白ひげのじいさん
お話かわって、こちらは小林少年が四人のチンピラ隊員といっしょに、西洋館のそとの原っぱの草の中に、寝そべっていました。
そこに地下道の入口を発見したからです。くさむらの中に、ぽっかりと穴があいていました。いつもは大きな石で、ふたがしてあるらしく、その石が、そばにころがっているのです。なぜ、ふたがひらいてあるのでしょう。もしかしたら、四十面相は、ここから逃げだすつもりではないでしょうか。
小林君は懐中電灯で、その穴の中を照らしてみました。石の階段が、ずっと下の方へつづいています。たしかに地下からの出口です。
そこで懐中電灯を消して、四人のチンピラといっしょに、穴のそばの草の中に寝ころんで、待ちぶせすることにしました。
このへんは、さびしい場所なので、商店のネオンなども見えず、自動車のひびきも聞こえず、空を見あげると、おどろくほどたくさんの星が、砂をまいたように美しく光っています。
それから、長い長いあいだ、しんぼうつよく待ちぶせしていましたが、そのかいがありました。穴の中から、何者かが、ヌウッと出てきたからです。
明智探偵に化けた四十面相かと思うと、そうではありません。穴からはいだしてきて、ステッキを力に、よろよろと立ちあがったのは、おそろしく年をとったおじいさんでした。
やみに目がなれているので、星あかりで、そのすがたが、かすかに見えます。しらが頭に、胸までたれたふさふさした白ひげ、背広をきて、ステッキをついているのですが、腰がふたつにおれたようにまがっています。
「ははあ、四十面相のやつ、こんなじいさんに化けて逃げだすつもりだな。」
小林君はそう思って、四人のチンピラに、尾行をはじめるというあいずをしました。
白ひげじいさんは、原っぱを、チョコチョコと歩いていきます。そんなに腰のまがったじいさんにしては、なかなか足がはやいのです。
原っぱを出ると、なにかの工場のコンクリート塀が、ずっとつづいています。街灯もすくなく、おそろしく暗い町です。
白ひげじいさんは、その町を、テクテクと歩いていきましたが、まがりかどにくると、ヒョイとうしろをふりむきました。
小林君たちは、コンクリート塀にくっつくようにして、尾行していましたから、見つかるはずはないと思いましたが、それでも、なんとなくきみがわるいので、立ちどまったまま、身うごきもしないでいました。
白ひげじいさんは、じっとこちらを見て、なにか、ぶつぶつと口の中でつぶやいていましたが、やがて、
「エヘヘヘヘ……。」
と、うすきみのわるい笑い声をたてて、そのまま、また、むこうへ歩きだすのでした。
どうも気づかれたようです。じいさんに化けた四十面相は、小林君たちの尾行を気づいて、あんなきみのわるい笑い声をたてたのかもしれません。
しかし、たとえ気づかれても、尾行をよすわけにはいかないので、小林君たちは、なおも、白ひげじいさんのあとをつけていきました。
工場のコンクリート塀をすぎると、神社の森がありました。じいさんは、その森の中へはいっていきます。少年たちも、あとにつづきました。
石のとりいをくぐって、しばらくいきますと、社殿の前に、石のコマイヌが石の台の上に、ぶきみな猛獣のようにうずくまっていました。
白ひげのじいさんは、そこをとおりすぎて、社殿のうらの深い森の中へはいっていきます。少年たちは、ますますきみがわるくなってきましたけれど、逃げだすわけにはいきません。
「エヘヘヘヘ……。」
気がつくと、白ひげのじいさんが、こちらをむいて、いやな声で笑っていました。少年たちはおもわず立ちどまりましたが、相手に気づかれたことは、もう、うたがうよちはありません。
「エヘヘヘヘ……、そこにいるのは小林君だね。それから、チンピラ隊の子どもたちだね。おれをつけてきたのは感心だ。よくあの地下道の口に気がついた。で、きみたちは、おれの正体を知っているのかね。知らなければ、いま、見せてやろう。ほら、これがおれの正体だッ。」
いったかとおもうと、じいさんのからだが、パッと木の幹にかくれ、そこから、青白く光るものが、スウッと浮きだしてきました。
夜光人間の首です。
青白くリンのように光る顔、巨大なまっ赤な目、赤くもえている口、あの恐ろしい夜光人間の首です。