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假面恐怖王-移动的房间
日期:2022-01-30 13:52  点击:234

ふしぎな部屋


 おはなしかわって、ここは明智探偵事務所の一室です。
「ハハハハ……、おもしろくなってきたぞ。てごわいどろぼうが、あらわれたぞ。小林君、有馬さんの有名な『星の宝冠』がぬすまれてしまった。そいつから、いま電話がかかったのだ。ぼくに来ちゃいけないって、いったよ。やっぱり、ぼくがこわいんだね。だから、すぐいくことにする。自動車をよんでくれたまえ。」
 明智探偵が、そばにいる助手の小林少年にいいつけました。
「先生ひとりですか。ぼくは、いかなくていいのですか。」
 小林少年が、ふふくそうにいいます。
「きみは、留守番だ。ぼくに万一のことがあったとき、ぼくをたすけるのが、きみの役だからね。きみとぼくとは、なるべく、はなれているほうがいい。」
 そういわれると、小林少年も、かえすことばがありません。すなおにハイヤーの会社へ電話をかけました。
 しばらくすると、明智の事務所のある高級アパートの入口で、自動車のクラクションがなりました。「おむかえにきました。」というあいずです。明智探偵は小林少年に留守をたのんで、ひとりで玄関から出てきました。そして、そこの大通りにとまっている自動車のほうへ歩いていきます。すると、そのとき、へんなことがおこったのです。アパートの前のくらやみの中から、ひとりの男が、とびだしてきました。三十ぐらいの、よたもののようなやつです。その男が明智探偵のうしろへ、そっと近寄っていくのです。自動車のドアはあいていました。明智はその中へはいろうとしましたが、なにを感じたのか、はっとしたように身をひきました。いつもの自動車とちがっていることがわかったからです。運転手もへんなやつだし、うしろの席に、見かけたことのない男が腰かけていたのです。
 身をひこうとすると、うしろから、どんと、ぶつかってくるものがありました。さっき、やみの中からあらわれた、よたものみたいなやつです。
 そいつは、明智のからだをグングン自動車の中へ、おしこもうとします。すると、中にいたやつも腰をあげて、明智の首に腕をまきつけ、ちからいっぱい、車の中にひっぱりこむのです。
 あいてはふたりのうえ、ふいをつかれたので、さすがの名探偵もどうすることもできません。もう十二時に近い夜ふけですから、人どおりもなく、だれもたすけにきてくれるものはありません。
 しかたがないので、大きな声でさけぼうとしました。すると悪者は、はやくも、それをさっして、白いハンカチのようなもので、明智探偵の口と鼻をふさいでしまいました。
 ツーンと頭にひびくような、いやなにおいがしました。麻酔(ますい)薬です。……まもなく、名探偵は、自動車の中で気をうしなっていました。
     ×  ×  ×  ×
 明智探偵は、ゆめからさめたように、ふと目をひらきました。
 見まわすと、なかなか、いごこちのいい部屋です。せまい部屋ですが、一世紀もまえのフランスの客間を思いだすような、ぜいたくな、うつくしい部屋でした。
 てんじょうからは水晶玉でかざったシャンデリアがさがり、白くぬった、きゃしゃなテーブル、ふかぶかとしたクッションの、りっぱな長いす。
 明智は、やっと思いだしました。
「ああ、ぼくは、悪者につかまえられたのだ。そして、麻酔薬をかがされて、気をうしなってしまったのだ。」
 まだしばられているのではないかと、手足を動かしてみましたが、まったく自由でした。ただ長いすの上によこになって、グッスリねむっていたらしいのです。
 そのとき、明智が目をさますのを待ちかねていたように、ドアがあいて、ひとりのうつくしい少女がはいってきました。高校生ぐらいの年ごろです。手にはコーヒーをのせた銀のぼんをささげています。
「お目ざめになりまして?」
 少女は銀のぼんをテーブルの上において、やさしく明智探偵に話しかけました。
「ほんとうに、たいへんでしたわね。でも、どこもおいたみになりません。」
