一寸法師のゆくえ
中村警部は、ひとまず捜索をうちきって、明智探偵ののこっているサーカスの中へ、ひきあげることにしました。少年探偵団員もそのあとについて、ひきあげたのですが、そのみちで、園井正一少年は小林団長に話しかけました。
「ねえ、小林さん、あの女の人、どこへかくれたんだろう。まるで魔法つかいみたいだね。」
「うん、ふしぎだねえ。しかし、きっとあの神社の中の、どこかにかくれているんだよ。明智先生ならさがしだせるんだがなあ。」
「先生はどこにいるんだろう。」
「サーカスの中だよ。」
「どうして神社へ、こなかったんだろう。」
「サーカスの中に犯人がいるからさ。」
「えっ、犯人が?」
「あの一寸法師と大男さ。ほんとうの犯人はあのふたりかもしれないよ。だから、先生は、ふたりのやつを見はっていらっしゃるのだよ。」
「ああ、そうか……。だが、ねえ、小林さん、ゾウはどうしたんだろうね。ぼく心配だよ。町の人が、はなでまきあげられたり、キバで、きずつけられたり、あの大きな足で、ふんづけられたりしているんじゃないかしら。」
「いまじぶんは、大さわぎをやってるよ。中村警部さんに聞いたらね、警察と消防署から、おおぜいの人が、ゾウをつかまえるために出動しているんだって、町の中のゾウ狩りだよ。」
「ピストルでうつのかしら。」
「いや、ころさないで、つかまえるんだって。そのために消防自動車が、何台も出ているんだって……正ちゃん、きみどうおもう? あのゾウは灰色だろう。だから、灰色の巨ゾウだね。……灰色の巨人……灰色の巨ゾウ。なんだか口調がにてるじゃないか。」
「ほんとだ。灰色の巨ゾウだね。へんだねえ。なにかわけがあるのかしら。」
「なんだか、あやしいよ。こんどの犯人は魔法つかいみたいなやつだからね。どこにどんないみが、かくされているかわからないよ。」
そんな話をしているうちに、サーカスにつきました。あんなさわぎがあったので、きょうは、興行を中止することにして、見物人たちは、みんなかえしてしまいましたので、大テントの中はがらんとして、きみのわるいほどしずかになっていました。
中村警部はがくやの入口で明智探偵を見つけて、神社のできごとを、のこらず話して聞かせました。そして、
「一寸法師と大男は、どこにいるんだね。」
とたずねるのでした。すると、明智は、まゆをしかめて答えました。
「まったく、ゆくえ不明なんだ。どこへいったのか、まるで、煙のように消えてしまった。」
「えっ、あのふたりも消えてしまったのか。宝冠の少女も消えてしまったし、こりゃいったいどうしたことだろう。」
「がくやをさがしてもいないので、見物人にまじって、にげ出しやしないかと、ぼくは、見物人がかえりかけてから、ずっと、木戸口で見はっていた。あんな大男とこびとだから、いくらごまかそうとしても、すぐわかるはずだが、それらしいやつは、見物人の中にはひとりもいなかった。」
「テントのすそをまくって、出入り口でないところから逃げだす手もあるが、それは、テントのまわりに、見はりの巡査をのこしておいたから、見のがすはずはないね。」
「そうだよ。その見はりの警官に、たずねてみたが、ぜったいに、逃げだしたはずはないというんだ。がくやのものも、ひとりひとり、しらべたが、だれも知らない。ゾウのさわぎのとき、がくやからとび出していった連中もあるが、その中には、大男も一寸法師もいなかったはずだね。」
「それはぼくの部下が見て、知っている。あの連中のなかには、そのふたりはまじっていなかった。これは、まちがいない。」
「すると、やっぱり、このテントのどこかに、かくれているのかもしれない。そして、宝冠の女も、まだ神社の中にかくれているのかもしれない。じつにおもしろくなってきた。ぼくはこういう犯罪がすきだよ。魔法つかいみたいなやつがね。それについて、ぼくは、ひとつ考えがある。その考えを、やってみるつもりだ。きっと三人とも発見してみせる。」
明智は自信ありげにいうのでした。それにしても、大男と、一寸法師と宝冠の少女は、どこにどうして、かくれているのでしょう。また、明智探偵は、あれほど捜索しても、わからなかった三人を、いったい、どんな方法で、さがしだそうというのでしょう。
あとでわかったのですが、三人は、じつにふしぎな場所にかくれていました。かれらは、いつもみんなの目の前にいたのです。それでいて、ぜったいに発見されないような、かくれかたをしていたのです。それがわかったとき、読者諸君は、あっとおどろくにちがいありません。明智探偵でさえもおどろいたのです。中村警部や部下の警官たちは、いっそうおどろいたのです。
しかしこの秘密は、あとのおたのしみとして、そのまえに、神社から町へ逃げだした巨ゾウが、どうしてつかまったかということを、しるしておかなければなりません。