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黄金豹-恶魔的下场
日期:2021-12-01 19:07  点击:300

悪魔のさいご


 明智は話しつづけました。
「宝石商のおくまった応接室へ、黄金豹がとびこんで、あと足でドアをしめたひょうしに、かけがねがおりてしまったので、警官たちが、ドアを破ってとびこむと、部屋の中は、からっぽになっていた。たった一つの窓には、鉄格子がはまっているのだから、どこにも出口はなかった。それなのに、さっき、とびこんだばかりの黄金豹は影も形もなくなっていた。そのときの黄金豹は、むろんきみだった。きみが豹の皮をかぶっていたのだ。
 きみは、うすいラシャでつくった洋服をきたうえに、豹の皮をかぶっていた。その洋服は宝石商の店員のだれかの服と、同じ色だったにちがいない。顔や、髪の毛も、その店員とにたように変装していたのだろう。
 きみは応接室にはいって、ドアをしめ、かけがねをおろすと、手ばやく豹の皮をぬいで、店員になりすまし、ドアが開かれるのを待っていた。
 警官はドアの板を破り、そこから手を入れてかんぬきをはずして、ドアを開いた。そのとき、きみは、開かれたドアと壁とのすきまに、身をかくしたのだ。警官たちは、部屋の中へとびこんで、机だとか、イスだとか、豹のかくれそうなところを、捜しまわった。そのすきに、きみはドアのうしろから出て、店員が警官のてつだいをしていると見せかけて、そのへんを捜すふりをし、ころあいを見はからって、ソッと、逃げだしてしまったのだ。豹の皮は、細ながくまるめて、なにかにつつめば、窓の鉄格子のすきまから、裏のろじへ捨てることもできる。それを、あとから、ソッと、拾いにいけばいいのだ。
 これはぼくの想像だが、このほかに、やりかたはないと思う。どうだ、まちがっているかね。……だまっているところをみると、ぼくの想像が、あたったようだね。ハハハ……。」
 小林少年のさしむける懐中電灯の、まるい光のなかに、浮きあがっている怪老人の顔は、驚きと恐れに、みにくくゆがんでいます。その表情は、明智の推理が、ことごとく、的中していることを、もの語っていました。
「ところで、もうひとつの密室のなぞが、のこっている。小林君が園田家の書斎に寝ていたときに、あらわれた黄金豹が、どうして消えたかというなぞだ。このなぞは、いっそう、むずかしかった。あのときには、警官がかけつけたわけではないし、宝石商とちがって、おおぜいの人がいるわけでもない。だれかに化けて、逃げだすことは、むずかしいのだ。
 この秘密を、発見するためには、密室のなぞのほかに、もっとべつのなぞを、とかなければならなかった。黄金豹には、この犬が化けていた。それから、きみという人間が化けていた。しかし、犬でも人間でもなかったばあいがある。第三のトリックがある。それに気がつかないと、この密室のなぞは、とけないのだ。」
 明智はそこで、ことばをきって、しばらくだまっていました。怪老人もだまっています。小林少年もだまっています。暗やみの地下室は、まるで墓場のように、シーンと、しずまりかえっていました。
 そのときです。どこからともなく、「ウオーッ。」と、けだものの吠えるような、ものすごい声が、聞こえてきたではありませんか。
 懐中電灯の光の中の怪老人の顔が、驚きのために、異様にゆがみ、小林少年も、ハッと息をのみました。犬はおとなしくしています。犬が吠えたのではありません。だいいち、犬にあんな恐ろしい声が出るはずはないのです。
「あれは、たしかに動物の声だ。このうちには、まだほかに動物がいるらしいね。行ってしらべてみよう。」
 明智はそういって、ポケットからピストルを出して、怪老人の背中につきつけました。
「さあ、さきにたって、むこうの部屋へいくんだ。動物の声のした部屋へいくんだ。」
 老人は、しかたなく歩きだしました。小林君と、あの大きな犬も、そのあとにつづきます。
 ドアを出ると細い廊下があり、そのむこうがわのドアを開くと、パッと赤ちゃけた光がさしてきました。その部屋には、小さな電灯が、天井からぶらさがっているのです。
 老人が、さきにたって、部屋にはいりましたが、ひと足ふみこんだかとおもうと、「アッ。」と叫んで、たちすくんでしまいました。
 ごらんなさい。部屋のむこうがわに、大きなテーブルがあり、そのむこうのイスに、恐ろしいものが、こしかけているのです。それは、まがいもない、あの黄金豹です。金ピカの怪獣が、テーブルの上に、前足を組み、その上に、顔をのせるようにして、(りん)のような目で、じっと、こちらをにらんでいるではありませんか。
