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夜光人-枯井的井底
日期:2022-01-10 19:40  点击:325

古井戸の底


 それから一時間ほどのち、上山さんの書斎で、上山さんと、一郎君と、小林少年と、ポケット小僧の四人が、テーブルをかこんで腰かけていました。もう日がくれて、書斎には電灯がついているのです。
 窓はぜんぶしめきって、ドアには中からかぎをかけ、壁のだんろの前には、さっきの書生が棍棒(こんぼう)を手にして、立ち番をしていました。そこから夜光怪人が、はいってくるといけないからです。
「やつらがねらっているものを、見ておいてもらいましょう。あの金庫に入れてあるのです。いまわたしが、それを出して、ここへ持ってくるから待っててください。」
 上山さんは、そういって、いすから立ちあがると、部屋のすみの小型金庫の前へいって、からだでかくすようにしてダイヤルをまわし、扉をあけて、むらさきのふくさにつつんだ小さいものをとりだし、テーブルにもどってきました。
 そして、むらさきのふくさをひらきますと、中から二十センチほどの、ほそながいきりの箱が出てきました。
「さあ見てください。これがわたしのうちの家宝です。むかし中国からわたってきたもので、ヒスイばかりを組みあわせてつくった三重の塔です。」
 そういって、きりの箱の中から、それをとりだして、テーブルの上に立てて見せるのでした。
 黒っぽい緑色の、つやつやとした、かわいらしい三重の塔です。高さは十五センチほどしかありません。
「きみたちには、この値うちはわからないだろうが、千万円もする美術品です。夜光怪人は、さいしょに推古仏をぬすみ、二どめには白玉の小仏像をうばい、そして、こんどは、このヒスイの塔をねらっているのです。みんなふるい東洋の美術品ばかりです。あいつは、そういうものを集めようとしているらしい。」
 上山さんは説明をおわると、ヒスイの塔をきり箱に入れ、ふくさでつつんで、もとの金庫におさめました。
「このダイヤルの暗号は、わたしのほかには、だれも知らないのです。いくら夜光怪人でも、その金庫をひらくことはできませんよ。」
 上山さんは、もとの席にもどって、自信ありげにいうのでした。
 そのときです。
「アッ!」
と叫んで、小林少年が、いすから立ちあがりました。そして、むこうの窓を見つめています。
 みんなが、そのほうを見ました。
 窓ガラスのすぐむこうがわに、夜光の首が、さかさまに、さがっているではありませんか。
 まっ赤な口が上になり、まっ赤な目が下についています。二階からぶらさがって、顔だけで、窓の上のほうからのぞいているのです。
「よしッ、ピストルで、うちころしてやる。」
 上山さんは、デスクのところへ走っていって、そのひきだしからピストルをとりだすと、いきなり窓の首にむかって、ひきがねをひきました。
 ガチャンと恐ろしい音がして、窓ガラスがわれ、そこに大きな穴があきましたが、夜光の首は、スウッと上のほうへかくれてしまって、べつに、きずついたようすもありません。
 部屋の中の四人は、身動きもしないで立ちつくしていました。
 そのとき、
「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ……。」
という、あやしい鳥のなき声のようなものが聞こえてきました。
「アッ、あすこだッ!」
 小林君が叫びました。
 まっ暗な庭の木立ちのあいだを、夜光の首が、飛んでいるのです。首ばかりでなく、胴体もついているのでしょうが、それは、黒いシャツでかくされていて見えないのです。首ばかりが、宙を飛んでいるように見えるのです。青く光る顔、まっ赤な目、火を吹きそうなまっ赤な口、その首が、「ここまでおいで。」といわぬばかりに、ふわりふわりと、闇の中をただよっていくのです。
「ちくしょうめ! からかっているんだな。よしッ、ひっとらえてやるぞ。みんなも、ついてきたまえ。」
 上山さんは、いきなり窓をひらくと、まっ暗な庭へとびだしていきました。手には、さっきのピストルをにぎっています。
