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魔法布偶-黄金老虎
日期:2021-12-19 23:53  点击:250

黄金のトラ


「ワハハハハ……。ここまでおいて、ほら、ここだよ。ワハハハハハ……。だが、用心するがいいぜ。この家には、いろんなしかけがあるんだからね。恐ろしい番人がかってあるんだからね。ワハハハ……。ほら、ここだよ、ここだよ。」
 西洋悪魔は、じぶんのいるところをおしえるように、パンパンと、手をたたきました。そして、その音が、だんだんむこうのほうへ遠ざかっていくのです。
 あいつはいま、「番人がかってある。」といいました。「かってある。」というからには、それは人間でなく、なにか恐ろしい動物なのかもしれません。この地底の暗やみには、ゴリラや大トカゲや大ワシのほかに、まだ動物がかくれているのでしょうか。
 警官たちは、てんでに、懐中電灯を照らしながら、手の音のするほうへと、つきすすんでいきました。
 ジャングルの大きな木のみきのあいだをとおりすぎると、むこうに、まっ黒なほら穴の入口があります。そこへ西洋悪魔がかけこんでいくのが、懐中電灯の光で、チラッと見えました。
「あっ、あすこにほら穴がある。いま、あいつが逃げこんだぞ。みんなあの穴へとびこむんだ!」
 中村警部が、大きな声で命令しました。ふたりの勇敢な警官が、その穴へかけこんでいきます。
 ふたつ角をまがると、懐中電灯の光のなかに、西洋悪魔がこちらをむいて、たちはだかっているのが見えました。そして、にやにや笑いながら、手まねきをしているではありませんか。
 西洋悪魔の部下たちは、まだジャングルの中で、あとにのこった四人の警官や少年探偵団員たちと、とっ組みあいをしていました。もう、手錠をはめられてしまったかもしれません。
 ですから、ほら穴の中の西洋悪魔は、ひとりぼっちです。それなのに、どうしてあんなにおちつきはらっているのでしょう。こちらはふたりの警官と、中村警部と、あとからかけこんできた小林少年とポケット小僧の五人です。いくらなんでも、ひとりぼっちの西洋悪魔が、かなうはずはありません。
 あんまりあいてがおちついているので、うすきみわるくなってきました。警官たちも、そこに立ちどまったまま進もうとしないのです。
 そのときです。どこからか、「ウオーッ……。」という恐ろしいうなり声が、ひびいてきました。人間ではありません。動物の声です。猛獣(もうじゅう)のうなり声です。
 みんなはギョッとして、声のするほうを見ました。懐中電灯を、そのほうにむけました。
 右手にべつのほら穴の口がひらいています。そこが枝道になっていたのです。あのうなり声は、どうやら、その枝道の奥からひびいてきたようです。
「あっ!」
 まっさきに立っていた警官が、思わず声をたてました。なにを見たのでしょう? その枝道の穴の中に、なにかいるのでしょうか。
 ピカッと光りました。金色のものです。そして、それが、だんだん大きくなってきます。なにものかが、穴の中から、こちらへ出てくるのです。
「ワハハハハ……。おい、用心しろ。番人が出てきたぞっ。いまに、きさまたち、くわれてしまうぞ。」
 西洋悪魔は、そんなおどかしをいって、おもしろそうに笑っています。
「あっ、トラだっ!」
 小林君が、それに気づいて叫びました。みんなは、たじたじとあとじさりをしました。
 穴の中から、ヌーッとあらわれたのは、一ぴきの大きなトラでした。しかも、そいつは金色に光っているのです。黄金のトラです。
「ガア……ウオーッ……。」
 黄金の巨大なトラは、穴の外へ全身をあらわして、まっかな口をガッと開くと、また一声うなりました。
「ほら、あのおまわりさんをやっつけろ。あっちがわにいるのは、みんな、おれの敵だ。わかったか。」
 西洋悪魔は、大声でトラをけしかけました。トラはそれにしたがって、ヌーッとこちらをむきました。二つの目が、らんらんとかがやいています。
「ウオーッ……。」
 するどい(きば)をむきだして、もう一度うなりました。そして、のそり、のそりと、こちらへ近づいてきます。
 警官たちも、小林君も、逃げごしになっていました。ところが、ポケット小僧だけは、へいきです。にやにや笑いながら、もとの場所につっ立っているではありませんか。
「おい、ポケット小僧、あぶないよ。はやく逃げろ!」
 小林君が、心配して声をかけますと、小僧は、こちらをふりむいて、いみありげに、また、にやりと笑いました。いったい、これはどうしたわけでしょう?
 ところが、そのとき、みょうなことが起こりました。
 こちらに近づいていたトラが、ふっと立ちどまったのです。そして、ゆっくりと、まわれ右をしました。西洋悪魔のほうに、むきなおったのです。
「おい、なにをしている。こっちじゃない。そこのおまわりを、やっつけるんだ。」
 西洋悪魔はびっくりして、トラをどなりつけました。
 しかしトラは、ゆうゆうと西洋悪魔のほうへ近づいていきます。そして、一メートルほどに近よったかと思うと、「ウオーッ……。」とひと声、パッとおどりあがって、いきなり、西洋悪魔にとびかかったではありませんか。
「ギャーッ……。」
 西洋悪魔が、恐ろしい叫び声をたててたおれました。
 トラは、その上にのしかかって、いまにも、相手ののどへくいつきそうにしています。
「ワハハハハ……。」
 どこからか、西洋悪魔のとはちがった、ほがらかな笑い声がひびいてきました。
 みんながびっくりして、そのほうをながめます。
 トラの出てきたあのほら穴から、だれかの姿があらわれました。
「あっ、明智先生っ!」
 小林君が、うれしいおどろきの叫び声をたてました。
 それは名探偵明智小五郎でした。いつのまに、こんなところへきていたのでしょう。いつもの黒い背広をきた、すらっとした姿が、そこに立ちはだかっていました。
「ワハハハハ……、赤堀(あかほり)さん、もういいから、皮をぬぎたまえ。」
 明智探偵が、わけのわからないことをいいました。赤堀さんとは、いったいだれでしょう。どこにいるのでしょう。
 すると、へんなことが起こりました。西洋悪魔の上にのしかかっていたトラが、あと足で立ちあがって、なにかもがもがやっていたかと思うと、おなかが、たてにスーッとさけて、中から、人間のしらが頭が、ニュッと出てきたではありませんか。
 ああ、これはいったい、どうしたというのでしょう。


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