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黄金豹-怪老头
日期:2021-12-01 18:57  点击:269

怪老人


 そのとき、列車の中では、車掌が、もうひとりの警官と相談して、機関車の運転手に、急停車の信号をしました。列車をとめて、豹をうち殺すほかはないと思ったからです。
 さっきまで、豹に追われて、立ちさわいでいた乗客たちは、ガクンというショックを感じて、しょうぎだおしになりました。列車が急停車をしたのです。
 列車がとまると、乗客たちは、窓のところに集まって、かさなりあって、そとをのぞきました。黄金豹が、列車の屋根に登ったことは、口から口につたえられ、みんな知っていたのです。
 窓のそとは、見わたすかぎり、広いたんぼでした。空は、うすい雲にとざされていましたけれど、上のほうに月があるので、そのへんいったいが、ボーッと、うす白く見わけられます。
「みなさん。いまドアを開きますが、危険ですから、車からおりないようにねがいます。」
 車内にとりつけてあるラウド=スピーカーが、わめきました。
 おとなしい人たちや、老人や女は、それをまもって、小さくなっていましたが、こわいもの見たさの、若い男たちは、ドアの開くのを待ちかねて、列車からとびおりました。そして、レールのしいてある土手の上を、あちこちと、さわぎまわるのです。
 列車の中にのこっていた警官と、車掌とが、土手におりて、みんな車の中に帰るように注意しましたが、なかなか、いうことをきくものではありません。車からとび出してくる人のかずは、だんだん、ふえるばかりです。
 警官は列車の屋根を見あげて、そこに登っている、もうひとりの警官に、呼びかけます。すると、なかほどの客車の屋根の上から、その警官が顔を出して、叫びました。
「豹は、屋根からおりた。もう屋根の上には、すがたが見えない。みんな用心してください。」
 それを聞くと、うろついていた乗客たちが、ワーッと、なだれをうって、もとの車室へ、逃げこもうとします。
 しかし、豹のすがたは、どこにも見えません。おりなかった乗客たちは、両がわの窓から、そとを見ているのですから、豹がどちらへ逃げても、気がつかぬはずはないのです。また、屋根の上の警官は立ちあがって、四方を見まわしていたのですから、あの金ピカのやつが、逃げていけば、かならず目についたはずです。ところが、いつまで待っても、豹はどこにもあらわれません。
「へんだな。あいつは、もしかしたら、列車の中へ、もどったのじゃないだろうか。」
 だれかが、そんなことをいいますと、乗客たちは、また、さわぎはじめました。車の中にいたらいいのか、そとへ逃げたらいいのか、わからなくなってしまって、ただ、うろうろするばかりです。屋根にいた警官は下におりて、もうひとりの警官といっしょに、列車の中をしらべました。車掌やボーイなども、てつだって、長い列車の、はしからはしまでしらべましたが、黄金豹は、どこにもいないのです。
 警官たちは、また土手におりて、運転手のてらす手さげ電灯で、列車の下をのぞきまわりました。車輪の間にかくれているかもしれないと思ったからです。しかし、なにも発見することができませんでした。警官たちが、客車にもどろうとすると、そこにかたまっていた乗客の中から、ひとりの老人が、前に出てきました。黒い背広をきて、白いあごひげを胸にたらした六十をこしたじいさんです。
「おじいさん。あぶないから、はやくじぶんの席にもどりなさい。」
 警官が、注意しますと、じいさんはニヤニヤと笑って、
「なあに、だいじょうぶ。わしは、こう見えても、若いものに負けませんよ。ところで、あの化けものは、どうしましたね。金色の豹は、どこへいきましたね。」
「ふしぎなことに、どこにもいないのです。かき消すように、見えなくなってしまいました。」
「ふふん、また魔法をつかったな。あいつは、あぶなくなると、忍術つかいみたいに、パッと、消えうせる術を、心得ておるのじゃ。しかし、ゆだんはなりませんぞ。あいつは化けものだからね。なににでも化ける。思いもよらないものに化けて、ちゃんとこの汽車に乗っているかもしれない。そして、いまにまた、みんなの、どぎもをぬくようなことを、はじめるかもしれませんぞ。」
 じいさんは、そういって、またニヤニヤと、うすきみ悪く笑うのでした。
 しかし、いつまでも列車をとめておくわけにはいきませんので、車掌と運転手は相談のうえ、乗客たちを、のこりなく客車にのせて、そのまま発車することにしました。
 警官は宝石を盗まれた宝石商に、くわしく、事情を聞きとりました。もとの席にもどった乗客たちは、もう眠るどころではありません。黄金豹が列車のどこかにかくれていて、また、すがたをあらわすのではないかと、びくびくしながら、一夜をあかしました。
「こんな、いのちがけの汽車には、乗っていられない。」と、途中の駅でおりてしまった人も、すくなくありません。
 さっきの白ひげのじいさんは、どこへいったのでしょう。べつに途中でおりたようすもないので、どこかに乗っているのでしょうが、だれも、あのじいさんを見たものはないのです。
 あやしいじいさんです。さっきは、なぜあんなことをいったのでしょう。
「いまに、みんなの、どぎもをぬくようなことがおこる。」といいました。どうして、じいさんは、それを知っているのでしょう。ほんとうにそんなことが、おこるのでしょうか。


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