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夜光人-大秘密
日期:2022-01-10 19:35  点击:322

大秘密


 それとおなじときでした。
 部屋の中には、明智探偵と、明智に化けた四十面相とがむかいあって、立ちはだかっていました。四十面相は、部屋のおくのほうに、明智探偵は、ドアに背中をむけて、じっと、にらみあっていたのです。
 オヤッ、なんだかへんですね。中村警部がすきまのできたドアから、部屋の中をのぞいたときには、そこには、だれもいなかったではありませんか。それなのにそのおなじときに、明智探偵と四十面相は、ちゃんと、そこに立っていたのです。
 作者が、でたらめを書いているのでしょうか。いや、けっして、そんなことはありません。両方とも、ほんとうなのです。読者のみなさん。これはいったいどうしたわけなのでしょう。そんなばかなことは、ありっこないと考えるでしょうね。ところが、じっさい、そういうことが、おこったのです。おわかりですか? よく考えてみてください。そこには、びっくりするような、ひとつの秘密があったのです。
 さっきまで、ゆれつづけていた、あの地震は、いつのまにか、ぴったりととまっていました。
 どこかで、かすかに、人の叫ぶ音がしたようです。それから、どしん、どしんと、なにかが、ぶっつかる音、めりめりと、板のわれる音、しかし、それが、ひどく遠いところから聞こえてくるのです。さすがの明智探偵も、それらのもの音が、なにをいみするのか、さとることができませんでした。
 そのとき、にせ明智の四十面相は、なにを思ったのか、つかつかとドアのほうに近づいて、持っていたかぎを、ドアのかぎ穴にさしこみました。
「おい、きみは、なにをするのだ。」
 明智探偵がおどろいて、たずねますと、四十面相はあざ笑って、
「部屋の外へ出るのさ。もう、きみの顔も見あきたからね。」
「エッ、なんだって? そのドアの外には、警官隊がつめかけているんだぜ。きみは、そこへ出て、はやくつかまりたいというのか。」
「うん、おれはつかまりたいんだよ。だが残念ながら、つかまりっこないね。おれは魔法をこころえているんだからね。じゃあ、あばよ。」
 そういったかとおもうと、いきなりドアをひらいて、外にとびだし、また、バタン、とドアをしめてしまいました。それが、あまりすばやかったので、明智探偵は、うっかり部屋の中にとりのこされたのです。
 しかし、あわてることはありません。外には警官隊が見はっているのですから、四十面相のやつ、たちまち、つかまってしまったにちがいありません。
 そのようすを見ようと思って、ドアをおしましたが、外から、かぎをかけたとみえて、びくとも動かないのです。
 明智は「オヤッ。」と思いました。なんだか、ようすがへんです。いきなりドアをたたいて、外へ声をかけました。
「中村君、いま、外へ出たやつが犯人だッ。ぼくとそっくりの顔をしているが、にせものだ。おい、中村君、そいつは怪人四十面相だ。わかったか……。」
 ところが外からは、なんの返事もありません。しいんと、しずまりかえっています。いよいよへんです。廊下にはおおぜいの警官がいるのですから、取っくみあいの音が聞こえてくるはずです。それが、まるで死んだようにしずかなのは、いったい、どうしたわけなのでしょう。
         ×    ×    ×    ×
 こちらは中村警部の一隊です。ドアをおしやぶって、警部とふたりの警官が、部屋の中へふみこみました。
 かんたんなイスとテーブルと、部屋のすみに、かざり棚がおいてあるぐらいのもので、どこにも人間のかくれられそうな場所もありません。
 中村警部たちは、きつねにつままれたような気持ちで、ぼんやりと、部屋の中を見まわしていました。
 すると、とつぜん、部屋の中がまっ暗になってしまいました。
「アッ、停電だ。」
 外の廊下からも、警官たちの声が聞こえてきました。廊下の電灯も消えてしまったのです。あたりは、しんの闇でした。
 そのときです。部屋のすみの天井の近くに、ボウッと白く光るものが、あらわれたではありませんか。
 人間の頭ほどの大きさの、まるいものです。それにまっ赤なものが、三つ、ついていました。二つは目、一つは口です。
 大きなまっ赤に光る目が、じっと、こちらをにらんでいました。耳までさけた口が、いまにも火を吹きそうに赤くもえています。
「アッ、夜光怪人だッ。」
 警官のひとりが、ふるえ声で叫びました。
「エヘヘヘヘヘ……。」
 身の毛もよだつ、笑い声。夜光怪人が笑っているのです。
「かまわないッ! ピストルだッ!」
 闇の中から、中村警部がどなりました。
 ふたりの警官のピストルが、恐ろしい音をたてて、赤い火を吹きました。
 空中の白く光る顔が、ぐらぐらとゆれました。たしかに一発は命中したのです。しかし、怪人はへいきです。
「エヘヘヘヘ……。」と、ものすごい笑い声をたてて、まっ赤な目をむいた顔が、サアッと、こちらへ、とびついてきます。
 またピストルが火を吹きました。しかし、相手はへいきです。めちゃめちゃに空中を飛びまわりながら、きみのわるい笑い声をたてているのです。
 怪物はピストルのたまがあたっても、死なないことがわかりました。お化けは、死ぬということがないのかもしれません。
「だれか、懐中電灯を持っていないか。」
 中村警部が、大きな声でどなりました。
 その声におうじて廊下から、パッと、光がさしてきました。三人の警官が懐中電灯をつけて、こちらへはいってくるのです。
 その三本の光が、夜光怪人の飛んでいる天井にむけられました。
 オヤッ、なんにもいないではありませんか。
 さっきまで、赤い目をむいて、飛んでいた怪物の顔が、もう、かげも形もありません。どこかへ消えてしまったのです。
 ふしぎは、いよいよ、くわわるばかりです。さっきは明智探偵と四十面相が、かき消すように消えたかとおもうと、こんどは、夜光怪人の首がなくなってしまったのです。
 銀色に光る首の下には、むろん黒いシャツでつつんだ人間のからだがあるはずです。そのからだもろとも、消えうせたのです。窓のない部屋、たった一つのドアのそとには、警官隊ががんばっています。ですから、逃げ道は、どこにもないのです。いったい、どうして消えうせたのでしょうか。
 ふしぎにつぐふしぎ、ここはまるでお化けやしきです。


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