 明智探偵は、ゆめみたいな気持で、しばらくぼんやりしていましたが、どうもわけがわかりません。
「ここは、いったいどこの、おうちなんでしょう? そして、あなたは?」
と、たずねてみました。
「あなたを、おたすけしたひとのうちですわ。あたしは、そのうちのむすめです。」
「そうでしたか。ぼくは悪者のために自動車におしこまれ、麻酔薬をかがされて気をうしなってしまったのですが、あれから、どのくらい時間がたったのでしょう。そして、ここは、やっぱり東京なのでしょうか。」
「ええ、まあ、そうですの。でも、あなたは、まだ、いろいろなこと、お考えにならないほうがよろしいですわ。」
「なあに、もう、だいじょうぶですよ。どこも、なんともありません。すこし、頭がフラフラするぐらいのものです。」
 明智はそういって、長いすの上に、おきなおってみせました。しかし、そうして身をおこしてみると、やっぱり、からだがほんとうでないのか、部屋ぜんたいがグラグラゆれているように感じて、おもわずいすの上に手をつきました。
「まだ、だめです。めまいがします。なんだか、この部屋がフワフワと、宙にういているような気持です。」
「ほら、ごらんなさい。むりをしてはいけませんわ。」
「しかし気分はなんともないのです。どうか、ご主人にあわせてください。おれいをいわなければなりません。」
「そんなことはいいんですの。それに、いま主人はおりませんし……。」
 そのとき、明智は、この小部屋のつくりかたが、どうも、ふつうでないことに、やっと気がつきました。
「おやっ、この部屋には窓がひとつもありませんね。だから、昼間でも、こうして電灯をつけておくのですか。みょうな部屋ですね。いったい、いまは昼ですか、夜ですか。」
「夜ですの。いま八時ですわ。」
「いく日の?」
「十六日。」
 少女はそう答えて、口に手をあててクスクス笑いました。
「ぼくが自動車におしこめられたのは、十五日のばんだから、あれから、まる一日たっているわけだな。」
と、ひとりごとをいったものの、なんだかへんな感じです。この少女の、みょうになれなれしい口のききかた、窓のひとつもない部屋、それに、いつまでたっても、部屋がユラユラゆれているような感じ。
「この部屋は、いったい、何階にあるのです。なんだか、いつもユラユラしていて、高い塔の上にでも、いるような気持ですね。」
「そうかもしれませんわ。」
 少女は、心の中で笑っているような口ぶりです。
「でも、いごこちは、わるくないでしょう。しばらく、おとまりになる間、できるだけ、お心持ちのいいようにと、いいつけられていますのよ。お気にめさないことがありましたら、なんでも、おっしゃってくださいまし。」
 少女はなかなか、おせじがいいのです。
「しばらく、おとまりですって? じょうだんじゃありません。ぼくは、だいじな用件があるんですよ。」
 明智探偵は、あきれかえってしまいました。まるでキツネにつままれたような気持です。
「いいえ、そんなにおあせりになっては、だめですわ。なにもお考えなさらないほうがいいわ。」
 少女は、まるで、きのどくなきちがいでもなぐさめるような調子で、
「では、のちほど、またまいりますわ。さめないうちにコーヒーを、めしあがってくださいまし。」
 少女はそういいすてて、逃げるようにドアのほうへいきますので、明智は、「まってください、まってください。」と、よびかけながら、いすから立ちあがって少女のあとをおいかけようとしましたが、二―三歩あるくと、なにかに足をとられて、バッタリたおれてしまいました。
「ホホホホ……、ほらごらんなさい。ですから、じっとしていらっしゃるほうがいいのよ。」
 少女はあざけるようにいって、ドアのほうへ歩いていきました。
 気がつくと、明智探偵の足くびに、鉄の輪がはめてあって、それについた鉄のくさりが、長いすのあしに、くくりつけてあることがわかりました。まるで動物園のクマのように、そのくさりののびるだけしか、動けないのです。


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12/01 09:41