町のゾウ狩り
八幡神社から逃げだしたゾウは、夕がたの町を、のそりのそりと歩いていきました。
ラジオが、ゾウの逃げたことを、いち早くつたえたので、そのちかくの町には、ぱったりと人通りがとだえてしまいました。いつもは、にぎやかな町が、まるで、真夜中のように、しずまりかえっているのです。
ゾウのはるかうしろから、警官の一隊がものものしく、ついせきしています。しかし、ゾウに近よるものは、だれもありません。
やがて、ゾウは電車通りに出ました。そこには、まだ自動車が走り、人が歩いていましたが、巨ゾウの姿をひと目みると、人も自動車も、大いそぎで逃げだしてしまいました。
そこへ、むこうから電車が走ってきました。運転手はラジオを聞いていなかったので、なにもしらないのです。ヒョイと気づいたときには、もうゾウが目の前に近づいていました。運転手は、びっくりぎょうてんして、ブレーキをかけました。
しかし、おどろいたのは、運転手よりもゾウのほうでした。大きな家のようなものが、じぶんの方へ突進してきたので、びっくりして、いきなり、あばれ出しました。いままで、のそのそと、歩いていたのが、おそろしいいきおいで走りだしたのです。もう手がつけられません。警官隊は、ただそのあとから走っていくばかりです。
そのころ、近くの消防署から、四台の消防自動車が出動していました。ゾウの進んでいく道は、たえず電話で知らされていたので、消防車はさきまわりをして、ゾウを待ちうけることにしたのです。その赤い車体が、電車通りのはるかむこうに、あらわれました。
ゾウは電車通りを三百メートルも走ると、横町にまがりました。消防車はそれを待っていたのです。二台は、大まわりをして、ゾウのゆくてに立ちふさがり、あとの二台はゾウのうしろから、せまりました。つまり、ゾウをはさみうちにしようというのです。
横町にはいると、ゾウはいくらか気がしずまったらしく、かける速度がにぶくなってきました。しかし、まだのそのそではありません。タッタッタッと、いきおいよく進んでいきます。
そのとき、ゾウのゆくてに、さきまわりをした二台の消防車が、横にならんで、とうせんぼうをしていました。そんなにひろい町ではありませんから、二台の消防車が横にならぶと、まったくすきがなくなってしまうのです。いくらゾウでも、あの大きな消防車を、とびこすことはできません。しかたがないので、ゾウはそこで立ちどまり、クルッとむきをかえて、うしろへひっかえそうとしました。
ところが、うしろをむくと、すぐそこに、べつの消防車が二台横にならんで、とおせんぼうをしていました。そこにも自動車のかべができていたのです。ゾウはめんくらって、また立ちどまり、もういちど、むきをかえて歩きだしましたが、五十メートルもいくと、さっきの自動車のかべです。そこでまたむきをかえる。そうして、ゾウは消防車と消防車のあいだを行ったりきたり、おなじところを、グルグルまわるほかはなくなったのです。
それよりすこしまえ、上野動物園のゾウつかいの名人が自動車でかけつけて、消防車のうしろに待ちかまえていました。またどこかへあそびに出かけていたサーカスのゾウつかいも、ラジオを聞いて、おどろいてかけつけました。
消防車で前後をふさがれ、グルグルまわっているうちに、だんだん気がしずまっているところへ、ゾウつかいがふたりもきたのですから、もうだいじょうぶです。ゾウは、なんなくゾウつかいに、つかまえられ、水や、えさをあてがわれて、すっかりおとなしくなってしまいました。
それから、ふたりのゾウつかいは、なるべくしずかな町を通って、ゾウをサーカスまで、つれもどすことができました。こうして、あれほどのゾウのさわぎも、ひとりのけが人も出さないで、ことなく、おさまったのでした。
さて、ゾウはもどりましたが、ゆくえしれずになった三人の人間がのこっています。
明智探偵は、あの大男と一寸法師は、サーカスのテントの中に、宝冠の少女は、神社の森の中に、ふしぎな魔術をつかって、かくれているというのですが、かれらは、いったい、どのようなかくれかたをしたのでしょうか。
明智は助手の小林少年に、ひとつの命令をあたえました。
小林君は、明智先生にたいしては助手ですが、少年探偵団にたいしては、指揮権をもつ団長です。
そこで、二十人の少年団員を指揮して、明智先生にかわって、三人の悪人をさがすことになるのです。