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假面恐怖王-黄金假面人
日期:2022-01-30 13:52  点击:236

黄金仮面


 それから一月ほどは、なにごともなく過ぎさりました。そして、ある日のことです。京都市の三十三間堂(げんどう)に、ふしぎな事件がおこりました。
 三十三間堂の細長いお堂の中には、おまいりの人の通路を残してお堂いっぱいに、ピカピカひかる金色の、人間とおなじぐらいの大きさの仏像が何百というほど、びっしりならんでいます。
 その夕方、小学校六年生のふたりの少年、高橋(たかはし)君と丸山(まるやま)君とが、お堂の中の通路を歩いていました。もう、うすぐらくなっているので、おまいりの人もみんな帰ってしまい、ガランとしたお堂の中には、ふたりの少年のほかには人の姿もないのでした。
 しかし、人間はいなくても、人間とおなじ大きさの金色の仏像が、いくえにも、かさなりあって、かぞえきれないほど立ちならんでいるのです。
 その何百という金色の仏像が、だまりこんで、身動きもしないで、夕やみの中にむらがっているようすは、なんともいえないぶきみさです。
「もう、帰ろうよ。だれもいなくなってしまったじゃないか。」
 丸山君が、心ぼそそうにいいました。
 すると高橋君は、ふっと立ちどまって、びっくりしたような顔で、むらがる仏像のまんなかへんを見つめました。
「高橋君、どうしたの? なにをそんなに見つめているんだい?」
 丸山君が聞きますと、高橋君は、シーッというように口の前に指を立てて、目で、そのほうを、さししめしました。
 丸山君は高橋君の目を追って、仏像のむれの中を見ました。
 おやっ! これはどうしたのでしょう。ウジャウジャ集まっている仏像のまんなかに、一つだけ、まったくちがったすがたの仏像が立っているではありませんか。
 それは、ほかの仏像よりもからだが大きいので、よく見れば、すぐわかるのですが、頭にはインド人のターバンのような金色の(ぬの)をまきつけ、金色のダブダブのマントのようなものを着ています。顔はむろん金色ですが、ほかの仏像より大きな顔で、お(のう)の面のように、うすきみがわるいのです。
 気のせいか、そのへんな仏像は、黄金の顔で、じっとこちらを見かえしているようです。二少年はその仏像と、長い間にらめっこをしていました。
 すると、ゾーッとするようなことがおこったのです。へんな仏像のからだがユラユラと動きました。そして、黄金の顔のくちびるがキューッと三日月形にめくれあがって、ほそい黒いすきまができました。笑ったのです。黄金の顔が、ニヤニヤと笑ったのです。
 二少年は、あまりのおそろしさに、からだがすくんだようになってしまいましたが、高橋君は勇気をだして、丸山君の手をひっぱって、へんな仏像の見えないところまで、つれていきました。そして耳に口をあてるようにして、ささやくのでした。
「あいつ、見たかい。仏像じゃないよ。生きているんだよ。身動きしたじゃないか。そして、ぼくらのほうを見て笑ったじゃないか。」
「うん、そうだよ。あやしいやつだねえ。おばけかしら?」
「おばけなんて、この世にいるはずないよ。あいつ、悪者にちがいないよ。金色の姿をして仏像の中にかくれて、なにか、わるだくみをしているんだよ。ぼくたち、ここから、のぞいていよう。あいつ、もっと動くかもしれないからね。」
 二少年は、ものかげに身をかくして、そっと、のぞいて見ることにしました。
 少年たちの考えは、あたりました。そのへんな仏像みたいなやつは、動きだしたのです。
 その怪人はむらがる仏像をかきわけて、おまいりの人の通路へ出て来ました。それで全身があらわれたのですが、金色のマントの下には、ぴったり身についた金色のシャツと、金色のズボンをはき、くつまで金色でした。
 怪人は、通路のまんなかを、ゆうゆうと歩いていきます。二少年は遠くはなれて、そのあとをつけました。
「おい、あいつ、黄金仮面だよ。」
 高橋君は、尾行をつづけながら、丸山君にささやきました。
