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灰色巨人-秘密房间
日期:2021-11-28 23:58  点击:282

黒い曲芸師


 コンクリート大仏の体内の、広い部屋には、まっかなガウンをきて、大僧正のような姿をした、白ヒゲの首領が、りっぱないすにもたれて、洋酒をのんでいました。前のテーブルには、めずらしい西洋のお酒のびんが、いくつもならべてあります。首領はそれを、つぎつぎと、グラスについで、さもうまそうに、ちびりちびりと、やっているのです。
 首領は、グラスを口へ持っていこうとして、思わず、その手をとめました。なにかへんなもの音が、聞こえたからです。
 その音は、部屋のすみに開いている、地下道の入り口からのように思われたので、首領はぎょっとしてその方をふりむきました。すると、そこに、見もしらぬ道路人夫のような男が六人、だまって、つっ立っていたではありませんか。
「だれだっ。きみたちは、いったい、なにものだっ。」
 首領は立ちあがって、身がまえながら、どなりつけました。
「警視庁のものだ。きみをむかえにきたのだ。」
 中村警部が、どなりかえすと、五人の刑事は、すばやく、賊の首領のまわりを、とりかこみました。
「警視庁から、おむかえか。ははは……、そいつは、光栄のいたりだね。だが、おれになんのつみがあるというんだ。」
 白ヒゲの首領は、おちつきはらっています。宝石をちりばめた、まっかなガウンが、キラキラ光って、なんだか、近よりがたいような、りっぱなすがたです。
「灰色の巨人のいみが、わかったのだ。それをわれわれは、人間のあだなだとばかり思っていたが、そうではなかった。きさまたち、わるものの、すみかの名だった。このコンクリートの大仏は、たしかに灰色の巨人にちがいない。こんなへんなところに、すんでいるだけでも、きさまは、警察にひっぱられるねうちがある。まして、いま、世間をさわがせている宝石どろぼうと、わかっているのだから、もう、のがれることはできないぞ。見ろ、この部屋のガラスのケースの中の宝石は、みんな、きさまが、ぬすみ出したものばかりじゃないか。おとなしく手錠をうけろっ。」
 中村警部の目くばせで、ひとりの刑事が、つかつかと前にすすみ、首領に手錠をはめようとしました。
「待ってくれ。こうなったら、おれは、もうひきょうなまねはしない。だが、ちょっということがある。この二階に子どもがひとり、かくしてあるんだ。おれや部下がひっぱられると、その子どもが、うえ死にする。こどもを助け出すあいだ、待ってくれ。」
 首領はみょうなことをいいだしました。
「うそつけ。子どもは、きのう、にじの宝冠とひきかえに、園井さんに返したじゃないか。」
「いや、園井正一じゃない。じつは、もうひとり子どもを、ぬすみだしたんだ。その子どもが、秘密の部屋にかくしてある。外からかぎがかけてあるから、おれたちがいなくなれば、子どもはうえ死にしてしまうのだ。」
「その秘密の部屋は、どこにあるのだ。」
「二階のてんじょうの上だ。そこは、おれでなければ、ひらけないのだ。ひらきかたに秘密があるんだ。だから、きみたちは、おれについてきて、見はっていればいいだろう。けっして逃げやしない。逃げようにも地下道のほかには、逃げ道がないじゃないか。」
「よし、それじゃ、二階へいくがいい。ぼくたちが、厳重にかんしする。」
 中村警部はそこで、刑事たちに、さしずをしました。
「こちらはぼくと、もうひとりでいい。あとの四人は、そのへんにかくれている手下のやつらを、ひっくくってくれたまえ。」
 四人の刑事は、ばらばらと四方にわかれて、()さがしをはじめました。首領がつかまったのですから部下たちは、てむかいするものもありません。二階と下とにかくれていた四人の賊が、たちまち、つかまってしまいました。
 中村警部と、ひとりの刑事とは、白ヒゲの首領といっしょに二階にあがりました。そこは、ふつうの二階ではありません。コンクリート大仏の内部に、板をはり、鉄の階段をつけて、上と下の二つにわけただけで、二階の部屋は、てんじょうが見あげるほど高く、上の方はうす暗くて、はっきり見えません。それに、大仏の首から上の内がわは、ぐっとせまくなって、ほら穴のような感じです。
「秘密の部屋は、どこにあるんだ。」
 警部が聞きますと、首領は、そこの鉄ばしごを指さしました。それはコンクリートの壁にそって、まっすぐに、とりつけてある細いはしごで、大仏の肩と首のさかいめのへんまで、ズーッとつづいているのです。
「ここからは見えないが、あのはしごの上に秘密のドアがある。それは、おれでなければ、ひらくことができないのだ。きみたちは、このはしごの下で待っていてくれ。すぐに、おれが子どもをつれて、おりてくるから。」
 首領はそういって、いきなり、はしごをのぼりはじめました。しらがのじいさんとは思えない、すばやさです。ちゅうとまでのぼると、足にまきつくガウンを、パッとぬぎすてました。するとガウンは、まっかな大きな鳥のように、ふわりと宙にういて、警部たちの前に落ちてきました。
 首領は、ガウンの下に、ぴったり身についた黒ビロードのシャツと、ズボンをきていました。まるでサーカスの曲芸師のような、かっこうです。それが、サルのように身がるに、まっすぐのはしごをのぼっていくようすは、とても老人とは思われません。
 はしごの下にいた刑事は、それを見て、なんだか心配になってきました。
「あんな高いところに、秘密の部屋があるなんて、うそじゃないでしょうか。あいつ、はしごをのぼってどこかへ逃げるつもりじゃないでしょうか。」
 刑事は中村警部に、ささやきました。
「うん、そうかもしれない。なんだか、ようすが、おかしい。ぼくらも、のぼってみよう。」
 警部は、そう答えたかとおもうと、すばやく、はしごにとびついていきました。そして、賊のあとを追って、スルスルと、のぼりはじめたのです。刑事も、すぐ、そのあとにつづきました。
 なかほどまでのぼって、上を見ますと、はしごの頂上に、なにか黒い穴のようなものが見えました。電灯が暗いので、はしごの下からは、よく見えなかったのです。
 賊の、首領は、その穴にむかって、まっしぐらに、のぼっていきます。
「待てっ。きさま、逃げるつもりだな。とまれっ、とまらぬと、うつぞっ。」
 警部がピストルを出して、つつ口を、上にむけて、さけびました。
 そこまでのぼると、はしごの頂上に、さしわたし六十センチほどの、丸い穴があいていることが、よくわかったからです。首領はその穴から、大仏の外がわへ、逃げだそうとしているのです。
 警部がさけんでも、首領は、そしらぬ顔で、ますます、速度を早めてのぼっていきます。そして、とうとう、頂上までのぼりつき、穴のふちに手をかけました。
「待てっ。」
 さけぶとどうじに、警部はピストルを発射しました。しかし、ころすつもりはないので、わざと、まとをはずしたのです。
 曲芸師のような、まっ黒な賊の姿が、コンクリートの穴の外へ、パッと、とびだしていきました。
 その穴は、大仏の首のへんにあるのですから、地上数十メートルの高さです。もし、そこから、とびおりたとすれば、賊のいのちはありません。
 かれは、はたして、とびおりたのでしょうか。それとも……。


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