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魔法布偶-窗帘空隙
日期:2021-12-18 23:50  点击:247

カーテンのすきま


 マユミさんとポケット小僧は、一度門を出て、どこかへいきましたが、三十分もすると、また、西洋館の門の前にもどってきました。見ると、マユミさんは、あの白いふろしきづつみを持っていません。ポケット小僧もから手です。いったいあのふろしきづつみを、どうしてしまったのでしょう?
「おねえさん、もう、よしたほうがいいよ。こんなばけものやしきの中へはいったら、どんな恐ろしいめにあわされるか、わかりゃあしないよ。」
 ポケット小僧が、マユミさんのうわぎをつかんで、ひそひそと、ささやきました。
「いいのよ。このまま、警察へ連絡してもいいんだけれども、もうちょっと、さぐっておきたいの。どろぼうのかしらが、どんなやつだか、この家には、どんなしかけがあるか、それをしらべておかなけりゃあ、名探偵の助手のはじだわ。あんた、帰りたければ、さきにお帰りなさいな。」
 マユミさんは、じゃけんにいって、小僧をつきはなしました。
「いやだい。おれ、帰るもんか。どこまでも、おねえさんのあとから、ついていくよ。」
 ポケット小僧は、おこったようにいって、もうひとことも口をきかず、だまりこんで、マユミさんのあとからついていくのでした。
 マユミさんは、門をはいって、西洋館のよこてへ回っていきました。どの窓にも、あかりは見えません。まるで、家じゅうの人が、死にたえたように、シーンと、しずまっているのです。
 マユミさんは、どこかにしのびこむすきまはないかと、だんだん、奥のほうへ歩いていきました。
 すると、ひとつの窓の中に、かすかなあかりが見えたではありませんか。おやっと思ってたちどまり、その窓のそばによって、そっと、中をのぞいてみました。
 ガラス窓の中に、あついカーテンがさがっていて、そのあわせめが、開いています。
 マユミさんは、窓ガラスに顔をつけるようにして、のぞきました。
 電灯ではなくて、テーブルの上のろうそくが、赤ちゃけた光をなげています。そのにぶい光の中に、ふたりの男がテーブルをへだてて、むかいあっていました。せまいすきまなので、ふたりの顔が、はんぶんくらいずつしか見えません。
 しかし、そのひとりは、宝冠のつつみを持って、自動車に乗ってきた男にちがいありません。
 そのむこうがわにいるのは、ふしぎな人物です。頭を、まん中からきれいにわけてなでつけ、キュッとさかだったまゆの下に、ほそい目がキラキラと光り、高いワシ鼻、ぴんとはねたまっ黒な口ひげ、三角がたのあごひげ。西洋悪魔の絵とそっくりの顔です。それが、黒いビロードのガウンをきて、ひじかけいすに、ゆったりとこしかけているのです。
「先生がお帰りになるのを待っていました。先生、うまくいきましたよ。ユリ子人形が、金庫の暗号をたちぎきして、盗みだしてくれたのです。それをうけとって、ここへ持ってきました。先生の計略は、みごとにあたりましたね。」
 自動車に乗ってきた男が、しゅびよく宝冠を盗みだしたことを、西洋悪魔のような男に報告しているのです。西洋悪魔を、先生、先生とよんでいます。
 この西洋悪魔みたいなやつは、神山さんのうちへ、ユリ子人形を売りにきた男ですが、こいつの正体はいったい、何者でしょう。むろん、人形じいさんと関係があるのにちがいありません。もしかしたら、人形じいさんと同じ人かもしれません。魔法つかいのことですから、どんな顔にでもばけられるのでしょう。
「うん、あのユリ子は、なかなか知恵がはたらくからね。きっと、うまくやってくれると思っていたよ。……では、その宝物を、見せてもらおうか。」
 先生とよばれた西洋悪魔が、いかにもうれしそうな顔でいいました。
 男はすぐに、テーブルの上においてあった、白いふろしきをほどきます。中から四角い皮ばりの箱が出てきました。男は、その箱のふたに両手をかけて、うやうやしく持ちあげましたが、持ちあげたかとおもうと、「あっ!」という叫び声が聞こえてきました。西洋悪魔と、部下の男とが、一度に叫んだのです。
 箱の中は、からっぽだったのです。「ほのおの宝冠」は、かげもかたちもありません。そして、宝冠のかわりに、ビロードの台座の上に、一枚の紙がおいてありました。
 西洋悪魔は、いそいで、その紙をとって読んでいます。読むにしたがって、かれの顔が、まっかになってきました。さかだっているまゆが、いっそうさかだち、ほそい目が、リンのようにかがやき、赤いくちびるをひきしめて、ぎりぎりと、歯がみをしているのです。
 マユミさんは、その紙にかいてある文章を、ちゃんと知っていました。
それは、
きみは、ユリ子人形をつかって、うまくやったと思っているだろうが、上には上があるのだ。宝冠は、たしかにかえしてもらったよ。どうして宝冠を、箱の中から、ぬき出したかわかるかね。ユリ子人形は、たしかに、宝冠のはいった箱を盗みだした。それなのに、いつのまにか、宝冠が消えてしまったのだ。
お気のどくさま!
と、いうのです。なぜそれをしっていたかといいますと、じつは、この文章は、マユミさんが、じぶんで書いたからです。
 マユミさんは、宝冠が盗まれそうだとわかったとき、神山進一君から、箱の色や大きさをきいて、にたような箱を手にいれ、その中へこの手紙をいれて、ちゃんと用意しておいたのです。ほんものと同じように、白いふろしきでつつむことも、わすれませんでした。
 その白いふろしきづつみを持って、自動車のトランクにかくれ、男が、ほんもののつつみを西洋館の入口の石段において、かぎを、ガチャガチャやっているすきに、そっと、ほんものとにせものとを取りかえて、逃げだしたのです。そして、宝冠のつつみを、近くのお友だちの家にあずけておいて、また、西洋館へひきかえしたというわけでした。
 マユミさんは、じぶんのトリックがうまくいったので、うれしくてたまりません。夢中になって窓の中をのぞいていました。それが、ゆだんでした。すこしも気のつかないまに、マユミさんのまわりには、恐ろしい怪物がおしよせていたのです。
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