びっくり箱
そこで、またしても、広い地底世界の大捜索がはじまりました。二十人の部下のうち、七人は怪人のために麻酔剤をかがされたので、やくにたちませんが、残っている黒覆面の部下が、手わけをしてさがしまわったのです。
魔法博士の黄金怪人も、三人の部下をつれて、地底の洞窟をさがしました。あのインド奇術をやってみせた広い洞窟です。しかし、そこにも、あやしいものは見あたりません。
すると、そのとき、洞窟の入口の向こうから、「わーっ。」という声が聞こえてきました。そして、ひとりの部下が、あわただしく、かけこんできました。
「先生! いました。金いろのやつが、あらわれました。いま、みんなで追っかけているところです。すぐに、おいでください。」
魔法博士は、それをきくと、「よしっ」と答えて、いきなり、かけだしました。
うす暗い岩の廊下をまがっていきますと、向こうに、黒覆面の部下たちがむらがっていて、黄金怪人を、両方から、はさみうちにしていることが、わかりました。
魔法博士の黄金怪人は、部下たちをおしのけて前に出ました。またしても、そっくり同じふたりの黄金怪人の対面です。
「ウハハハ……、とうとう、つかまえたぞ。みんな、こいつのよろいをぬがせて、正体をあばいてやれ! 中から、どんなやつがあらわれるか、わしは、それが、たのしみだよ。ウハハハハ……。」
魔法博士が、ざまをみろというように、大きな声で笑いました。
「ウフフフフ……、そうはいくまいて。ここをどこだと思う。ほら、これを見ろ。おれは、ここまで、みんなを、おびきよせたのだ。そして、きさまの作ったびっくり箱を、こんどは、こっちが利用する番だよ。」
いったかとおもうと、向こうの黄金怪人は、そこにある巨大なかんのん開きのドアに近づき、いきなり、それをひらいてとびこむと、中からドアをしめてしまいました。
それは、いつか、ゾウが姿を消した、あのふしぎなコンクリートの部屋だったのです。何者ともしれぬ黄金怪人は、この魔法の部屋を、ぎゃくに利用して、じぶんの姿を消すつもりなのでしょう。
それをみると、魔法博士の黄金怪人は、「あっ。」と、驚きの声をたてて、かんのん開きのドアの前にかけより、それをひらこうとしましたが、扉がこわれていて、外からは、ひらかなくなっていました。あの黄金怪人が、まえもって、扉をこわしておいたのに、ちがいありません。
部下たちが、力をあわせて、ドアにぶっつかってみましたが、恐ろしくがんじょうなドアですから、そんなことで、びくともするものではありません。
「だれか工作箱を持ってこい。」
魔法博士の命令で、工作の道具を入れた箱を持ってきて、いろいろやってみましたが、どうしても、ひらかないのです。そんなことをしているうちに、三分、四分と、時間がたち、やがて、ドアは、中から、さっと、ひらかれました。
かんのん開きが、両方にひらかれた部屋の中を、一目みると、魔法博士も、部下たちも、「あっ!」と叫んで、たじたじとあとじさりをしました。じつに、とほうもないことが、おこったのです。
巨大なびっくり箱の中には、十数名の制服の警官が、てんでにピストルをかまえて、整列していたのです。たったひとりの黄金怪人が、たちまち、十数名の警官隊に早がわりしてしまったのです。
魔法博士と部下たちは、岩壁に背中をくっつけて、両手を上にあげていました。ふいに、十数梃のピストルを、向けられたのですから、どうすることもできません。
ひとりが、十数人に早がわりする、この巨大なびっくり箱は、いったい、どんなしかけになっているのでしょうか。手品の種は、どこにあるのでしょうか。やがて、その手品の種が、みんなの目の前に、まざまざと、あらわれてきたのです。
警官たちが、ピストルをかまえたまま、かんのん開きのドアの外へ出てしまいますと、部屋の中から、モーターのまわるような、ビューンという音が、かすかに聞こえてきました。そして、ふしぎなことが、はじまったのです。
ひらいたままのドアの上のほうから、厚いコンクリートの棚のようなものが、しずかに、下へおりてきました。そして、その棚の上にピカピカ光る二本の足が、立っていたのです。黄金怪人の足です。コンクリートの棚が、下におりるにつれて、足から腰、腰から腹、腹から胸と、金ピカの怪人の全身が、あらわれてきました。
これで、びっくり箱の秘密が、すっかりわかってしまいました。部屋が上と下と、ふたつつらなっていて、それがエレベーターのように、あがったり、さがったりするのです。コンクリートの棚のようなものは、上の部屋の床と、下の部屋のてんじょうをかねているわけです。このしかけで、ゾウが消えたり、あらわれたりしたのです。上の部屋の黄金怪人が消えて、下の部屋の警官隊があらわれたのです。
上の部屋が、すっかりおりてしまうと、黄金怪人が岩の廊下へ、出てきました。
「ワハハハ……、魔法博士、おれのてなみがわかったか。きみの作ったびっくり箱を利用して、きみをつかまえてしまった。もうこうなれば、きみも運のつきと、あきらめるんだね。この警官たちは、裏の原っぱの洞穴から、ひとりずつ、そっと、ひきいれて、このびっくり箱の中へ、かくしておいたのさ。見まわりをしているきみの部下に、二度見つかったが、そのふたりは、手足をしばり、さるぐつわをはめて、洞窟の外の草の中に、ころがしておいたよ。ワハハハ……。」