魔法のかぎ
そのあくる日の午後のことです。麹町の明智探偵事務所では、明智探偵が事件のために、福島県へ出かけているので、少女助手のマユミさんと、小林少年とが、おるす番をしていましたが、そこへ、チンピラ隊のポケット小僧が、遊びにきました。
ポケット小僧は、いろいろなてがらをたてて、小林団長のお気にいりになっていましたし、ポケット小僧の方でも、小林団長をにいさんのように、なつかしがって、しょっちゅう、遊びにくるのでした。
三人が、応接間で話をしていますと、入口のドアに、ノックの音が聞こえました。小林少年が立っていって、ドアをあけますと、そこに小学校五―六年ぐらいのひとりの少年が、立っていました。
「渋谷でこれを拾いました。明智探偵事務所へ、とどけてくれと書いてあったので、持ってきたのです。」
少年は、そういって、あの中井少年の書いた手帳の紙をさしだしました。ああ、やっぱり、拾ってくれた少年があったのです。
「そうですか。ありがとう。明智先生はるすだけれど、ぼく、助手の小林です。ぼくかわりに読みますよ。」
小林君が、そういって紙を受けとりますと、少年は目をかがやかせて、小林君の顔を見つめました。
「小林団長ですね。ぼく、一度、会いたいと思っていました。そして、ぼく、少年探偵団にはいりたいのです。入れてください。」
「それは、きみがどんな子どもだか、よくしらべてからでなきゃ、だめだよ。でも、中にはいって待っててください。いま、これを読むからね。」
小林君はそういって手帳の紙を読みました。すると、中井、北見の二少年が、渋谷区のあやしい家に、とじこめられていることがわかりましたので、すぐにそれをマユミさんやポケット小僧にみせて、相談したうえ、警視庁の中村警部に電話をかけました。
「中村さんですか。ぼく明智探偵事務所の小林です。鉄人Qのすみかがわかりました。ふたりの少年が、そこにとじこめられているのです。ぼく、これから、その家をしらべにいきたいと思いますが、さきにそちらにゆきましょうか。」
「それがいい。じゃあまっているよ。」
ポケット小僧が、小林君の腕をつかんで、おねだりしました。
「小林さん、ぼくも連れてっておくれよ。いいだろう。ね、ね。」
「よしっ、いっしょにきたまえ。それから、きみは、ぼくたちを案内してください。」
と、手帳の紙を持ってきた少年に、呼びかけました。
それから一時間ほどすると、小林君と、ポケット小僧と、案内役の少年は、警視庁の一室で、中村警部と、打ち合わせをしていました。
西洋館にしのびこむ方法を、いろいろと、相談したあとで、中村警部は、
「やっぱり、暗くなってからの方が、つごうがいいだろう。きみたちには弁当をとってあげるから、日がくれるまで、ここに待っていたまえ。」
といって、三人の少年を待たせることにしました。
それから、机のひきだしから、たくさんのかぎが、かねの輪にはまった、かぎたばを出して、小林君にわたしながら、
「これは、万能かぎといってね、どんなかぎあなにだって、このうちのどれかが、はまるようになっているんだ。小林君は、これでドアを開いて、ふたりの少年を、たすけだすんだよ。」
と、いいました。なれた人には、一本のはりがねがあれば、どんな錠でも、あけられるのですが、それよりも、この万能かぎの方が、もっと、使いやすいのです。
「へえ、魔法のかぎですねえ。」
と、いいながら、小林君は、それをポケットにしまいました。
こちらは、鉄人Qのすみかの、おばけ西洋館です。もう日がくれて、あたりは、まっくらになっていました。
西洋館の鉄の門は、ぴったりしまっていましたが、小さな子どもが、猿のように、その鉄のとびらをはいのぼって、内がわにおり、かんぬきをはずして、そっと門を開きました。
すると、そのとびらのすきまから、まっさきに、ひとりの少年がしのびこみ、しばらく、あいだをおいて、つぎつぎと背広姿のおとなが三人、門の中へ消えていきました。そして、また、とびらは、ぴったりしまってしまいました。
とびらを乗りこしたのは、ポケット小僧です。しのびこんだ少年は小林君です。そのあとの三人のおとなは、中村警部の部下の刑事たちです。
中村警部は十人の部下を、引きつれてきたのですが、残る七人は、へいのまわりに身をかくして、いつでも、中へとびこめる用意をしていました。
小林君とポケット小僧は、そっと、西洋館の裏にまわって、しのびこむ場所をさがしていましたが、うらの勝手口に、しまりがしてないことがわかりましたので、じゅうぶん、中のようすをうかがってから、思いきって、そこから西洋館にはいっていきました。
廊下には電灯もついていないので、あたりはまっくらです。ふたりの少年は、これさいわいと、だんだん奥の方へ、しのびこんでいきました。
B・Dバッジを包んだ手紙を、拾ってくれた少年の話で、中井、北見の二少年が、かんきんされている部屋の見当はついていますので、手さぐりで、その方へ、しのんでいくのです。
とうとう、それらしい部屋が見つかりました。ドアのかぎあなから、のぞいてみますと、中にはうすぐらい電灯がついていて、少年がいることがわかりました。よく見ると団員の中井少年です。もう、この部屋にちがいありません。
小林君は、ポケットから魔法のかぎをとりだして、音のしないように気をつけながら、つぎつぎと、かぎあなにあててためしてみました。
すると、三番目のかぎが、ぴったりはまったので、ぐっとまわしますと、ドアはなんなく開きました。