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灰色巨人-不速之客
日期:2021-11-28 23:58  点击:296

ふしぎなくずや


 園井さんは、明智探偵に電話をかけて、電話口で灰色の巨人からの手紙を読みあげました。直通の電話ですから、だれもぬすみ聞きはできません。敵にさとられる心配は、すこしもないのです。
 すると、明智探偵は、しばらく考えてから、答えました。
「あいてのいうとおりにしてください。あなたが『にじの宝冠』を持って、その自動車に乗るのです。賊は正一君にうらみがあるわけではありませんから、宝冠さえやれば、正一君はきっと返してくれます。また、あなたの身にも、危険はないと思います。」
「それじゃあ、みすみす宝冠を取られてしまうのですか。」
 園井さんが、ふまんらしく、聞きかえしますと、明智は笑い声になって、
「いや、一度は、わたしても、じきに取りかえします。そこに計略があるのです。安心して、ぼくにおまかせください。こんどこそ、巨人をあっといわせてお目にかけます。十一日といえば、まだ三日ありますね。それまでに、あなたも、びっくりなさるようなことが、おこりますよ。まあ、見ていてください。」
 名探偵が、それほどにいうものですから、園井さんも信用して、
「では、ばんじおまかせします。どうかよろしくねがいます。」
といって、電話を切りました。
 そのよく日の朝、さっそく、園井さんを、びっくりさせるようなことがおこりました。
 きたないふうをした、ひとりのくずやが、大きなくずかごをかついで、園井さんのやしきのうら門から、勝手口へ、ノコノコとはいってきました。あつかましいくずやです。
 そこにいた女中さんが、あきれてくずやの顔をにらみつけました。
「くずはありませんよ。だまって門の中へ、はいってきてはこまります。さあ、早く出ていってください。」
と、しかりつけるように、いいました。すると、くずやは、ぶしょうヒゲのはえた、きたない顔を、きみわるくゆがめて、にやにやと笑いました。そして、いきなり、女中さんのそばによって、その耳に口をあてて、なにかボソボソと、ささやいたのです。女中さんは、こわくなって逃げだしそうにしましたが、逃げだすまえに、そのささやき声が聞こえてしまいました。
「えっ、じゃあ、あなたは……。」
 女中さんが、とんきょうな声で、そういいますと、くずやはまた、うすきみわるく、にやにやと笑って、うなずいてみせるのです。
 女中さんはおくの方へ、かけこんでいきました。そして、また、もとの勝手口へもどってきたときには、女中さんのほうも、にこにこ笑っていました。そして、ていねいに、くずやにおじぎをして、
「どうか、おあがりくださいませ。」
といって、おくの方へ、あんないしました。くずやは、きたないどたぐつを勝手口にぬいで、女中さんのうしろからついていきます。
 通されたのは、りっぱな応接間でした。くずやはくずかごをそばにおいて、大きな安楽いすに、いばりかえって、どっかと、こしかけました。
 そこへ主人の園井さんが、はいってきて、
「あなたが、明智さんですか。ほんとうに明智さんですか。」
と、うたがわしそうに、くずやの顔を、じろじろながめました。
「そうですよ。ぼくの変装は、なかなか見やぶれませんからね。じゃ、これをとりましょう。さあ、どうです。これなら、わかるでしょう。」
 くずやはそういって、顔のぶしょうヒゲに指をかけると、それをめりめりと、ひきはがしました。顔の皮を、めくってしまったのです。その下から、あらわれたのは、たしかに明智探偵の顔でした。
 園井さんは、あっといったまま、つぎのことばもでません。
 明智は、ちょっとのあいだ、素顔を見せるとまた、つけヒゲを、顔にはりつけました。すると、もとのきたないくずやです。
 くずやは、そばにおいたくずかごの、かみくずをかきわけて、二つの黒いウルシぬりの箱を取りだして、テーブルの上にならべました。そして、両方のふたをとると、いっぽうには、金色の王冠がはいっていて、もう一つの方は、からっぽの箱でした。
「この王冠は、れいのサーカスの少女たちがかぶっていた、メッキの王冠のひとつを、かりてきたのです。これが手品の種になるのですよ。しかし、このままではいけません。おたくの『にじの宝冠』とそっくりの形に、なおさなければなりません。十一日までには、まだ二日あります。そのあいだに、かざりやにたのんで、秘密にこれをなおさせるのです。それには『にじの宝冠』を見せなければなりませんが、あのたいせつな品を、外へ持ちだすのは危険ですから、ぼくが、ここで写生して、その絵をかざりやに見せて、なおさせることにします。」
 くずやにばけた明智の説明を聞いて、園井さんは、みょうな顔をしました。
「にじの宝冠のかわりに、そのにせものを、巨人にわたして、ごまかすのですか。しかし、あのぬけめのないやつが、そんなにせもので、ごまかせるでしょうか。」
「いや、にせものを、わたすのではありません。あなたが持っていかれるのは、やっぱりほんものの方です。そして、あれをあいてにわたすのです。このにせものをつかうのは、そのあとですよ。正一君を取りかえしてしまったあとで、ちょっと手品をやるのです。それには、箱もおなじでないと、ぐあいがわるいので、銀色の箱のかわりに、この黒ウルシぬりの箱に、ほんものの『にじの宝冠』をいれて、持っておいでください。この箱も、手品の種のひとつなのです。この手品が、まんいち失敗しても、まだほかに、もっとたしかな手も考えてあります。その二つの計略で、かならず『にじの宝冠』を、取りかえしてお目にかけます。」
 明智は、自信ありげにいうのでした。
「そのもうひとつの計略というのは、どういうことでしょうか。」
 園井さんが、心配らしくたずねました。
「それは、しばらく、秘密にしておきます。やっぱり、ひとつの手品ですよ。魔法といったほうが、いいかもしれません。賊の自動車に、ほそい糸がつくのです。その糸が、どこまでものびていくのです。賊の自動車は、いくら走っても、その糸をたち切ることができないのです。」
 明智は、なぞのようなことをいいました。まさか自動車に糸をむすびつけるわけではないでしょう。そんなことをしたって、すぐに切れてしまいますし、また、なんキロというような長い糸玉は、とても大きくて、かくしておけるものではありません。
 園井さんは、このなぞをとくことができませんでした。しかし、明智が秘密にしておきたいというものですから、深くもたずねないで、名探偵の知恵を信用することにしました。
 そこで、園井さんは「にじの宝冠」を、金庫から取り出してきて、テーブルの上におきました。明智は、やっぱりくずかごの中から、まるめた画用紙をとりだし、それをひろげて、えんぴつで写生を、はじめました。二十分ほどで、うつしおわると、テーブルの上の、からの箱だけをのこして、にせものの王冠は、もうひとつの箱に入れて、写生した画用紙といっしょに、くずかごの紙くずのなかにかくしました。
「では、十一日には、賊の手紙に書いてあったとおりにしてください。あとは、きっとぼくがひきうけますから、ご心配なく。」
と、ねんをおして、くずやは、かごをかついで、そのまま帰っていきました。
 さて、名探偵の二つの手品は、いったい、どんなふうにして、おこなわれるのでしょうか。そして、それは灰色の巨人の怪物団を、うまくごまかすことができるのでしょうか。


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