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马戏团里的怪人-乞丐少年
日期:2021-12-13 00:06  点击:292

こじき少年


 自動車のトランクの中からはい出した、こじきのような少年は、腹話術師たちのあとをつけました。そして、ふたりが、炭やき小屋にはいったのを見とどけると、その小屋の窓のそとに、からだをくっつけて、戸のすきまから、じっと、小屋の中をのぞいていました。
 腹話術師と運転手が、小屋の床板をはずして、地の底へおりていくのが見えました。この小屋には地下室があるのです。こじき少年はそれを見ると、しばらく考えていましたが、やがて、なにを思ったのか、小屋の入口の板戸の前までいって、そとから、とんとん、とん、とたたきました。
「だれだッ、戸をたたくやつは?」
 中から、炭やき男のふとい声が、どなりました。
 こじき少年は、くすくす笑いながら、ひとことも、ものをいわないで、また、だん、だん、だんと、こんどは、もっとはげしく戸をたたくのでした。
「だれだッ! うるさいやつだな。いまごろ、なんの用があるんだ。まて、まて、いまあけてやるから……。」
 男の声が戸口に近づいて、板戸が、ガラッとひらかれました。
「オヤッ、へんだな。だれもいないじゃないか。おい、いま戸をたたいた人、どこにいるんだ?」
 男は、暗がりのそとを見まわしながら、ふしぎそうにいいました。
 しばらく待っても、だれも出てこないので、男は戸をしめて、小屋の中へもどりましたが、すると、またしても、だん、だん、だんと、おそろしい力で戸をたたくものがあるのです。
「ちくしょう。うるさいやつだ。さては、いたずらだな。たぬきのやつめ、人間をからかいにきやあがったな。よし、ひっつかまえてくれるから、待っていろ!」
 ガラッと戸がひらいて、ひげむじゃの炭やき男が、そとへ、とびだしてきました。むこうの木のしげみの中で、がさがさという音がしています。男は腕まくりをして、そのほうへ、かけだしていきました。
 そのすきに、小屋の横にかくれて、長い糸で、むこうの木の枝をゆすっていたこじき少年が、糸をはなして、こっそり、戸口からすべりこみ、さっきのぞいておいた床のあげぶたのところへいくと、それをあげて、すばやく地下室へすがたをかくしてしまいました。
「やっぱり、たぬきのやつだ。どっかへ逃げてしまやあがった。いたずらたぬきにも、こまったものだな。」
 男は、ぶつぶついいながら小屋へもどってきましたが、あげぶたは、もとのとおりに閉まっているので、こじき少年が、地下室へおりていったことは、すこしも気づきません。そのまま、いろりのそばに、あぐらをかいて、たばこをふかしはじめました。
 こじき少年は、足音をたてないように注意して、地下室の階段をおり、つきあたりの戸のそばに立って、耳をすましました。
 すると、戸のむこうから、腹話術師らしい声が聞こえてくるのです。
「笠原さん、おもしろいおみやげを持ってきたぜ。いま、このトランクから出して、見せてやるからな。」
 オヤッ! 笠原さんが、いつのまに、こんな山の中へきているのでしょう? 少年はふしぎに思って、板戸のすきまから、中をのぞいてみました。頑丈な板戸ですが、たてつけがわるくて、ほそいすきまができているのです。
 のぞいてみると、そこには、じつに異様な光景が、くりひろげられていました。
 正面にすわっているのは、やせおとろえた老人でした。しらがまじりのかみの毛は、クシャクシャとみだれ、口ひげも、ほおひげも、のびほうだいにのびて、まるで、ながわずらいの病人のようです。
 よくふとった腹話術師が、その老人の前に大トランクをおいて、いま、ひらこうとしているところです。いっぽうのすみには運転手が立って、懐中電灯でトランクを照らしています。笠原さんのすがたは、どこにも見えません。
 少年は胸をどきどきさせて、すき見をつづけました。
「さあ、これがおみやげだッ!」
 腹話術師が、パッと、トランクのふたをひらきました。アッ! トランクの中にはひとりの少年が、きゅうくつそうに足をまげて、閉じこめられているではありませんか。
 腹話術師は、その少年をだきあげてトランクから出し、老人の前のコンクリートの床にほうりだしました。
 手と足をしばられ、口には、さるぐつわをはめられています。
「アッ! 笠原正一君だッ!」
 こじき少年が、思わずつぶやきました。
 こじき少年よりも、もっとおどろいたのは、やせおとろえた老人です。老人はよろよろと立ちあがって、そこにころがされている少年のそばによりました。
「おお、おまえは正一ではないか。ああ、わしばかりでなく、おまえまでが、こんなめにあわされるとは! 悪人! 悪人! きさまは、なぜ、わしたちを、こんなに苦しめるのだッ? そのわけをいえ。さあ、そのわけをいってくれ!」
 老人は、せいいっぱいのしわがれ声をふりしぼって、叫ぶのでした。
「それはおまえさんの心にきいてみるがいい。おれは、あの人の部下だから、くわしいことは知らない。あの人は、おまえさんに、よっぽどのうらみがあるらしいよ。」
 腹話術師が、そっけなく答えました。「あの人」とは、いったいだれのことでしょう。
「わしには、それが、まったくわからないのだ。おまえたちの親分は、いったい何者だ。わしにはすこしも心あたりがない。わしを、こんなところへ閉じこめておいて、グランド=サーカスの団長になりすました男が、何者だか、まったくわからないのだ。そのうえ、こんどは、わしの子どもまで、こんなひどいめにあわせるとは……。」
「べつに、ひどいめにあわせたわけじゃない。おまえさんと、親子いっしょに住ませてやるために、この子を、ここへつれてきたんだよ。そのうちに、妹のミヨ子も、ここへつれてきてやるよ。ハハハハ……。」
 腹話術師は、相手をばかにしたような笑い声をたてるのでした。
 それを、じっとのぞいていたこじき少年は、なんともいえない、ふしぎな気もちがしました。いったい、これはどういうわけなのでしょう。このやせおとろえた老人が、ほんとうの笠原団長で、あのもうひとりの笠原さんは、にせものだとでもいうのでしょうか。


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