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灰色巨人-巨人真相
日期:2021-11-28 23:58  点击:282

巨人の正体


 園井さんが「にじの宝冠」とひきかえに、正一君をとりもどした、あくる日、園井さんの家へ、へんな男がたずねてきました。ジャンパーをきて、鳥うちぼうをかぶり、めがねをかけ、せなかにふろしきづつみをしょった、いなかの行商人みたいな男です。
 女中さんがあやしんで、ことわろうとすると、その男は、女中さんの耳になにかささやきました。それを聞くと、女中さんはびっくりしたような顔で、おくへはいっていきましたが、すると、園井さん自身がげんかんへ出てきて、へんな男を応接間へ通しました。
「みごとな変装ですね。どう見ても、明智先生とは思えませんよ。」
 園井さんは、感心したようにいいました。そのへんな男は、名探偵明智小五郎だったのです。そこへ正一君もやってきて、明智探偵にあいさつしました。
「園井さん、あなたをよろこばせる、おみやげを持ってきました。」
 明智はそういって、ふろしきづつみをひらき、黒ぬりの箱をとり出して、そのふたをひらきました。すると、パッと目をいる、美しい光。
「や、それは『にじの宝冠』じゃありませんか。」
 園井さんが、びっくりして、宝冠を手にとりました。
「ほんものです。きのう正一とひきかえに、賊にわたしてきた、ほんものの宝冠です。これをどうして明智さんが?」
「つい一時間ほどまえ、ぼくが賊のすみかにしのびこんで、そっと持ちだしてきたのです。かわりに、にせものの宝冠をおいてきましたよ。よくできているので、とうぶんは、賊も気がつかないでしょう。」
 明智が説明しました。
「えっ? では、あなたは、賊のすみかを、つきとめられたのですか。」
「そうです。小林がよくはたらいてくれたのですよ。それで、警視庁の中村警部や刑事諸君といっしょに、賊のすみかへ、のりこむことになっています。」
 明智はそういって、「にじの宝冠」を園井さんにわたし、そのまま、いとまをつげて、警視庁へいそぐのでした。
 それから二時間ほどのち、横浜から五キロほどむこうの、れいの小山の森の中を、道路人夫のような、きたないふうをした七人の男が歩いていました。それは明智探偵と、中村警部と、五人の刑事の変装すがたでした。明智が、あんない役になって、これから賊のすみかへ、のりこもうとしているのです。
「明智君、こんな山の中に、賊のこもるようなたてものがあるかね。見わたしたところ、家らしいものは一けんもないじゃないか。」
 人夫すがたの中村警部が、ふしんらしく、たずねました。
「灰色の巨人という賊は、奇術師だよ。だから、ちょっと、ふつうの人には考えられないような、きばつなことをやる。かれらのすみかも、じつに、きばつなたてものなのだ。」
 おなじ人夫すがたの明智が、にこにこ笑って答えました。
「たてものといって、いったい、それはどこにあるんだい?」
「ここだよ、すぐ目の前に、立っているんだよ。」
「どこに、どこに?」
警部はキョロキョロあたりを見わたしましたが、どこにも、家らしいものはありません。
「ほら、あれだよ。むこうの木の上に、ニューッと頭を出して、灰色の巨人が、そびえているじゃないか。」
「えっ、灰色の巨人だって?」
「あまり大きすぎて、目にはいらないのだろう。あれだよ。あの大観音(だいかんのん)だよ。」
 それはコンクリートでできた、高さ十数メートルの有名な観音さまの座像でした。小山の上にたてられ、森の木の上に、そびえているのです。
「観音さまなら、さっきから、見えすぎるほど、見えている。だが、あれは家ではないよ。人がすめないじゃないか。」
「ところが、すめるんだよ。あのコンクリートの仏像の中は空洞になっているんだ。賊は地下道をほって、下からその空洞の中へ出はいりしているんだ。そして、そこにりっぱな部屋を、つくっているんだ。」
