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奇面城的秘密-水攻
日期:2021-12-28 17:31  点击:280

水ぜめ


 しばらくすると、赤い消防自動車がかけつけ、門から庭へはいってきました。中村警部のさしずで、探照灯が点じられ、白い棒のような強い光が、西洋館の大屋根を照らしました。
 やっぱりそうです。黒いシャツをきた男が、ぴったりと、屋根にからだをくっつけて、はらばいになっています。そのすがたが、はっきりと照らしだされたのです。
 四十面相は、顔をふりむけて、まぶしそうに、こちらを見ました。そして、いきなり逃げだしたのです。逃げだすといっても屋根のそとへは出られません。とびおりたりなんかすれば、死んでしまうばかりです。
 かれは、屋根をはって、頂上のむねがわらまでたどりつくと、ひょいと、それをまたいで、むこうがわに、すがたを消してしまいました。
 探照灯の光は、むねがわらのむこうまでは、とどきませんから、四十面相を見うしなわないためには、自動車を、むこうがわにまわして、そこから探照灯をあてるほかはありません。
 消防車の運転手は車を動かして、うらへまわろうとしました。それを見た中村警部は、
「いや、このままでいい。あっちへまわったら、あいつはこっちがわの屋根へ逃げるだろう。そうすれば、また、ここへもどってこなければならない。あいつがむねがわらを、こえるのはすぐだけれども、自動車をむこうへまわすのはたいへんだ。それより、自動ばしごをのばしなさい。そうして、大屋根までとどかせてくれれば、ぼくの部下がのぼっていって、あいつをつかまえるよ。」
と、さしずをしました。
 すると、ガラガラッとモーターがまわって、自動ばしごが、上へ上へとのびはじめました。そして、みるまに、大屋根の高さになったのです。
 そういうことになれた、中村警部の部下のふたりの警官が、くつをぬぎ、上着をぬぎ、みがるないでたちになって、空にむかって、まっすぐに立っている自動ばしごを勇敢にのぼっていきます。
 警官隊のうち、うらがわに三人ばかりのこして、みんな消防自動車のまわりに、集まっていました。主人の神山さんも、書生たちも、その中にまじっています。明智探偵と小林少年だけは、どこにも、すがたが見えないのでした。
 四十面相が、屋根に逃げるすこしまえにも、ふたりは、どこかへ、すがたをくらましていましたが、このかんじんなときに、またもや、ゆくえがわからなくなってしまったのです。いったい、どこへいったのでしょうか。
 ふたりの警官は、もう自動ばしごの三分の二ほどを、のぼっていました。あと二メートルで、大屋根にとどきます。
 そのとき、むねがわらのむこうから、四十面相のあたまが、ひょいと、こちらをのぞきました。そして、警官たちが、はしごをのぼってくるのに気づいたようすです。
 ふたりの強そうな警官が、屋根へあがってきたら、もうおしまいです。かれらは、手錠(てじょう)やとりなわを持っています。腰のサックには、たまをこめたピストルまで用意しているのです。四十面相がいくら強くても、とてもかなうものではありません。
 四十面相は、どうするつもりでしょう。とうとう、つかまってしまうのでしょうか。
 見ていると、かれは、むねがわらをのりこして、のこのこと、こちらがわの屋根へ出てきました。そして、だんだん、屋根のはしのほうへ、おりてくるのです。いったいなにをしようというのでしょう。
「オヤッ、やつは、とびおりるかもしれないぞ。救命具を用意したまえ。」
 中村警部の声に、消防手たちは、車にそなえつけてある、まるいズックの救命具を取りだして、五人でそれをひろげ、屋根の下へ近づきました。とびおりてくる四十面相のからだを、そのまるいズックの上に、うけとめようというのです。
 しかし、四十面相は、とびおりるけはいはありません。かれは、屋根のとっぱなまでくると、そこにかかっていた自動ばしごに両手をかけて、力まかせに、ゆさぶりはじめたではありませんか。
