七つ道具
B・Dバッジは、団員の胸につけている目じるしで、まるいしんちゅうに銀メッキをして、少年探偵という英語のかしら字のBとDをくみあわせて、うきぼりにしたものです。
これは少年探偵団の七つ道具の一つですが、ついでに、七つ道具とはなにかということを、書いておきましょう。
1、B・Dバッジ
2、万年筆がたの懐中電灯
3、磁石(方角を知るためです。)
4、よびこの笛
5、柄のついた拡大鏡(虫めがねです。指紋など、小さいものを見るときに使います。)
6、小型望遠鏡(双眼鏡でもいいのですが、片方の目だけで見る、ポケットにはいるような、小さい望遠鏡で、とても便利にできています。)
7、手帳と鉛筆
このほかに、絹糸をたくさんよりあわせて作った、なわばしごがあります。
三十センチごとに、大きなむすび玉がこしらえてあって、それに足をかけて、のぼったり、おりたりするのです。
しかし、これは小林団長だけが持っていて、ふつうの団員は持たないことになっています。いりようのときは、小林団長がかしてくれるのです。
このなわばしごは、どこにも売っていませんし、小学生の団員にはあぶないので、持たせないのです。
北見少年は、少年探偵団にこれからはいるのですから、なにも知りませんので、中井少年が七つ道具のことを、教えてやりました。すると、北見少年がふしぎそうにたずねるのです。
「B・Dバッジが、どうして七つ道具なの? これ何に使うの?」
中井少年は、てのひらにのせた二十個ほどのB・Dバッジをジャラジャラいわせながら、それに答えました。
「いろんな使いみちがあるんだよ。ぼくたちが、悪者に、どっかへ連れられていくことがあるとするね。そのときは、向こうのうちに近づいた時、歩きながら、このバッジを一つずつ、そっと道へ落としていくんだよ。そうすれば、これを少年探偵団員が見れば、ぼくたちが、あぶないめにあっていることがわかるし、バッジのあとをつけてくれば、連れこまれた場所が、わかるというわけだよ。それから、悪者が、追っかけてきたら、このバッジを投げつけて、たたかうこともできるし、どこかへとじこめられたとき、手帳の紙をちぎって、手紙を書き、このバッジを包みこんで、おもしにして、へいの外へ投げて、助けをもとめることもできる。ぼくはいま、それをやろうとしているんだよ。」
「ああ、そうか、それで、手帳の紙に、あんな手紙を書いたんだね。」
北見君は、やっと、そのわけがわかりました。
「この紙だけを、高いへいの外へ、投げるのはむずかしいだろう。だから、おもしに、B・Dバッジを包みこむんだよ。へいの外は道路にちがいないから、だれかが拾うよ。それがおとなだったら、B・Dバッジで、ぼくたちが少年探偵団員だとわかるし、子どもだったら、B・Dバッジがもらえるというので、きっと電車に乗って、とどけてくれるよ。」
そう説明してから、中井君は、開いた窓に近づくと、手帳の紙でB・Dバッジをかたく包み、いきおいこめて、鉄ごうしのあいだから、へいの外へ投げました。いまは夜ですから、だれも気がつかないかもしれませんが、あすになったら、きっとだれかが、拾ってくれるにちがいないのです。
それをたのしみに、ふたりは一つのベッドにならんで横になり、しばらく小声で話していましたが、いつかぐっすりとねいってしまいました。