「ぼく、いつか、『黄金仮面』という本を読んだことがある。その本についていた写真が、あいつと、そっくりだったよ。その黄金仮面は、フランスの大どろぼうのアルセーヌ=ルパンがばけていたんだが、ルパンはもう死んじゃったから、あいつはルパンじゃないよ。きっと、むかしのルパンのまねをして、黄金仮面にばけているんだよ。」
 ああ、黄金仮面。そのむかし、日本じゅうをふるえあがらせた、あの怪人黄金仮面が、もう一度あらわれたのです。そして、いま、目前をむこうへ歩いていくのです。
 二少年は、なんだか、おそろしいゆめを見ているような気がしました。
 お堂の入口には、番人がいるのですが、黄金仮面は平気な顔で、その前をとおりすぎました。
 番人は、ギョッとして、立ちすくみ、あまりのことに口をきく力もありません。
 怪人はお堂を出ると、一度も、ふりむかないで、ゆっくり歩いていましたが、二少年が、ついゆだんをしてそのうしろへ近づいたとき、ヒョイとこちらをふりかえりました。
 そして笑ったのです。あのきみのわるい三日月形の口で、ニヤニヤと笑ったのです。
 二少年は、そこに立ちすくんだまま、身動きもできません。まっさおになって、あいての金色の顔を見つめているばかりです。
 すると、みょうな、しわがれ声が聞こえてきました。黄金仮面が、ものをいったのです。
「ウフフフフ……、おい、きみたち、おれをつけてくるとは、なかなか、勇気があるねえ。だが、だめだよ。おれは人間じゃないんだからね。鳥のようにじゆうじざいに、空がとべるんだからね。きみたちにはどうすることもできないよ。ウフフフフ……。」
 そういったかとおもうと、怪人は、クルッと、むこうをむいて、サーッとかけだしました。金色のマントを、うしろになびかせて、まるで魔物のような早さで走るのです。そして、あっとおもうまに、うすぐらい夕やみの中へ、姿を消してしまいました。
 あいてが見えなくなると、二少年は、やっと正気をとりもどして、そのあとを追いました。すこしいくと、高さ三十メートルもあるような、大きなシイの木が立っていました。
 見あげると、風もないのに、シイのこずえがユラユラと、ゆらいでいます。
「へんだねえ。あいつ、この木の上へ、のぼっていったんじゃないだろうか。」
 高橋君がいいました。
 すると、そのとき、お堂のほうから、白いきものに、腰ごろもをつけた番人の若いぼうさんが、いきせききってかけつけてきました。
「おい、きみたち、いまの金色のばけものは、どこへいった。おまわりさんをよんで、とっつかまえなけりゃあ……。」
 高橋君はシイの木のてっぺんをゆびさして、答えました。
「あれ、あんなに木がゆれているでしょう。あいつが、あそこへのぼったのかもしれない。」
 ぼうさんは手をかざして、シイのこずえを見あげましたが、夕やみにつつまれているので、はっきりはわかりません。
 そのときです。木のてっぺんが、ひときわはげしくざわめいたかと思うと、そこから空中に、サーッと金色のものが、とびだしたではありませんか。
 ああ、あいつです。黄金仮面が、空をとんでいくのです。
 怪人は、高い空中を、からだをよこにして、両手をまっすぐに前にのばし、まるで水の中を泳ぐような形で、とんでいます。金色のマントが、ヒラヒラとはためいて、映画のスーパーマンと、そっくりです。金色のスーパーマンが夕やみの空を高く、高く、とんでいくのです。
 二少年とぼうさんとは大きな口をあいて、あっけにとられて、それを見あげていましたが、黄金仮面はみるみる、遠ざかっていき、だんだん、そのすがたが小さくなり、ついには、一つの金色の星のようになって、そのままスーッと、夕やみの空に消えていってしまいました。
 あくる日の新聞が、その怪事件を大きく書きたてたことは、いうまでもありません。
 高橋、丸山の二少年は、学校でみんなにとりかこまれ、黄金仮面の話を、なんどとなく、せがまれるのでした。

 


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