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假面恐怖王-角色互换
日期:2022-01-30 13:52  点击:235

名探偵の変装


 それから、大格闘がはじまったのです。上になり、下になり、ふたりは、まっくらな甲板の上をゴロゴロと、ころがりまわっていましたが、とうとう明智が上になり、道化仮面はくみしかれたまま動かなくなってしまいました。明智は柔道の手で、あいてののどをしめ、きぜつさせてしまったのです。
 あたりを見まわしましたが、甲板には人かげもありません。ふたりは、だまってとっくみあっていたので、船室にいる部下たちはなにも知らないのです。
 明智探偵は、ぐったりとなった道化仮面のからだを、甲板のものかげへひっぱっていって、じぶんの服をぬいで、あいてにきせ、あいての道化仮面をはずして、じぶんの顔にかぶり、とんがり帽子もとって、じぶんの頭にかぶりました。
 人間のいれかわりです。ぐったりとたおれているのが明智探偵で、立っているのが道化仮面の恐怖王としか思われません。
 明智探偵は、なにか冒険をやらなければならないようなときには、ワイシャツの下に、ぴったり身についた黒シャツと黒のズボン下をつけて出ることにしていました。きょうも、それを着ていたので、仮面さえつけて、服やワイシャツをぬぎさえすれば、賊の首領になりすますことができるのでした。
 それから、ながいなわをもってきて、首領の手足をぐるぐるまきにしばり、さるぐつわをはめたうえで、首領のからだの急所をぐっとついて、息をふきかえさせました。
 息をふきかえしても、賊は手足をしばられているうえに、さるぐつわをはめられているので、どうすることもできません。
 明智は、そのへんにまるめてあったズックのきれをひろげて、首領のからだにかぶせました。そして、じぶんは甲板におちていた、さっきのピストルをひろいとると、賊の首領になりすまして、船室へはいってくるのでした。
 そして、いちばんりっぱな部屋へはいっていき、あたりを見まわして、つくえの上のよびりんのボタンをおしました。
 すると、ひとりの部下があらわれ、
「かしら、なにかごようで……。」
と、たずねました。
「うん、おまえは知っているだろう。れいの『星の宝冠』を、おれがどこへしまったか、いってみろ。」
 明智は賊の首領のドラ声をまねて、わざとらんぼうにいいました。
「へっ、かしらは、じぶんで、しまっておいて、忘れちゃったんですかい。」
 部下は、へんな顔をして、聞きかえします。
「いや、おれはむろん知っているよ。だが、おまえが知っているかどうか、ためしてみるんだ。さあ、どこだ。いってみろ。」
「きまってるじゃありませんか。いつも、かしらが、いちばんだいじなものをしまっておく、その戸棚(とだな)ですよ。」
「うん、そうか、ここだな。だが、かぎがかかっている。おまえはかぎがどこにあるか知っているか。」
「つくえのひきだしですよ。右がわのいちばん上のひきだしの、手帳の間にはさんであるのを、かしらは忘れたんですかい。」
「忘れるもんか。ちょっと、おまえを、ためしてみたんだよ。よしっ、それじゃあ、もう用はない。あっちへいってよろしい。」
 部下の男は、そのまま、ひきさがっていきました。道化仮面をかぶって、首領とそっくりのかっこうをしているので、これが明智探偵の変装だなどとは、うたがってさえみなかったのです。
 明智はそのかぎをだして、戸棚をひらき、(むらさき)のふろしきにつつんだ「星の宝冠」の箱を取りだし、それをひらいて中をあらためました。
 キラキラと星のようにきらめく、無数の宝石をちりばめた黄金の宝冠です。さすがの名探偵も、そのうつくしさに、しばらくは、ぼんやりと見とれているばかりでした。
 明智はそれをもとどおりにつつんで、こわきにかかえると、また後部甲板へとびだしていきました。とちゅうで、部下たちの船室の窓の前をとおりましたが、だれも首領をうたがうものはありません。
 甲板のはずれにたって、まっくらな海を見おろしますと、ちょうどボートが汽船をひとまわりして、帰ってきたところでした。明智は道化仮面の顔を、ふなべりからつき出すようにして、ボートの部下たちに見せました。
「かしらあ、だめですよう。いくらさがしても、なんにもいませんよう。明智のやつ、サメにでも、くわれちゃったんでしょう。」
 ボートから、部下のさけぶ声が聞こえてきました。
「よろしい。それじゃあ、もうさがすのをやめて、あがってこい。」
 明智は首領の声をまねて、命令しました。
 すると、三人の部下はボートを船尾からさがっている(つな)にくくりつけて、なわばしごをつたって甲板へあがってきました。
「やあ、ごくろう。部屋にはいって、いっぱいやるがいい。……明智先生、とうとうおだぶつとはいいきみだ。これでもう、じゃまものが、なくなってしまったから安心して仕事ができるというもんだ。」
 明智はあくまで賊の首領になりすまして、ふてぶてしく、こんなことをつぶやいてみせるのでした。
 部下たちが船室へはいってしまうと、明智は、さっき、かれらがあがって来た、なわばしごをつたって、下のボートへとおりていきました。
 名探偵はこうして、まんまと、目的をはたしたのです。敵にとらわれの身となりながら、賊の首領だけをそっとたおして、首領になりすまし、有馬さんの「星の宝冠」をとりもどして、ボートにのりうつることができたのです。
 ボートにのりうつると、綱をといて、まっくらな海の上を、東京の方角にむかってこぎはじめました。さいわい、波はありません。大きなうねりが、のたりのたりと、うってくるばかりです。
 大きなオールを、ひとりで二本あやつるのはむずかしいので、明智はくふうをして、一本のオールを和船(わせん)のろのようにつかって、ボートをこぎました。
 みるみる、汽船との間がへだたっていきます。
 二百メートル、三百メートル、そして、五百メートルもへだたったころには、大きな汽船の姿さえ夜のやみにとけこんで、はっきりとは見えなくなってしまいました。


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