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奇面城的秘密-阿多尼斯像
日期:2021-12-28 17:25  点击:277

アドニスの像


 明智探偵と小林少年は神山邸につくと、見はりをつとめている警官とも話しあい、やしきのうちそとを、くまなく見てまわり、ことにレンブラントの油絵のかかっている美術室は、ねんいりにしらべました。そしてある計画をたてたのです。それが、どんな計画だったかは、やがて、わかるときがくるでしょう。
 それから四日のあいだは、なにごともなくすぎさりましたが、警官隊の見はりは、昼も夜も厳重につづけられ、いかに四十面相でも、これでは、しのびこむすきもないように見えました。
 そのあいだに、ひとつだけ、ちょっと、へんなできごとがありました。明智と小林少年が、はじめて神山邸をしらべた、つぎの朝のことです。神山さんが、美術室へはいってみると、部屋のすみに立ててあったアドニスの石膏(せっこう)像が、まっぷたつにわれて、ころがっていたのです。
 そのまわりには、こなごなにわれた、石膏のかけらがとびちり、そばに、野球のボールがころがっていました。そとの原っぱで野球をしていたボールが、ひらいた窓からとびこんで、石膏像の腹にあたったらしいのです。
 美術室の窓は、いつもしめきって、かけがねがかけてあるのですが、女中さんがそうじをするときには、窓をあけますから、窓をあけておいて、女中さんが、ちょっと部屋を出たすきに、ボールがとびこんだのかもしれません。
 アドニスというのは、大むかしのギリシア神話のなかに出てくる美しい青年で、そのはだかの像を有名な彫刻家がいくつもつくったのですが、いまのこっているのは、ごくわずかです。ほんものは大理石にほったものですが、フランスの美術商が、それとそっくりの石膏像をこしらえて売りだしたのを、神山さんが買って帰ったもので、青年アドニスが、はだかで立っている、おとなよりも大きな美しい石膏像です。それが野球のボールで、まっぷたつにわれてしまったのです。
 この石膏像は、大きくても、たいしてねうちのあるものではありませんが、神山さんが、はるばるフランスから買ってきたものですから、そのままにしておくわけにはいきません。さっそく、ハヤノ商会という石膏像せんもんの店に電話をかけて、もとどおりにつがせることにしました。
 すると、ハヤノ商会の人がやってきて、この場でなおすことはできないからというので、われた石膏像をトラックにつんで、工場へもちかえりましたが、それが四日めに、もとのとおりにつぎあわされて、もどってきました。ハヤノ商会の四人の人夫が、それを二階の美術室にかつぎあげて、もとの場所においてかえりました。
 警察では、この人夫たちのうちに、四十面相の手下がまぎれこんでいたら、たいへんだというので、石膏像をはこび出したときにも、持ちこんだときにも、厳重に見はっていましたが、べつにあやしいこともなかったのです。
 レンブラントのS夫人像は、もとのところにかかったままです。銀行の大金庫の中へでも、あずけたらという意見も出ましたが、持ちはこびなんかしたら、その道があぶないというので、美術室から動かさないことにしたのです。
 さて、石膏像が持ちこまれた日は、ちょうど四十面相の手紙にあった、五日めにあたっていました。五日以内に、かならずぬすみだしてみせるというのですから、きょうの夜なかまでが期限です。それをすぎれば、四十面相は負けたことになります。
 いまは午後の三時です。夜なかまでは、もう九時間しかありません。警戒は、いよいよ厳重になりました。警官と書生や社員などをあわせて十数名の強そうな男たちが、やしきのあらゆる場所に見はりをつづけているのです。
 神山邸の洋室の書斎には、主人の神山さんと、明智小五郎と、警視庁の中村警部とがテーブルをかこんで、ひそひそと話しあっていました。
「明智君、きみは、なにか考えがあるようだが、だいじょうぶだろうね。今夜がいちばんあぶないのだ。どうだろう、われわれ三人で、夜あかしをして、美術室にがんばっていることにしたら?」