 小林少年も、それを見ました。明智探偵も、それを見ました。
「ううん、ふしぎだ! いったい、これはどうしたことだ。」
 怪老人が、まっ青な顔で、うめくようにいいました。
 さっき、明智探偵は、「犬でも、人間でもないばあい。」といいました。すると、ここにいるのは、ほんものの豹なのでしょうか。それとも、……?
 そのとき、明智は小林君の耳に口をつけて、ぼそぼそと、なにごとかを、ささやきました。すると、小林君の顔に、いっそう驚いたような色が、浮かびましたが、手に持っていたピストルを、明智にわたすと、そのまま、だまって、部屋のそとへ出ていきました。
「きみ、あの豹をよく見ていたまえ。いまに、どんなことがおこるか。」
 明智は、ゆだんなく、ピストルを老人の背中につけたまま、いみありげにささやきました。
 しばらくすると、じつに、ふしぎなことがおこりました。テーブルの上に、もたれかかっていた黄金豹が、みょうな動きかたをしたのです。こちらへ、とびかかってきたのではありません。テーブルの上から、ずるずると、すべり落ちたのです。そして、ぎゃくに、うしろのほうへ、なにかに引っぱられるように、すべっていくのです。
 イスのうしろには、地底の廊下に面して窓があり、そのガラスが、二十センチほど開いていました。黄金豹は、その窓のすきまへ、ひきつけられていくのです。
 豹の手足は、だらんとさがっています。胴体もまるで空気がぬけたように、グッタリしています。それが、わずか二十センチのすきまから、するすると、そとへ出ていくのです。そして最後に、大きな頭が残りましたが、それも、ひらべったく、ちぢまって、きゅうくつそうに、そとの闇の中へ出ていってしまいました。
「わかったかね。これが、園田家の書斎から、黄金豹が消えた秘密だ。あの窓のすきまが、通れるのなら、鉄格子のあいだだって、通れるはずだからね。」
 明智が説明しているところへ、小林少年が帰ってきました。手には金色の豹の皮をかかえています。その皮の背中のへんに、長いひもが、くくりつけてありました。
「ぼくは、きみが自動車の中へ、ぬぎすてていった豹の皮をここへもってきた。それにひもをつけて、いまの実験をやってみせたのだ。むろん、窓のそとから、小林君が、このひもを引っぱったのだよ。ああして、テーブルの上に前足を組ませ、その上に頭をのせておくと、こちらからは、生きた豹がうずくまっているように見える。まさか、皮ばかりだとは、だれも思わないのだ。これが、園田さんの書斎から、黄金豹を消した、きみのトリックだよ。まさか、そうじゃないとは、いうまいね。……さっきの動物のうなり声は、ぼくの腹話術だよ。皮ばかりの豹が、うなるはずはないからね。」
 怪老人は、もうすっかり、あきらめたようにうなだれていました。明智の推理が、ことごとく、あたっていたからです。
「さあ、もうこうなったら、きみも正体をあらわすがいい。」
 そういったかとおもうと、明智は、いきなり、老人にとびかかって、そのかつらと、つけひげと、つけまゆ毛を、むしりとってしまいました。
 老人は「アッ。」と叫んで、ふせごうとしましたが、もうまにあいません。かつらと、つけひげの下からあらわれたのは、若々しい男の顔でした。
「やっぱり、そうだ。きみはいくつ顔をもっているかしらないが、この顔にも見おぼえがある。きみのような変装の名人、きみのような空中曲芸の達人、そして、黄金豹という思いきった手段を考えだすやつ。そんなやつは、日本にひとりしかいない。ウフフフ、おい、二十面相! しばらくだったなあ。」
 ああ、二十面相! この奇怪な犯罪は、あの怪人二十面相のたくらんだものだったのです。
「小林君、呼びこだッ。」
 声におうじて、ピリピリと、小林少年が、呼びこの笛を吹きならしました。
 すると、だ、だ、だ、だと、階段をかけおりる靴音! 明智が、この家にしのびこむまえに、電話で連絡しておいた十数名の警官が、建物をとりまき、そのうちの数名が、はやくも一階に侵入して、呼びこの音に、かけおりてきたのです。
 かくして、名探偵明智小五郎と小林少年は、またしても、稀代(きだい)の怪盗二十面相とのたたかいに、みごと勝利をおさめました。ネコむすめ、ネコ夫人、そのほかの同類も、みなつかまったことは、いうまでもありません。


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