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魔法博士-怪老头
日期:2021-12-09 19:00  点击:262

怪老人


 山下邸の怪事件があってから、三日めの夕がたのことです。井上少年とノロちゃんのふたりが、麹町(こうじまち)の明智探偵事務所へ、小林少年をさそいだしにきました。小林君が玄関へ出ますと、井上少年が、
「小林さん、ぼくたち、いま、ふしぎなものをみつけたんだよ。へんなじいさんがね、この近くのさびしい町で、黄金怪人の人形を売っているんだよ。あいつ、どうも、あやしいやつだ。それで、小林さんに、一度見てもらおうとおもって、さそいにきたんだよ。」
 小林君は、井上少年から、なおくわしく話をきき、やっぱり、あやしいやつだと思いましたので、そのまま、ふたりといっしょに、そこへ行ってみることにしました。
 そこは事務所から五百メートルほどもある、さびしい町でした。両側は大きなやしきのコンクリートべいで、そのコンクリートべいの前に、ひとりのみょうなじいさんが、地面に金色のオモチャをならべて、そのうちの一つを、歩かせてみせているのでした。
 そのまわりを、七―八人の近所の子どもたちが、とりかこんで、歩くオモチャを、いっしんにみつめています。小林君たち三人も、そのそばによって、じいさんの顔と、地面のオモチャとを、見くらべました。
 それはたしかに、黄金怪人とそっくりのオモチャでした。じいさんのよこに、白くぬった木の箱がおいてあって、その中からとりだしたらしく、怪人のオモチャが、十いくつも地面にたてならべてあり、そのうちの一つを、歩かせてみせているのです。二十センチぐらいの黄金怪人が、ジージーと音をたてながら、地面を歩いているのです。
「どうだね、うまく歩くだろう。これは新発明の魔法人形っていうんだ。ゼンマイじかけじゃないよ。無線そうじゅうでもない。もっとふしぎな秘密のしかけがあるんだ。どうだ、一つ買わないかね。やすいよ。一個たった百円だ。」
 じいさんは、そんなことをいって、ジロジロと、少年たちの顔を見まわすのです。
 小さなしまのハンチングを、チョンとかぶり、太い黒ぶちのめがねをかけ、鼻の下には、白いひげが、口をかくして、長くたれています。あごひげはありません。二十年もまえにはやったような、黒の背広をきて、小さな台の上にこしかけているのです。
 金色の歩く人形が百円なら、やすいものですから、四人の子どもが、それを買いました。
「うん、それっきりか。もうあとの子は、おこづかいを持っていないのだね。よしよし、またあした、やってくるからね。それまでに、おかあさんにおこづかいをもらっておくんだよ。」
 じいさんは、地面においてあった残りの人形を白い箱にいれ、こしかけていた台を、小さくおりたたんで、これも箱の中にいれ、箱についている太いひもを首にかけて、箱を胸のまえにさげると、よっこらさと、立ちあがりましたが、まだそこの地面に、さっきの人形が一つだけ、ジージーと、歩きまわっています。
「よしよし、おまえが、わしの道あんないをするんだね。さあ、向こうへいくんだ。」
 じいさんが、まえかがみになって、人形に命令しますと、人形は、いわれたとおりに、ジージーと、向こうの方へ歩きだしました。
 ゼンマイじかけで、こんなにつづくわけがありません。
 といって、無線そうじゅうでもなさそうですから、じつにふしぎです。このじいさんは、ほんとうに魔法つかいかもしれません。
 二十センチの黄金怪人は、じいさんの先にたって、ジージーといつまでも歩いていきます。じいさんは、そのあとから、人形がころびはしないかと、気が気でないようなかっこうで、両手を人形の上にのばして、まがった腰で、ヨチヨチと歩いていくのです。
 いったい、こんなに長く歩きつづける人形が、百円だなんて、ウソみたいなねだんです。きっと、インチキにちがいありません。あれを買った子どもたちは、うちへ帰ってやってみると、人形はちっとも動かない、というようなことではないでしょうか。
 それはともかく、小林君たち三少年は、あいてに気づかれないように、このふしぎなじいさんのあとを尾行しました。
 百メートルいっても、二百メートルいっても、黄金怪人の人形は、まだ歩きつづけています。じいさんが、ねこぜになって、両手で、それを追っかけていくのも同じです。
「ねえ、あんなに、歩きつづける機械じかけなんて、ありっこないよ。あのこびとは、ほんものの黄金怪人かもしれないぜ。」
 ノロちゃんが、顔を青くして、ささやきました。
 考えてみますと、黄金怪人は、いくらでも、じぶんのからだを小さくできるのですから、じいさんの先にたって歩いている金色の人形は、じつは怪人そのひとなのかもしれません。ノロちゃんがうたがうのも、もっともです。
「うん、ひょっとしたら、そうかもしれない。そうだったら、いっそう、あいつのあとをつけるんだ。見うしなわないように。きみたち、いいかい。」
 小林君が、ふたりを元気づけるように、ささやきました。


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