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魔法博士-恶魔的国度
日期:2021-12-09 18:55  点击:269

悪魔の国


 移動映画館の小型自動車は、ふたりの少年をしたがえて、ノロノロと走っていきます。あたりは、だんだん日がくれて、さびしくなり、まっ暗になっていました。
「ノロちゃん、きみ、バッジもってるかい?」
 井上君が、ノロちゃんの耳に口をつけるようにして、ささやきました。
「うん、ポケットにあるよ。少年探偵団の規則だもん。いつでも、バッジを三十個ずつ、ポケットへいれておけって。」
「そうだよ。ぼくも、三十個もってるよ。」
 それをささやきあうと、ふたりは、いくらか安心したような顔つきになりました。
 バッジというのは、少年探偵団員が、胸につけているB・Dバッジのことです。このバッジは、団員の目じるしのほかに、いろいろな、つかいみちがあるのでした。
 それは直径一センチ半ほどの、銀色をしたバッジですが、悪人を尾行して、ぎゃくに悪人のためにとらえられたときなど、このバッジを、つぎつぎと道に落としておけば、それを目じるしにして、悪人のすみかがわかるという便利なものです。
 また、悪人とたたかうとき、遠くからバッジをなげつけて、相手を、こまらせることもできますし、どこかの家にとじこめられたとき、窓からこのバッジをへいの外へなげれば、じぶんのいるところを、団員にしらせることもできます。もし、紙と鉛筆を持っていたら、手紙を書いて、その紙にバッジをつつんで、へいの外へなげるという、つかいみちもあります。
 それから、団員が、どこかにかんきんされているとき、その部屋の窓をめがけて、バッジをなげこめば、なかまが助けにきたことを、しらせるてだてにもなるのです。
 井上君とノロちゃんは、そのB・Dバッジを三十個ずつ、ポケットにいれていました。手でさわってみると、ジャラジャラと音がするのです。
「あいつ、なんだか、あやしいやつだから、もしものときの用意に、このへんから、バッジを落としておくことにしよう。二十歩に一つずつだよ。いまから、二十歩あるいたら、ぼくが一つ落とす。そのつぎの二十歩めに、きみが一つ落とす。そういうふうにして、かわりばんこに、道へ落としていくことにしよう。」
 井上君が、ささやきますと、ノロちゃんもうなずいて、
「うん、それがいい。二十歩に一つずつなら、ずいぶん長くつづくからね。」
 このバッジを二十歩ごとに落としておくというのも、少年探偵団の規則でした。だれかが、ゆくえ不明になったときは、まずバッジをさがし、それがみつかったら、そこからどちらの方角へも、二十歩ずつ歩いてみて、つぎのバッジをさがし、それをくりかえして、ゆくえをつきとめるという申しあわせなのです。
 さて、怪人物のノロノロ自動車は、さびしい方へ、さびしい方へと進んで、しばらくすると、大きな神社の森の中へはいっていきました。
 もう、あたりはまっ暗です。森の中には、街灯がごくわずかしかないので、足もとも見わけられないほどです。
「よそうよ。もう帰ろうよ。ぼく、こわいよ。」
 ノロちゃんが、井上君の手をひっぱって、だだっ子のように立ちどまってしまいました。
「だめじゃないか。せっかく、ここまできたのに。ここは山の奥じゃないよ。この森の向こうには、にぎやかな東京の町がつづいているんだよ。それに、バッジがぼくらを、まもってくれるから、だいじょうぶだよ。」
 井上君は、ノロちゃんの耳に口をつけて、しかるようにささやきました。そのときです。森のやみの中に、やみよりも黒いものが、モヤモヤと動きだすのが見えました。
 さすがの井上君も、それを見ると、はっとして、ノロちゃんといっしょに、逃げだそうとしましたが、もうおそかったのです。まっ黒な人かげが、ふたりのうしろにまわって、とおせんぼうをしていました。
 うしろだけでなく、前からも、横からも、おなじようなまっ黒な怪物が、せまってくるではありませんか。
 立って歩いているから、人間にちがいありません。ばけものでも、動物でもないのです。
「だれだっ。きみたちは、だれだっ?」
 井上君が、ノロちゃんをかばうようにして、どなりました。
「だれでもない。おれたちは、魔法博士の弟子だ。きみたちふたりを、これから悪魔の国へつれていくのだ。」
 黒いやつのひとりが、ぶきみな声でこたえました。
 遠くの街灯の光で、三人の黒んぼうの姿が、かすかに見えます。三人とも、ぴったり身についた、まっ黒なシャツとズボン下をはき、頭から三角の黒覆面をかぶっています。その目と口のところだけが、くりぬいてあって、そこから、にぶく光る目がのぞいています。
「たすけてくれえ……、映画のおじさん! 自動車のおじさん! はやく、はやく、たすけてえ……。」
 ノロちゃんが、死にものぐるいの声をだしました。
 すると、向こうの自動車の中から、まっ黒なやつがあらわれてきました。こちらの三人と同じ姿です。
「ウフフフ、わしが映画のおじさんだよ。だが、きみたちのみかたじゃない。わしこそ、悪魔の国のあるじの魔法博士というものじゃ。」
 ああ、映画のおじさんと思っていた男が、じつは、悪魔の国の首領だったのです。二少年の運命は、これからいったい、どうなるのでしょうか。


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