 中村警部が、心配そうな顔で、そんなことをいいだすのでした。
「それもいいが、ぼくに考えがある。美術室は、からっぽにしておくほうがいいのだよ。ちゃんと、ぬすまれないようなてだてがしてあるから、安心したまえ。
 四十面相は、これまでにも、たびたび、こういう予告をした。そして、ちゃんと予告どおりにやってみせた。ぼくたちはいつもあいつに、出しぬかれている。いくら厳重に見はっていても、あいつにかかっては、なんにもならない。
 だから、こんどは、がらっと、やり方をかえて、美術室はからっぽにしておこうと思うのだ。むろん、ドアや窓には、かぎをかけてあるがね。
 つまり、さそいのすきを見せるのだよ。そして、あいつを、おびきよせておいて、つかまえようというわけさ。」
 明智探偵は、自信ありげにいうのでした。
「しかし、やしきのまわりの見はりは、やっぱりつづけたほうがいいでしょうね。いくら四十面相でも、鳥のように飛んでくるわけではないでしょうから、見はりさえしておれば、美術室へはいることができないのですからね。」
 神山さんが、心配そうに口をはさみました。
「いや、それも、ほんとは、どうでもいいのです。いくら見はっていても、あいつはちゃんと、やってきますよ。しかし、いざというときに、手だすけになりますから、見はりは、やっぱり、つづけたほうがいいでしょうね。」
 明智は、やしきのまわりの見はりも、ひつようがないというのです。そのうえ、美術室をからっぽにしておくのですから、神山さんや中村警部には、なんだか、あぶなっかしいように思われるのです。
 やがて、夜になりました。
 美術室の窓には、中からかけがねをかけ、ドアには外からかぎをかけ、ふたりの書生が、その外の廊下にいすをおいて、見はりをしていました。
 十人の警官は、家のまわりをかこんで、すこしのゆだんもなく、警戒についていました。
 中村警部は、たえず、そのへんを歩きまわって、見はりの人々のかんとくをしていました。
 明智探偵は、日のくれるころどこかへたちさったまま、まだ帰ってきません。このかんじんのときに、名探偵は、いったい、なにをしているのでしょう。
 だんだん夜がふけていきました。
 どこかで、時計が十時をうつのが聞こえました。
 そのとき、二階の美術室の中に、ふしぎなことがおこったのです。
 美術室は、小さな電灯ひとつだけをのこして、ぜんぶの電灯が消してありました。そのうすぐらい中で、パチッ、パチッと、なにか、もののはぜるような音がしています。(ねずみ)がなにかかじっている音でしょうか。いや、このりっぱな美術室に鼠なんか出るはずがありません。
 ああ、ごらんなさい。あのアドニスの巨大な像が、かすかにゆれているではありませんか。石膏像が生きて動き出したのでしょうか。
 やがて、もっとふしぎなことがおこりました。
 パチッ、パチッと、石膏像がひびわれはじめたのです。そして白い石膏のおもてに、こまかいすじが、いくつもできて、そのすじが、みるみる広がっていくではありませんか。
 パラパラッと、石膏のかけらが床に落ちました。それが、だんだん大きくなってくるのです。
 床には、じゅうたんがしいてあるので、その音は、ドアのそとまで聞こえません。
 石膏のひびわれは、いよいよ大きくなり、そのあいだから、なにか黒いものが、あらわれてきました。
 やがて、右の足がひざのへんからはなれて、その中から、べつの黒い足が、ニュッと出てきました。つぎに、左の足に、おなじことがおこり、ひざの上に石膏をかぶった黒い二本の足が、台座(だいざ)からじゅうたんの上におりてきました。
 右左の手が、肩のところから、すっぽりとぬけて床に落ち、その下から、べつの黒い手があらわれました。
 それから二本の黒い手が、いそがしくはたらいて、からだをおおっていた石膏を、ぜんぶとりのけてしまいました。
 それは、まっ黒なシャツをきた、ひとりの人間だったのです。あたまにも黒い覆面をかぶっています。目のところだけくりぬいてあるのです。アドニスの像の中には、生きた人間がかくれていたのです。



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