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魔法博士-消失如烟
日期:2021-12-09 19:03  点击:215

煙のように


 ノロちゃんのからだが、ゾウの頭の上にくると、背中にのっていた怪黒人が、両手をだして、ノロちゃんをだきとめ、ゾウの鼻からはなして、じぶんの前にうまのりにさせました。こうしてノロちゃんは、ゾウの背中にのせられてしまったのです。
 ふたりをのせたゾウは、ズシン、ズシンと、歩きはじめました。いったい、ノロちゃんを、どこへつれていこうというのでしょう。小林君も、井上君も、心配でたまりませんから、ゾウのうしろからついていきました。
「た、たすけてくれえ……、小林さん、井上君、はやく、たすけてえ……。」
 ゾウの背中の上では、ノロちゃんが、身をもがきながら、叫びつづけています。しかし、怪黒人が、うしろから、しっかり、だきしめているので、どうすることもできません。
 広いコンクリートの廊下のいっぽうの壁に、いくつもドアが並んでいる中に、ひじょうにでっかい、かんのん開きのドアがありました。ゾウは、そのドアの前に立ちどまると、鼻のさきで、ドアのとってをつかんで、二枚のドアを、両方にひらきました。そして、その中へ、ノッシ、ノッシと、はいっていくのです。
 それは、ゾウの大きなからだが、通りぬけられるほど広い入口でした。
 ふたりの少年が、ひらいたドアの中をのぞいてみますと、そこは、ゾウがはいるといっぱいになってしまうような、あまり広くない洋室でした。なんのかざりつけもなく、テーブルもいすもおいてない、がらんとした部屋です。
 ゾウが黒人とノロちゃんをのせたまま、その部屋にはいると、両方にひらいていたドアが、ひとりでに、スーッと、しまってしまいました。
 すると、ゾウの背中でわめいていたノロちゃんの声が、にわかに、ひくくなって、遠いところからのように聞こえてきました。
 しばらくのあいだ、そのかすかな叫び声が、つづいていましたが、やがて、それもパッタリ、聞こえなくなってしまいました。
 ノロちゃんは、あの怪黒人のために、どうかされたのではないでしょうか。黒人は、ダンビラは、まえの洞窟の中に、おいてきたままでしたが、ほかに短刀を持っているかもしれません。ノロちゃんは、さっきのダンダラぞめの服をきた子どものように、バラバラに、きり殺されてしまうのではないでしょうか。小林、井上の二少年は、もう、心配でしかたがありません。ドアをおしたり、たたいたりしてみましたが、しぜんに(じょう)がかかったとみえて、びくともしないのです。
「ウフフフ……、きみたちふたりは、あとに残されてしまったね。」
 とつぜん、うしろから、きみの悪い声がきこえました。びっくりして振りむきますと、そこに、さっきの老黒人が、立っていました。洞窟の中で、てんじょうに縄を投げた、あの白ひげのじいさんです。
「あっ、さっきのおじいさんですね。ここをあけてください。ノロちゃんが、ゾウにのって、この中に、とじこめられてしまったのです。」
 小林君が、たのむようにいいました。
「ウフフフ……、心配かね? だが、あの子は、べつにひどいめにあうわけではない。ただね、遠い、遠いところへ、いくばかりなのだ。」
「えっ、遠いところですって? いったい、それは、どういうわけです。ノロちゃんは、たしかに、この部屋の中に、いるんですよ。」
「いや、いまごろは、もう、遠いところへ、いってしまったかもしれない。ドアをあけて、見せてやろうか。あの子が、どうなったか、わかるだろうからね。」
 老黒人は、なぞのようなことをいいながら、ドアの前に近よると、どこかのボタンをおしたらしく、カチッという音がして、かんのん開きのドアは、両方へ、スーッとひらきました。
「あっ、なんにもいない! さっきのゾウは、どこへいったんだろう? そして、ノロちゃんは……。」
 小林君が叫びました。いかにも、その部屋は、からっぽなのです。ゾウも、怪黒人も、ノロちゃんも、かき消すように、いなくなってしまったのです。
 その部屋には、入口のドアのほかには、ひとつも出入り口はありません。窓もありません。それでいて、あの巨大なゾウが、煙のように消えてしまったのです。ああ、かわいそうなノロちゃんは、いったい、どうなったのでしょうか。


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