人たちの、せんとうにたって走っていくのでした。
 ゾウが神社の森にはいったときも、少年たちは、その入口のすぐそばまできていました。ところが、そこで、おそろしいことがおこったのです。ゾウが、いきなりクルッと、うしろをむいたのです。そして、長いはなをふり動かし、大きな耳をぱたぱたさせ、白いキバをさかだて、まっかな口を大きくひらき、ゴーッという、すさまじいうなり声をたてて、いまにもとびかかりそうにしました。
 さすがの少年たちも、そのものすごいぎょうそうを見ると、いちもくさんに、逃げだしました。それにつれて、おっかなびっくりで、少年団員のあとからついてきた人びとも、ワーッと、なだれをうって逃げるのでした。
 みんなが逃げさるのを見ると、巨ゾウはまた、むきをかえて、宝冠の少女をせなかにのせたまま、神社の森の中へ、姿を消してしまいました。
 あんなにおどろかされたので、もうだれも森の中へ、はいろうとするものはありません。そこの入口を遠まきにして、がやがや、さわいでいるばかりです。
 それから十分ほどもたったでしょうか。神社のむこうの出口にまわっていた、少年探偵団員のひとりが、いきせききって走ってきました。そして、こちらにいた小林団長を見つけると、そのそばにかけよって、
「小林さん、ゾウはむこうから出ていきました。でも宝冠をかぶった女の人は、ゾウにのっていないのです。この森の中へかくれたのだろうとおもいますから、ぼくたちは、あちらの見はりをつづけます。」
と報告し、そのまま引きかえしていきました。
 小林少年が、そのことを、そばにいた警官たちにつたえますと、警官のひとりが、まだサーカスの中にいた中村警部をよびに走り、やがて、警部と三人の刑事がかけつけてきました。それから森の入口にいた五人の警官を、神社の三つの出入り口や、まわりの土塀(どべい)の外に見はりをさせておいて、警部と三人の刑事は、神社の森の中の捜索をはじめました。小林少年は、そこにいた団員のうちの五人に、警官とおなじように見はりばんをさせ、あとの四人をつれて警部のあとから森の中にはいり、捜索の手つだいをしました。
 むこうがわの入口に石の鳥居(とりい)があって、そこから社殿まで、ずっと、しき石の道がつづき、両がわにたくさんの石どうろうがならび、社殿の前には、二ひきの大きな石のコマイヌが、石のだいの上にうずくまっています。そのあたりはいうまでもなく、森の立木の中、社務所の建物の中、社殿の中、のこるくまなく、しらべました。中村警部は、社務所の神官にたのんで、一年に一度しかひらかない、社殿のおくの(とびら)までひらかせてみました。社殿や社務所や(どう)のゆかしたもしらべました。
 中村警部と三人の刑事と、小林君たち五人の少年のほかに、むこうがわの入口に、見はりをつとめていた十人の少年のうちの五人が、ちゅうとから捜索にくわわったので、少年団員は十人です。それだけの人数で一時間あまりもさがしにさがしても、宝冠の少女は、どこにも発見することはできませんでした。神社への三つの出入り口は、警官と少年団員とで見はっていましたし、神社の森をかこむ土塀の外にも、警官や少年が行ったりきたりしていたのですから、少女が神社のそとへ逃げだすことは、ぜったいにできなかったのです。たしかに、中にいたのです。それが、こんなにさがしても、見つからないのですから、じつにふしぎというほかはありません。あの少女は忍術でもつかって、姿を消してしまったのではないでしょうか。


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