 そのために、いまにも屋根に手をかけようとしていた警官が、ふいをつかれて、ずるずるッと、はしごをすべり落ちました。
「アッ、あぶないッ。」
 そのまま、下まで落ちてくるのではないかと、手に汗をにぎりましたが、三だんほど、すべり落ちただけで、はしごのよこ木につかまって、やっとのことで、ふみとどまりました。あとからのぼっている、もうひとりの警官は、まだずっと下のほうにいたので、ふたりが、ぶっつかりあうこともなかったのです。もし、ぶっつかれば、ふたりとも、命はないところでした。
 さきの警官は、これにくっせず、またはしごをのぼって、屋根に手をかけようとしましたが、四十面相は、それを待ちうけていて、また、はしごを、ゆさゆさと、ゆさぶるのです。
 こんどは、用心をしていたので、すべり落ちないですみましたけれど、こんなにゆさぶられては、とても屋根にのぼることはできません。
 しかたがないので、警官は、腰のサックからピストルをとりだしました。
「こらッ、てむかいをするとぶっぱなすぞッ。命がないぞッ。」
 そうどなっておいて、空にむかって、一ぱつ、だあんと発射しました。
「ワハハハハ……。」
 四十面相は、さもおかしそうに、笑いだすのでした。
「ワハハハハ……、そんなおどかしは、おれにはきかないよ。おれは、なんにも武器を持っていないのだ。武器を持たない相手を、殺すことはできないはずだね。いくらおどかしの空砲(くうほう)をうったって、おれは、びくともしないよ。ワハハハハ……、ざまあみろ。」
 こんな相手にかかっては、どうすることもできません。四十面相のからだを、うつことはできないのを、ちゃんと知っているのです。警官はあきらめて、ピストルを腰のサックに、もどしてしまいました。そして、また、いくども屋根にとりつこうとしましたが、そのたびに、四十面相が、はしごをゆさぶるので、落ちないようにしがみついているのがやっとでした。とても犯人をつかまえることなどできるものではありません。
 下では、中村警部たちが、相談していました。
「水ぜめにしたらどうだろう。ホースで、あいつに水をぶっかけるんだよ。そうすれば、すべって落ちてくる。それを、救命具でうけとめればいい。」
 中村警部がいいますと、主任の消防手も賛成しました。
「やってみましょうか。消火栓(しょうかせん)をひらいてホースをつなげばいいのです。ホースの水は、ひじょうな力ですから、あいつはきっと、すべりますよ。」
「うん。それをやるほかはないと思うね。だが、うまくうけとめられるかな。やりそこなったら、あいつは死んでしまうからね。あいつを殺してはいけないのだ。なかなか、むずかしい仕事だよ。」
 中村警部は、心配そうに首をかしげました。
 こんなとき、明智探偵がいたら、もっといい知恵を出してくれるのでしょうが、明智も小林少年も、どこへいったのか、まだすがたを見せないのです。
「よしッ、やってみよう。しかし、注意しておくがね、ほんとうに、すべり落ちるまでやらないで、ただ、あいつをびっくりさせればいいのだ。いまにも、すべり落ちそうになれば、いくらあいつだって、手をあげるにちがいない。そのとき、はしごをのぼっていって、ひっくくってしまえばいいのだからね。」
 中村警部は、とうとう、決心をして命令をくだしました。
 そこで、ホースがのばされ、消火栓につながれました。地面をはっている白いホースが、へびのようにのたうって、ふくらんできました。
 ふたりの消防手が、ホースのつつ先をにぎっています。
 ホースのふくらみがツウッとのびて、つつ先にたっしました。そして、音をたてて水がほとばしりはじめました。
 水は一本の白い棒になって、そとに吹きあげています。つつ先はすこしずつ、むきをかえ、大屋根のとっぱなにむけられました。
 四十面相は、あたまから夕立のような水をかぶり、あわてて、屋根にはらばいになりました。水のいきおいは、刻一刻、はげしくなるばかりです。


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12/01 09:56