 小林君も、ポケット小僧も、一郎君も、書生も、つぎつぎと窓をのりこして、はだしで庭におり、上山さんのあとにつづきました。
 夜光の首は、「ケ、ケ、ケ、ケ……。」という、あのあやしい笑い声をたてながら、ふわふわと、むこうへ逃げていきます。
 上山さんは、どこまでも追っかけていきます。三人の少年と書生も、夢中になって走るのです。
 木立ちのあいだを、あちこちとくぐりながら、とうとう、庭のはずれまできてしまいました。そこは、つき山のうしろのくさむらで、水のかれた古井戸のあるところです。
 夜光の首は、その古井戸の上を、しばらくただよっていましたが、やがて、地面の中へ、スウッと消えていってしまいました。
「アッ、古井戸の中へはいった。もう、ふくろのねずみだぞッ。」
 上山さんは、そうどなって、古井戸に近づき、中をのぞきこみました。
 深い井戸の底に、夜光の首がうごめいているのが見えます。
 小林少年も、ポケット小僧も、こけのはえた井戸がわにとりついて、中をのぞいています。
 上山さんは、いきなり上着をぬいで、シャツとズボン下だけになりました。
「きみたちは、ここに待っていたまえ。わたしはおりていって、あいつをつかまえてやる。この井戸の内がわは石がけになっているから、それに足をかけて、おりられるのだ。」
 上山さんは、そういって、もう古井戸の中へすがたを消してしまいました。
 一郎君は、おとうさんが、こんな大胆な人だとは知りませんでした。いつものおとうさんと、まるで、人がかわってしまったようです。
「おおい、井戸の底に、よこ穴がある。あいつは、そのよこ穴へ逃げこんでしまった。だれか、うちへいって、縄をさがして持ってきてくれたまえ。それをつたって、きみたちも、ここへおりてくるんだ。」
 井戸の底から、上山さんの声がひびいてきました。
「縄をさがさなくても、少年探偵団のきぬ糸の縄ばしごを持っています。それで、いま、おりていきます。」
 小林君は、腰にまいていた長いきぬひもをほどいて、そのはしについている鉄のかぎを、井戸がわにひっかけ、ひもを井戸の中にたらしました。そのきぬひもには、三十センチおきに、まるいむすび玉がついていて、それに足の指をかけておりるようになっているのです。
「ぼくと、ポケット小僧だけ、おりていきます。一郎さんは、あぶないから、そこに待っていらっしゃい。書生さん、番をしててください。」
 そういいのこして小林君は、もう井戸の中へはいっていきました。小林君が下へおりるのを待って、ポケット小僧も、きぬひもをつたうのです。
 小林君が、水のない井戸の底に、おりたときには、上山さんは、もうよこ穴に、はいっていきました。
「ここだよ。石をくんだトンネルのようなものができている。いつのまに、こんなよこ穴ができたのか、わたしは、すこしも知らなかった。あいつは、このおくへ逃げこんでいった。追いつめて、ひっとらえてやろう。なあに、わたしはピストルを持っているから、だいじょうぶだよ。きみたちも、あとから、ついてきたまえ。」
「ええ、ぼくと、ポケット小僧だけついていきます。それから、ぼくたちふたりとも、万年筆型の懐中電灯を持っているのですよ。これをおかししますから、照らしながら進んでください。」
 小林君はそういって、ポケットから、探偵七つ道具のひとつの万年筆型懐中電灯をとりだし、上山さんにわたすのでした。
 よこ穴は、やっと、おとながはって通れるほどの広さでした。上山さんは右手にピストル、左手に懐中電灯をかざしながら、ぐんぐん、奥のほうへはっていきます。小林君とポケット小僧も、それにつづきました。
 ポケット小僧も、万年筆型懐中電灯をとりだして、照らしましたので、あたりは、ぼんやりと明るくなり、よこ穴の石ぐみが見えてきました。
 せまいよこ穴がつきると、そこに、広い洞窟(どうくつ)がありました。立って手をのばしても、天井にさわらないほど広いのです。
「おどろいたなあ。わたしのうちに、こんな地下道ができているなんて、思いもよらなかった。それにしても、なんのために、こんなものをつくったのかなあ。」
 上山さんが、あきれかえって、つぶやきました。


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