チンピラ隊の活躍
杉本さんと四人の刑事は、しばらく、まっ暗な庭に立ちつくしていましたが、怪物が消えてしまっては、どうすることもできませんので、やがて、みんな、うちの中へひきあげました。このことを警視庁にしらせて、どういうてだてをとればいいかを相談するためです。それにしても、小林少年は、いったいどうしたのでしょう。うちのほうへひきあげたのは、おとな五人だけで、小林君のすがたは見えませんでした。
小林君は、いつのまにか、そっとおとなたちのそばをはなれて、門のほうへ、さまよい出ていったのです。それは夜光人間が、ヒノキのてっぺんから消えうせるよりも、ずっとまえでした。
小林君は門のそとに出て、キョロキョロあたりを見まわしました。いったい、なにをさがしているのでしょう。
すると、道のむこうの、暗闇の中から、小さなもののすがたがあらわれ、チョコチョコと、こちらへかけよってきました。それが、門灯のぼんやりした光の中へ、近づいたのを見ると、小林君よりもずっと小さい少年でした。
なんて、きたない少年でしょう。顔はまっ黒によごれ、服はぼろぼろで、まるで、こじきの子みたいです。しかし、そのきたない顔のなかに、目だけが、かしこそうに、キラキラと、光っていました。
少年は、小林君のそばにかけよると、その耳に口をあてて、なにかぼそぼそと、ささやきました。
ふしぎなことに、小林君は、いっこうにおどろくようすもありません。まじめな顔で、少年のないしょ話を聞いています。
「ね、だから、きっと、あいつが、すべってくるんだよ。これが魔法のたねだよ。」
きたない少年が、耳から口をはなして、とくいらしく、いうのでした。
「うん、そうか。えらい。さすがはポケット小僧だな。よくみつけた。で、みんなそこにいるんだね。」
小林君のことばで、少年のすじょうがわかりました。このチビスケは、チンピラ別働隊のポケット小僧だったのです。からだはポケットにはいるくらい小さいけれども、かしこくて、すばしっこいチンピラ名探偵です。
「うん、あすこに、五人まってるよ。みんな、のっぽで、力の強いやつらばかりだよ。」
「よし、行ってみよう。それはどこだい?」
「やしきの裏のほうだよ。さあ、はやくおいで。」
そして、ふたりは、手をひきあうようにして、闇の中へかけだしていきました。
やしきの塀を、ぐるッとまわって、裏てに出ると、そこに広い原っぱがありました。
ポケット小僧は、闇をすかして、原っぱの中を見ていましたが、
「アッ、あそこだ。あそこにかたまって寝そべっている。」
とつぶやいて、小林君といっしょに、そのほうへ近づいていきました。
よくみると、しげった草の中にチンピラ隊の少年たちが五人、みんな腹ばいになって、身をひそめていました。
しかし、どうして、こんなところへ、チンピラ隊がきているのでしょう。それは、小林君が、自動車で杉本さんのやしきへくるとき、よりみちをして、チンピラ隊のひとりに連絡しておいたからです。杉本さんのやしきをおしえて、今夜十時まえから、その塀のまわりを、見はるようにいいつけたのです。
チンピラ隊の少年たちは、みんなすばしっこくて、勇気がありますから、いざというときには、おとなもおよばぬ働きをします。小林少年は、それを知っているので、まんいち、夜光怪人が塀をのりこして逃げるようなばあいにそなえて、数人のチンピラ隊を、塀のそとに待ちぶせさせておいたのです。
この小林君の計略は、まんまと、ずにあたって、チンピラたちは、闇の原っぱの中で、じつにたいへんなものを発見したのでした。
「ほら、あれだよ。塀の中の木のてっぺんから、ズウッとつづいているだろう。」
ポケット小僧が、まっ暗な空を指さして、ささやきました。
そこには、丈夫なほそびきが二本、ななめに空をよこぎっていました。やしきの中のいちばん高い木のてっぺんから、原っぱのまん中の、チンピラたちが寝そべっている草の中まで、つづいています。
小林君が、その草の中をしらべてみますと、ふとい棒が、土の中につきさしてあって、その棒にほそびきのはしを、むすんであることがわかりました。
「ね、夜光人間は、あの木のてっぺんから、このほそびきをつたって、すべりおりてくるにきまっているよ。空へ消えてしまうなんて、うそっぱちだよ。いつかのお寺の墓場の木の上から消えたのも、きっと、このやりかただったんだよ。」
ポケット小僧がささやきました。小僧は墓場のできごとを見たわけではありませんが、聞きつたえて知っていたのです。
「うん、そうかもしれないね。きみたちは、よくこれを見つけたね。感心だよ。あいつは、いま、この塀の中で、刑事さんたちに追っかけられている。きっと、あの木のてっぺんへのぼるにちがいない。そして、このほそびきをつたって、すべりおりるつもりだろう。ポケット君、このほそびきが、なぜ二本あるか、きみにわかるかい?」
小林少年が、やっぱり、ささやき声でいいますと、ポケット小僧は、すぐに、
「そりゃ、わかってるさ。一本の長いほそびきを輪にして、あの木のてっぺんの枝にかけてあるんだよ。そしてね、あいつが、ここまで、すべってきたら、この棒にくくりつけてあるのを、ほどいて、一方のほそびきをひっぱれば、ぜんぶ、ここへたぐりよせられるじゃないか。そうすれば、あとに、なんの証拠ものこらないんだからね。うまく考えやがったね。ふふん。」
と、なまいきな口をきくのでした。
そこで、小林君も、ポケット小僧も、草の中に身をふせて、夜光人間が、すべってくるのを待ちかまえました。
「あいつが、すべってきたら、みんなで、とびかかって、つかまえちまうんだよ。わかったね。こっちは子どもでも、七人もいるんだからね。いくらあいつが強くっても、だいじょうぶだよ。
だが、注意しなきゃいけない。もし、あいつが、ピストルを持っていたら、あぶないからね。あいつは、ほそびきをほどくために、両手をつかうだろうから、そのときに、とびかかるんだ。ポケットから、ピストルや短刀なんか取りださないうちに、両手をつかんでしまうんだ。わかったね。」
小林君がささやきますと、寝そべっているチンピラたちは、口々に、「うん、わかった。」と、たのもしげに答えるのでした。