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塔上的奇术师-屋顶黑影
日期:2022-01-15 23:56  点击:214

宝石ばこ


 その日おうちにかえると、スミ子ちゃんもトシ子ちゃんも、それぞれ、おとうさんに、時計塔のこうもり男の話をしましたが、そんなばかなことがあるものか、きっと避雷針の修繕をしている電気屋さんかなにかを、そんなふうに見まちがえたのだろうと、とりあってくださいませんでした。
 マユミさんも、明智探偵に、それを話しました。明智探偵は、マユミさんが見まちがえなんかするはずはないとおもいましたので、すぐに、友だちの警視庁の中村(なかむら)警部に、このことをしらせました。そこであくる日、中村警部は、土地の警察署に、時計やしきをしらべさせましたが、べつにあやしいこともなかったという、報告がきました。
 それからなにごともなく、一月ほどたちました。
 そのある日のこと、淡谷スミ子ちゃんのおとうさんの、淡谷庄二郎(しょうじろう)さんは、ひとりの書生(しょせい)をつれて、自動車で、(まる)(うち)三菱(みつびし)銀行の金庫から、ふろしきにつつんだ、小さいはこを取り出して、おうちへ帰りました。それは、ひじょうにだいじなものなので、いつも銀行の金庫にあずけてあったのです。
 淡谷庄二郎さんは、大きな会社の社長さんで、たいへんなお金持ちでしたが、たった一つのどうらくは、宝石をあつめることでした。
 いまでは何千万円という宝石をもっているのですが、うちにおいてはあぶないので、三菱銀行の地下の大金庫の中にあずけてあるのです。
 きょうは、ぜひ宝石を見せてほしいという、ふたりのお友だちが、淡谷さんのうちへくることになっていましたので、わざわざ、銀行へ取りにいったのです。しかし、とちゅうでぬすまれてはたいへんですから、書生をつれて、じぶんの自動車で、宝石ばこのつつみを、取り出してきたわけです。
 宝石を見たいというお友だちは、ふたりとも、取引先のりっぱな会社の重役ですから、すこしも心配はありません。
 ばんには、ごちそうをして、それから宝石を見せることになっていました。
 スミ子ちゃんも、おかあさんといっしょに、ごちそうのテーブルに、ならぶことになっていました。
 淡谷さんが、宝石ばこを持って、自動車で帰ってからしばらくしたころ、スミ子ちゃんは、近くの本屋さんへ本を取りにいって帰ってきました。そして、門をはいって、げんかんのほうへ歩きながら、ふと、屋根の上に目をやりますと、そこに、恐ろしいもののすがたが見えたのです。
 もう日がしずんで、空は暗くなっていましたが、まだ、まったく夜になっているわけではありませんから、屋根の上も、ぼんやりと見えるのですが、そのうす暗い二階の屋根のてっぺんに、黒いものが、ヌウッと立っていたのです。
 アッと思ってたちどまると、そのあやしいすがたは、たちまち、屋根のむこうに消えてしまったので、チラッと見たばかりですが、スミ子ちゃんには、ひと目でわかりました。
 それは、一月ほどまえ、あの時計塔の屋根に、黒いマントをひらひらさせていた、こうもり男とそっくりのすがただったではありませんか。
 屋根のむこうへ消えるときに、こうもりの羽根のようなマントが、パッと、ひるがえるのが見えたのです。顔は、暗くてよくわかりませんでしたが、黒いめがねをかけていたようですし、ふさふさした髪の毛のあいだから、二本の角がのぞいていたように思われました。
 スミ子ちゃんは、夢中でおうちにかけこんで、おとうさんやおかあさんに、そのことを知らせましたが、おとうさんは、
「スミ子は、本を読みすぎるのじゃないか。こわい小説なんか、読んではいけないよ。ありもしないまぼろしを、見たりするようになるからね。」
といって、いっこう、ほんきになさらないのでした。
「スミ子ちゃんは、このごろ、なんだかノイローゼ(しんけいすいじゃく)みたいね。顔色もよくないわ。あんまり本を読まないでね。」
 おかあさんも、おなじことを、おっしゃるのです。
 まもなく、ふたりのお客さまがこられて、食堂で、ばんごはんがはじまりました。
 スミ子ちゃんも、そのテーブルにつきましたが、心配で心配で、おいしいごちそうも、のどをとおらないほどでした。
 ばんごはんがすむと、お客さまを洋室の書斎にとおして、そこで宝石をお見せすることになりました。スミ子ちゃんも心配なものですから、おとうさんのそばで、宝石ばこがひらかれるのを、ジッと見ていました。
 むらさきの色の、ちりめんのふろしきにつつんだものを、テーブルの上において、それをときますと、中から、四角な白ビロードのはこが出てきました。
 淡谷さんは、かぎたばを取り出し、一つのかぎをえらんで、そのビロードのはこの(じょう)をはずし、ふたをとりました。
 ビロードのはこの中に、もう一つ、ピカピカ光る黄金の宝石ばこがはいっていました。そして、それにも、錠がおろしてあるのです。
 淡谷さんは、その黄金の宝石ばこを、だいじそうに、両手でテーブルの上に取り出し、べつのかぎで、ふたをひらきました。
「まあ、きれい!」
 スミ子ちゃんは、まえに二、三度見たことがあるのですが、でも、見るたびに、おどろきの叫び声をたてないではいられませんでした。
 黄金の宝石ばこの中には、黒ビロードの台座(だいざ)があって、そこに、二十四個の色さまざまな宝石が、はめこんであるのです。
 五(しき)にちかちか光るダイヤモンド、まっ赤なルビー、青っぽく光るサファイア、エメラルド、そのほか、スミ子ちゃんの名もしらぬ宝石が、ずらっとならんでいるのでした。
「ほほう、これはすばらしい。」
 お客さまも、おもわず声をたてて、宝石ばこに見いっています。
 淡谷さんは、その宝石を、ひとつひとつ取り出して、それを手にいれるまでの苦心談をなさるのでした。
 宝石を見るのに三十分ほどもかかりましたが、そのなかばごろから、スミ子ちゃんは、また、心配でたまらなくなってきました。
 さっき、屋根の上に立っていたこうもり男は、どこにいるのでしょう。うちの中へしのびこんで、どこかのすきまから、この部屋の中をのぞいているのではないでしょうか。
 スミ子ちゃんは、おもわずあたりを見まわしました。そして、庭に面したガラス窓のほうを見たかとおもうと、
「アラッ!」
と叫んで、立ちあがりました。顔色は、まっ青です。
「アッ、スミ子、どうしたんだ。きぶんがわるいのか?」
 おとうさんがびっくりして、スミ子ちゃんを、だきかかえるようにしました。
 スミ子ちゃんは、いったいなにを見たのでしょう?


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