 ああ、コンクリートの大仏の中をすみかにするとは、なんという、ふしぎな思いつきでしょう。中村警部も、そばにいた刑事たちも、あっと、おどろいてしまいました。コンクリートの大仏ならば、いかにも灰色の巨人にちがいありません。人間のあだなだとばかり思って、大男などをさがしていたのですが、じつは賊のすみかの名まえだったのです。
 そのとき、明智がむこうの方を指さして、みょうなことをいいました。
「中村君、見たまえ。ほら、あすこの木のねもとの草が、ユラユラ動いている。」
 みんなは、その木のねもとを見ますと、たしかに、一ヵ所だけ、異様に草がゆれています。モグラでもいるのでしょうか。いや、モグラにあれほどの力はありません。もっと大きな動物が、地下から土をおしあげているのです。
「みんな、木のかげにかくれて、あすこを、よく見てください。」
 明智はそういって、じぶんも大きな木のみきにかくれました。ほかの人たちも、それぞれ、木のかげにかくれました。
 見ていますと、草の動きかたは、ますますはげしくなり、やがて、さしわたし五十センチほどの土が、草といっしょに持ちあげられ、その下に黒い穴ができました。そして、その穴の中から、ニューッと人間の顔が、あらわれたではありませんか。
 その人間は、地面から顔だけ出して、あたりを見まわしていましたが、だれもいないと思ったらしく、やがて、穴の外へ全身をあらわしました。セーターをきて、大きな黒めがねをかけた、二十五―六の若ものです。
「あいつは賊の手下だ。しばってくれたまえ。」
 明智がそっとささやきますと、中村警部は、部下の刑事にあいずをしておいて、まっさきに、木のかげからとび出していき、若ものの方へ、つかつかと近づくと、いきなりピストルを出して、「待てっ。」とどなりつけました。
 若ものは、このふいうちに、びっくりして、両手をあげて立ちどまりましたが、すると、ひとりの刑事が、うしろからとびついて、カチンと、手錠をはめてしまいました。
「足をしばるんだ。それから、さるぐつわだ。」
 警部のめいれいで、刑事は若ものをおしたおしておいて、ほそびきで、その足をグルグルまきにしばりあげ、てぬぐいで、さるぐつわをかませました。そして、若もののからだを、ゴロゴロころがして、木のしげみの中にかくしてしまいました。
「おどろいたね。あの中が、コンクリート大仏の体内への出入り口になっているんだね。」
 中村警部がいいますと、明智は、うなずいて、
「そうだよ。けさもこの穴から出てきたやつがある。ぼくはそいつをとらえて、その男の服をきて、賊の手下にばけて、賊のすみかへ、しのびこんだのだ。そして、にせの宝冠と、ほんものの宝冠と、とりかえてきたんだ。そのときの賊の手下は、そのまま、ここの警察の留置場にほうりこんであるよ。
 あの穴をはいると、せまいトンネルのような地下道が、大仏の下までつづいている。そこに広い部屋があって、賊の首領がいるんだ。長い白ヒゲをはやした、じいさんだよ。きみたちは、そいつをとらえてくれたまえ。部下もいっしょに、つかまえるんだね。いま、あすこにいるのは、三人か四人ぐらいのものだ。ぼくは、ほかに、ちょっと仕事があるので、ここでわかれるよ。」
「え、きみはどっかへ、いってしまうのか。」
 警部が、おどろいて聞きかえしました。
「うん、むろん灰色の巨人にかんけいのある仕事だよ。それはね……。」
 明智は警部の耳に、なにごとか、ささやきました。すると、警部は、いよいよ、おどろいた顔になって、
「ふうん、きみは、そこまで、しらべたのか。いつもながら、ぬけめがないね。よし、それじゃ、ぼくたちは、安心して、賊を攻撃する。きみのほうも、しっかりやってくれ。」
 ふたりは、ちょっと、あくしゅをして、わかれました。そして、中村警部と、五人の刑事は、地下道の穴の中へ、はいっていきました。その中には、土の階段があって、それをおりると、まっ暗な、長い横あなが、つづいています。立ってあるけないほど、せまいトンネルです。人びとは、せなかをかがめ、はうようにして、そこを進んでいました。


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