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假面恐怖王-银幕上的血
日期:2022-01-30 13:52  点击:236

三日月の笑い


 それから一週間ほどのち、舞台は東京にうつって、またしても、おそろしい事件がおこりました。
 ある夜、少年探偵団員の木下(きのした)君と宮島(みやじま)君が、世田谷(せたがや)区のクイーンという小さな映画館の客席に、腰かけていました。
 このふたりは小学校六年生で、まだ少年探偵団にはいったばかりでしたが、正式の団員ですから、むねには、とくいそうにB・Dバッジをつけていました。
 なぜそんな小さな映画館にはいったかといいますと、そこには「むかしなつかしき、おもいでの映画週間」というかんばんが出ていて、こんやは十年も前に大ひょうばんだった「黄金仮面」の古い映画が上映されていたからです。
 あの京都の高橋少年が読んだという、ルパンのばけた「黄金仮面」の本が映画になったものです。ふたりの少年は、その本を読んでいましたけれど、映画は一度も見ていなかったので、クイーン映画館のかんばんを見ると、さっそく見物することにしたのです。
 まず上野公園の博覧会にちんれつしてあった、何千という真珠の玉を集めてこしらえた、三十センチほどの小さい塔を黄金仮面がぬすみだすところから始まって、だんだん場面がすすんでいきましたが、ある場面で、黄金仮面の顔だけがスクリーンいっぱいに大うつしになりました。
 ふつうの人間の何千倍もあるような、とほうもなく大きな顔です。しかもそれが金の顔で、お能の面のように、うすきみわるい形をしているのです。
 その顔が口を三日月形にキューッとまげて、ニヤニヤと笑いました。口のところが三日月形の、ほそい穴になって、そのおくに歯や舌があるのでしょうが、なにも見えず、まっ黒なのです。
 そこでは音楽もやんでしまって、なんの音も聞こえません。見物席はかたずをのんで、シーンと、しずまりかえっています。
 そのしずけさをやぶって見物席のすみから、キャーッという、ひめいがおこりました。女の人があまりのおそろしさに、おもわず、さけび声をたてたのです。
 見物人たちは、その声にゾーッとふるえあがりましたが、てれかくしのように、ほうぼうに笑い声とざわめきがおこりました。見物人というものは、こわいときに笑うものです。
 つぎのしゅんかん、その笑い声がピタリと、とまってしまいました。画面におそろしいことがおこったからです。
 黄金仮面がスクリーンいっぱいに笑っている、その三日月形の口の右のすみから、まっかな液体がタラタラとながれおちたのです。その映画はカラー映画でなくて、白黒の映画なのです。その色のない画面に、とつぜん、まっかな色の液体がながれたのです。
 血です。
 うすきみのわるい三日月形の口から、血がながれおちたのです。そして、その血だけが、まっかな色をしていたのです。
 黄金仮面はまだ笑っています。声のない笑いを、笑っています。そして、その口から血をはいているのです。
 カラー映画でなくても、フィルムの一枚一枚を虫めがねで見ながら、小さく色をぬれば、こんなふうに見えるかもしれません。しかし、色が出したければカラー映画をとればいいのですから、いまどき、そんなてまのかかることをするはずがありません。
 じじつ、その映画には色はまったくついていなかったのです。それが、こんやにかぎって、まっかな血がながれだしたのです。
 見物人はギョッとして逃げごしになって、席から立ちあがりました。それより、もっとおどろいたのは映写技師です。
 血を見るとびっくりして、機械をとめてしまったのです。そしてフィルムをはずして、よくしらべるために、そのあいだ場内の電灯をつけました。
 スクリーンの大うつしがぱっと消えて、見物席があかるくなりました。
 見物人のひとりひとりが、じぶんは気がちがったのではないかと思いました。あんなおそろしい映画があるはずはないからです。
 ですから、スクリーンの画面が消えて、場内があかるくなったときには、ゆめからさめたような気持でした。
 少年探偵団員の木下君と宮島君も見物席の前のほうで、この怪映画を見たのですが、これはなにか犯罪にかんけいがあるかもしれないと思ったので、こわさもわすれて、キョロキョロと場内を見まわすのでした。
 そのときです。
 見物席にワーッというような、どよめきがおこりました。そして、てんでに席を立って、映画館の入口のほうへ逃げだそうとしました。
 それもむりはありません。スクリーンの前の舞台のうえに、おそろしいことがおこっていたのです。
 ああ、ごらんなさい。スクリーンの前に、なんともえたいの知れぬ怪物が、のこのこと、あらわれてきたではありませんか。
 それは映画の中の黄金仮面とそっくりのやつでした。スクリーンからぬけだして実物になって、あらわれたとしかおもわれませんでした。
 金色の顔、頭には金色のターバン、金色のマント、金色のズボン、金色のくつ。そいつがスクリーンの前にたちはだかって、見物席を見おろしているのです。
 映画館の人は客席のうしろから、それを見ると、あおくなって、一一〇番へ電話をかけました。
 すると、三分とたたないうちに近くをまわっていたパトロールカーがかけつけ、ふたりのおまわりさんが、映画館の中へとびこんできました。
 それからのさわぎは、どう書いたらいいのか、わからないほどでした。
 ふたりの警官は廊下をとおって、舞台にかけあがりました。
 それといきちがいに、黄金仮面はヒラリと客席にとびおり、いすのあいだを入口のほうへ走るのです。
 まだ残っていた見物人たちは、黄金仮面につかまったらたいへんだと、身をよけて通り道をあけてやります。そのためにうしろにいた人たちがころんでしまい、こどものなき声、女の人たちのひめいで、なんともいえないさわぎです。
 木下、宮島の二少年もその中にいましたが、いくら少年探偵団でも、この怪物にであっては、どうすることもできません。ただ、さわぎをながめているばかりです。
 黄金仮面は客席をつっきると、おもてへは出ないで、二階の見物席への階段をかけのぼり、二階のおもてがわの窓をやぶって、ひさし屋根に出ました。
 おもての道路は、逃げだした見物人たちと通りがかりの人たちで、いっぱいになり、自動車が何台も動けなくなっているのです。
 黄金仮面はその群衆を見おろして、あの三日月形の口でニヤニヤと笑いました。そして、ひさし屋根の一方のすみまでいくと、そこにさがって来ている大屋根のはしに手をかけ、ヒラリととびのって、いまにもすべりおちそうな大屋根の上を金色のトカゲのように、はいあがっていくのです。
 ふたりのおまわりさんは窓のそとに出て、ひさし屋根まで来ましたが、とても大屋根へはのぼれません。黄金仮面はかるわざ師のように身がかるいので、ふつうの人間に、そのまねができるはずはないのです。
 それから、しばらくすると、映画館の前に集まって、屋根を見あげていた群衆の中から、ワーッという声がわきあがりました。
 みんな、夜の空を見あげて、さけんでいるのです。大屋根よりも、もっと高い空を見ているのです。いったい、なにがおこったのでしょう。
 おお、またしても、空中飛行です。黄金仮面は金色のマントをひるがえして、夜の大空を、南をさして一直線にとんでいくのです。スーパーマンのように、とんでいくのです。
 空には、かずしれぬ星が、またたいていました。その下を、星よりもうつくしくひかる黄金の鳥人(ちょうじん)が、おそろしい早さでとんでいくのです。
 そして、あれよあれよと見るまに、黄金仮面の姿は、たちまち小さくなり、またたく星の間にまぎれこんで見えなくなってしまいました。


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